マンションの判決例

kzの独断と偏見による最高裁ホームページに掲載されたマンション判決例の解説のページです。

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    1.管理組合・権利能力・当事者適格
  1. 平成18年09月08日東京地方裁判所平成17年(行ウ)第386号裁決取消請求事件(甲事件),平成17年(行ウ)第435号建築認定処分取消請求事件(乙事件)
    マンション隣地の建築計画に反対する管理組合が行政庁の行った建築基準法の接道義務緩和認定処分に対して無効確認を請求した事例
    • 行政事件訴訟法9条は取消訴訟の原告適格について規定するが,同条1項にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは,当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり,当該処分を定めた行政法規が,不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には,このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり,当該処分によりこれを侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者は,当該処分の取消訴訟における原告適格を有する。
    • 認定に係る建築物の火災等による被害が直接的に及ぶことが想定される周辺の一定範囲の地域に存する他の建築物についてその居住者の生命,身体の安全等及び財産としてのその建築物を,個々人の個別的利益として保護すべきものとする趣旨を含み、認定に係る建築物の火災等により直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域に存する建築物に居住し,又はこれを所有する者は,当該認定の取消しを求めるにつき法律上の利益を有するものと解するのが相当である。
    • 建物並びにその敷地及び付属施設の管理を行うための区分所有者の団体である原告(管理組合)が,生命及び身体の安全等という法律上の利益を有していると認めることはできず,また,区分所有建物を所有しているものでもない原告が,財産としての建築物という法律上の利益を有しているということもできない。
    • 区分所有法は,区分所有者の団体と管理者とを明確に区別しており(同法3条,25条等参照),規約において区分所有者の団体の代表者を管理者とする旨の規定があるとしても,それにより直ちに区分所有者の団体自体が管理者となるわけではない。
    • 個々の区分所有者につき本件認定の取消しを求める法律上の利益が認められる場合においては,個々の区分所有者が本件認定の取消しを求める訴えを提起すれば足りること,管理者以外に区分所有者の団体自体に任意的訴訟担当を認める必要性は乏しいこと,前記認定事実のとおり,規約39条によると,原告代表者は,区分所有法25条に定める管理者とされていることなどを総合して考慮すると,原告に任意的訴訟担当を認める合理的必要があるということはできない。
    解説

  2. 平成6年10月28日大阪地方裁判所平成6年(行ウ)第20号道路工事施行承認無効確認請求,緑地回復工事請求事件
    他のマンション分譲業者が市の認可を受けて自己の販売するマンションの進入路に改修したことについて、団地管理組合が緑地としての保存義務に反するとして市長に対して認可無効と市に対して緑地への原状回復を請求した事例。
    • 処分の無効確認の訴えは、「当該処分の無効の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者」(行訴法三六条)に限り提起することができ、「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、かかる利益も右にいう法律上保護された利益に当たり、当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は、当該処分の取消訴訟における原告適格を有する。
    • 原告は団地管理組合法人であり、その目的は、「団地内の土地、附属施設及び専有部分のある建物の管理を行うこと」であり、団地管理組合は、右の目的の範囲内で権利を有し、義務を負うに過ぎず、管理の対象となる団地内の土地とは、法律上当然に管理対象となる団地内の数棟の建物の区分所有者(本件の場合、団地内の数棟の建物はすべて区分所有建物である。)の共有に属する土地(区分所有法六六条、一七条、一八条)と、規約に基づく管理対象となる団地内の一部の建物の区分所有者の共有に属する団地内の土地(同法六八条一項一号、六六条、三〇条一項)に限定され、本件土地は、被告市が所有する公衆用道路の一部であるから、団地管理組合法人の管理の対象となる団地内の土地に該当しないことはいうまでもなく、本件土地に関して団地管理組合法人が被告市に対して何らかの請求権を取得することはその目的の範囲外の行為である。
    解説

  3. 平成11年08月31日東京高等裁判所平成8年第2630号預金返還請求・各当事者参加事件
    倒産した管理会社の管理費等保管口座が管理組合のものと認定された事例。
    • 預金者の認定については、自らの出捐によって、自己の預金とする意思で、銀行に対して、自ら又は使者・代理人を通じて預金契約をした者が、預入行為者が出捐者から交付を受けた金銭を横領し自己の預金とする意図で預金をしたなどの特段の事情がない限り、当該預金の預金者であると解するのが相当である。
    • 本件各定期預金の原資である管理費等は、管理規約及び管理委託契約に基づいて区分所有者から徴収し、保管しているものであって、各マンションの保守管理、修繕等の費用に充てられるべき金銭であり、本件各定期預金の出捐者は、それぞれのマンションの区分所有者全員であるというべきであるから、本件各定期預金の預金者は、各マンションの区分所有者の団体である管理組合であり、区分所有者全員に総有的ないし合有的に帰属すると認めることができる。
    解説

