昭和56年06月18日最高裁判所第一小法廷昭和53年(オ)第1373号
建物所有権保存登記抹消登記手続請求事件

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主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。

理由

 上告代理人松本昌道、同正田茂雄、同川名照美、同岡田弘隆の上告理由について
 建物の区分所有等に関する法律一条にいう構造上他の部分と区分された建物部分とは、建物の構成部分である隔壁、階層等により独立した物的支配に適する程度に他の部分と遮断され、その範囲が明確であることをもつて足り、必ずしも周囲すべてが完全に遮蔽されていることを要しないものと解するのが相当である。そして、このような構造を有し、かつ、それ自体として独立の建物としての用途に供することができるような外形を有する建物部分は、そのうちの一部に他の区分所有者らの共用に供される設備が設置され、このような共用設備の設置場所としての意味ないし機能を一部帯有しているようなものであつても、右の共用設備が当該建物部分の小部分を占めるにとどまり、その余の部分をもつて独立の建物の場合と実質的に異なるところのない態様の排他的使用に供することができ、かつ、他の区分所有者らによる右共用設備の利用、管理によつて右の排他的使用に格別の制限ないし障害を生ずることがなく、反面、かかる使用によつて共用設備の保存及び他の区分所有者らによる利用に影響を及ぼすこともない場合には、なお建物の区分所有等に関する法律にいう建物の専有部分として区分所有権の目的となりうるものと解するのが相当である。
 これを本件についてみるに、原審が適法に確定した事実によれば、(1) 本件車庫は、本件建物の一階正面ロビーから向つて左側の一階部分に位置し、向つて左側の壁は本件建物の外壁となつているが、向つて右側の壁は、車庫の入口の柱の部分から約三分の一が本件建物の外壁であつて、残余の部分が前記ロビーと境を接する外壁となつている、(2) 本件車庫の奥は、本件倉庫との間の道路部分及び電気室と接しているが、その部分はブロツクの壁で遮られ、右通路及び電気室に通ずる幅、高さそれぞれ約二メートルの二か所の入口があるが、その入口にはそれぞれ引戸式の鉄製扉がとりつけられている、(3) 本件車庫の入口には、両側の壁に接してそれぞれ本件建物を支える七階まで通しの鉄筋コンクリート製の幅約七〇センチメートルの角柱があり、その柱と柱との間には等間隔をおいて右と同様の柱が二本立つており、右各柱には、車両の出入を遮断するため、腕木式に九〇度上下できるように一端を柱に取りつけた長さ約二・四メートルの鉄パイプが設置されている、(4) 本件車庫は、車庫として利用され、右利用にあたつては、本件車庫から本件建物の外部に直接出ることが可能である、(5) 本件車庫の壁の内側付近二か所に臭気抜きの排気管が取りつけられており、また、出入口付近の床の三か所に排水用のマンホールが設置されており、右排気管及びマンホールは、いずれも本件建物の共用設備であるが、本件車庫のうちのきわめて僅かな部分を占めるにすぎず、かつ、これらが本件車庫内に存在するために本件建物の管理人が日常本件車庫に出入りする必要が生ずるわけでもない、というのである。
右事実関係のもとにおいては、本件車庫が、建物の区分所有等に関する法律にいう、一棟の建物のうち構造上他の部分と区分され、それ自体として独立の建物としての用途に供することができる建物部分であり、建物の専有部分として区分所有権の目的となるものとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    中   村   治   朗
            裁判官    団   藤   重   光
            裁判官    藤   ア   萬   里
            裁判官    本   山       亨
            裁判官    谷   口   正   孝


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