    2.専有部分

  4. 昭和56年06月18日最高裁判所第一小法廷昭和53年(オ)第1373号建物所有権保存登記抹消登記手続事件
    1.一方が開放されている駐車場が専有部分にあたるとされた事例。2.専有部分内に共用設備が設置されていても専有部分足りうるとされた事例。
    • 建物の区分所有等に関する法律一条にいう構造上他の部分と区分された建物部分とは、建物の構成部分である隔壁、階層等により独立した物的支配に適する程度に他の部分と遮断され、その範囲が明確であることをもつて足り、必ずしも周囲すべてが完全に遮蔽されていることを要しないものと解するのが相当である。
    • 建物部分は、そのうちの一部に他の区分所有者らの共用に供される設備が設置され、このような共用設備の設置場所としての意味ないし機能を一部帯有しているようなものであつても、右の共用設備が当該建物部分の小部分を占めるにとどまり、その余の部分をもつて独立の建物の場合と実質的に異なるところのない態様の排他的使用に供することができ、かつ、他の区分所有者らによる右共用設備の利用、管理によつて右の排他的使用に格別の制限ないし障害を生ずることがなく、反面、かかる使用によつて共用設備の保存及び他の区分所有者らによる利用に影響を及ぼすこともない場合には、なお建物の区分所有等に関する法律にいう建物の専有部分として区分所有権の目的となりうるものと解するのが相当である。
    解説

  5. 昭和56年07月17日最高裁判所第二小法廷昭和55年(オ)第554号所有権保存登記抹消等請求事件
    4方の一方が開放され、床に共用のマンホール等がある駐車場用途の建物部分を、専有部分(他に共用設備の利用、管理によつて本件車庫の排他的使用に格別の制限ないし障害を生ずる特段の事由がない限り)と認定した事例。
    • 一棟の建物のうち構造上他の部分と区分され、それ自体として独立の建物としての用途に供することができるような外形を有する建物部分であるが、そのうちの一部に他の区分所有者らの共用に供される設備が設置され、このような共用設備 の設置場所としての意味ないし機能を一部帯有しているようなものであつても、右の共用設備が当該建物部分の小部分を占めるにとどまり、その余の部分をもつて独立の建物の場合と実質的に異なるところのない態様の排他的使用に供することができ、かつ、他の区分所有者らによる右共用設備の利用、管理によつて右の排他的使用に格別の制限ないし障害を生ずることがなく、反面、かかる使用によつて共用設備の保存及び他の区分所有者らによる利用に影響を及ぼすこともない場合には、なお建物の区分所有等に関する法律にいう建物の専有部分として区分所有権の目的となりうるものと解するのが相当である。
    解説

  6. 平成5年02月12日最高裁判所第二小法廷平成2年(オ)第1369号所有権保存登記抹消登記手続等請求事件
    共用部分である狭い管理人事務室とガラス戸で隔てただけの管理人室が共用部分であると認定した事例。
    • 本件管理人室は管理事務室と合わせて一体として利用することが予定されていたものというべきであり、両室は機能的にこれを分離することができないものといわなければならない。そうすると、本件管理人室には、構造上の独立性があるとしても、利用上の独立性はないというべきであり、本件管理人室は、区分所有権の目的とならないものと解するのが相当である。
    解説

  7. 最高裁判所平成9年(オ)第1927号 建物共用部分確認等請求事件
    躯体部分であるコンクリートスラブを貫通してその階下にある排水管が区分所有者全員の共用部分に当たるとされた事例。
    • 707号室の台所、洗面所、風呂、便所から出る汚水については、同室の床下にあるいわゆる躯体部分であるコンクリートスラブを貫通してその階下にある607号室の天井裏に配された枝管を通じて、共用部分である本管(縦管)に流される構造となっているところ、本管に合流する直前で708号室の便所から出る汚水を流す枝管が接続されており、コンクリートスラブの下にあるため、707号室及び708号室から本件排水管の点検、修理を行うことは不可能であり、607号室からその天井板の裏に入ってこれを実施するほか方法はない。右事実関係の下においては、本件排水管は、その構造及び設置場所に照らし、建物の区分所有等に関する法律2条4項にいう専有部分に属しない建物の附属物に当たり、かつ、区分所有者全員の共用部分に当たると解するのが相当である。
    解説

    3.共用部分・敷地
  8. 平成14年7月16日判決言渡 青梅簡易裁判所 平成14年(ハ)第59号 修繕費請求事件
    管理組合に対する雨漏れで蒙った損害の賠償請求が否定された事例。
    • 区分所有者により構成された管理組合は,区分所有権の対象である建物の管理をする権限と責任とを有する。特に,建物に雨漏りがある場合は,建物全体の耐久性・資産価値に関わることなので,管理組合は,区分所有者の協力を得て,雨漏りの原因調査と雨漏り防止工事をしなければならない。
    • 管理組合がその責任を果たさないために損害が発生した場合には,損害を受けた区分所有者に対して損害賠償責任を負うことがある。このことは,その区分所有者が区分所有権を競売により得た場合であっても同様である。
    解説

  9. H15. 6.17 福岡高等裁判所 平成15年(ネ)第171号 通行の妨害物撤去等請求控訴事件
    エントランス奥の店舗所有者がエントランスドアをオートロックにしたのは共用部分の変更が専有部分の使用に特別の影響を及ぼすとしてその撤去を求めた請求が否定された事例。
    • 「専有部分の使用に特別の影響を及ぼすとき」とは,共用部分の変更等の必要性及び合理性とこれによって一部の区分所有者が受ける不利益とを比較衡量し,当該区分所有関係の実態に照らして,その不利益が区分所有者の受忍すべき限度を超えると認められる場合をいうものと解するべきである。
    • 共用部分の変更が,一部の区分所有者の専有部分の使用に影響を及ぼすことは,種々の場合にあり得ることであって,そうした一部の者の被る不利益に配慮することは必要なことではあるが,そうした場合をすべて同条項にいう特別の影響を及ぼす場合とみて,その区分所有者の個別の承諾を得なければならないものと解するときは,区分所有者全体の共同利益となる共用部分の変更等が円滑にできない結果となり,その変更の必要性,合理性からみて,不都合な結果が生ずることがありうるから,上記のような利益衡量の結果,一部の専有部分所有者の被る不利益が受忍すべき限度を超えると認められる場合にのみ,特別の影響が及ぶものとして,その専有部分所有者の個別の承諾を要するものと解されるのである。
    • 入居者が決まって子機の設置場所が指定されれば,被控訴人において速やかに子機や郵便受けを設置する用意があること,外部から本件オートロックを解錠するために必要な操作盤に打ち込むべき暗証番号は,管理委託会社に問い合わせることにより容易に入手することができることを考え合わせると,本件オートロックの設置により控訴人が受ける不利益は,これまでオートロック等の設備がなかったことにより本件マンションの入居者が被った様々な被害や迷惑行為に照らしての同設備の必要性,設置場所の合理性や本件物件の従前の利用状況など区分所有関係を巡る諸事情からみて,区分所有者の受忍すべき限度を超えるものとは認められないというべきである。
    解説

  10. H13.10.17 東京高等裁判所 平成12年(ネ)第4226号 地役権確認等請求控訴事件
    大型マンションの各戸の区分所有者である控訴人らが、被控訴人ら先代とマンション分譲業者間においてマンション敷地を要役地・これに隣接する被控訴人ら先代所有地を承役地として通行のための地役権設定契約が締結され、右地役権をマンション各戸の分譲を受けた控訴人らがマンション敷地に設定されている地上権とともに承継取得したことを理由に、地役権の存在を否定する被控訴人らに対し、地役権の存在確認と、地役権に基づく妨害排除として承役地に設置されたブロック塀等の撤去等が認められた事例。
    • 本件規定が本件地上権設定契約に係る本件契約書中に本件地上権設定契約に関する規定中に折り込まれて定められていることにかんがみると、本件マンション敷地を要役地、本件承役地及び北側通路敷地を承役地とし、目的、期間及び対価を別紙地役権目録記載のとおりとする地役権設定契約が本件地上権設定契約の締結と同時に締結されたものと認めるのが相当である。
    • 被控訴人Aがc番kの土地の本件承役地部分につき本件地役権の時効消滅を主張することは、信義則に反し権利の濫用として許されない。
    解説

  11. 平成19年12月10日東京簡易裁判所平成19年(少コ)第2729号立替金等請求事件(少額訴訟判決)
    床下配水管の水漏れ補修費を支出した当該部分の区分所有者が管理組合に対し、共用部分の補修日の立替金として請求した事例。
    • 本件マンションの管理規約,使用細則第8条によれば、「対象物件のうち共用部分の範囲は,専有部分を除く部分とする。」と定められ,また,同第18条によれば「敷地及び共用部分等の管理については,管理組合が責任と負担においてこれを行うものとする。」と定められていることからすると,本件配水管の亀裂した箇所は共用部分であり,その修繕義務は被告(管理組合)がこれを負担するものと認められる
    解説

    4.管理規約

  12. H14.11. 5 神戸地方裁判所 平成14年(レ)第90号 管理費等請求控訴事件
    規約別表で明記された管理費額の改定が規約の変更に当たらないとされた事例。
    • 「(1) 管理費・・・・管理規約 別表 4-1・2」,「(2) 修繕積立金・・・・管理規約 別表 4-1・2」と記載されているから,管理費及び修繕積立金の額が本件規約により定められているようにも思われるが、規約51条は,管理費等の額や規約の変更等については総会の決議を経なければならないものとしている(3,4号)ところ,同50条3項は,規約の変更に関する総会の議事は,組合員総数の4分の3以上及び議決権総数の4分の3以上で決するものとし,他方,管理費等の額については,このような特別決議の対象事項とはされていないことが認められ,これが総会において特別決議の方法により決議することとされたことを窺わせる証拠はない。
    • 管理費及び修繕積立金の額が本件規約により定められているものと解すると,総会においてこれらの額を決定することは規約の変更に当たることになるが,これは,同51条が規約の変更とは別に管理費等の額について規定し,同50条3項が規約の変更について管理費等の額とは異なる扱いをしていることと矛盾するから,そのような解釈は採用することができない。
    • 本件で総会において管理費及び修繕積立金の額を決定することは規約の変更に当たらず,特別決議を要しないものと解するのが相当である。
    解説

  13. H02.11.26 最高裁判所 平成2(オ)701号 総会決議無効確認請求事件
    区分所有法四七条二項の管理組合法人の理事会への理事の代理出席を認める規約の定めが違法でないとされた事例。
      管理組合では、複数の理事を置くか否か、代表権のない理事を置くか否か(法四九条四項)、複数の理事を置いた場合の意思決定を理事会によって行うか否か、更には、理事会を設けた場合の出席の要否及び議決権の行使の方法について、法は、これを自治的規範である規約に委ねているものと解するのが相当である。
    解説

  14. 平成17年(ワ)第19972号東京地方裁判所営業差止等請求事件
    店舗専有部分の営業時間制限が認められなかった事例。
    • 区分所有法30条は,「建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は,使用に関する区分所有者相互間の事項」について,この法律で定めるもののほか,規約で定めることができると規定しているところ,この規定は,専有部分に関してであっても,区分所有者相互間において管理又は使用を調整するために必要な事項については,規約で定めることができるとの趣旨を含むものと解される。そして,区分所有法上,「共用部分の管理に関する事項は,前条(共用部分の変更)の場合を除いて,集会の決議で決する。」(同法18条1項)と規定されているが,専有部分の管理又は使用の調整に関する事項を集会の決議で定めることを許容する規定は置かれていないこと,専有部分については,本来それぞれの所有者がその意思に従って自由に管理及び使用をすべきものであることを考慮すると,専有部分の管理又は使用の調整に関する事項については,集会決議(普通決議)で定めることができず,区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による集会の決議(同法31条1項,以下「特別決議」という)を要する規約でのみ定めることができると解することが,法文の文理に沿う解釈であると考えられる。
    • 区分所有法31条1項後段の「規約の設定,変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきとき」とは,規約の設定,変更等の必要性及び合理性とこれによって一部の区分所有者が受ける不利益とを比較衡量し,当該区分所有関係の実態に照らして,その不利益が区分所有者の受忍すべき限度を超えると認められる場合をいうものと解される。そして,直接に規約の設定,変更等による場合だけでなく,規約の定めに基づき,集会決議をもって専有部分の管理又は使用の調整に関する事項についての決議がされた場合においても,区分所有法31条1項後段の規定を類推適用して区分所有者間の利害の調整を図ることが相当である(最高裁判所平成10年10月30日第二小法廷判決・民集52巻7号1604頁参照。)
    解説

  15. 平成20年5月30日札幌地方裁判所平成18年(ワ)第2099号工事妨害禁止等請求事件
    携帯電話会社の原告が,マンションの屋上の一部を賃借して通信設備等を設置する契約を締結したとして,それに基づく賃借権の確認及び通信設備の設置工事の妨害の禁止等を求めた事例。
    • 区分所有法17条1項は,その文言からも明らかなとおり,物理的な意味での変更のみを対象としており,法律関係の形成にあたる行為は,そもそも同規定が想定している変更にはあたらず,同規定の適用はないというべきである。
    • 管理規約16条2項は,民法602条の期間を超えない賃借権の設定に限られ,その期間を超える賃借権の設定のような処分行為には,適用されないというべきである。
    • 共用部分の管理という目的からすると,本来,共用部分は,区分所有者の共同の利益のために設置されているものであり,第三者に賃貸することは,その本来の目的に従ったとは言い難いこと,民法602条の期間を超える賃借権の設定の権限を区分所有者の団体に委ねなければならない必要性は乏しいこと,これらの賃借権の設定が区分所有者に与える影響は小さくないこと等を考慮すると,区分所有者の団体が決する問題ではなく,個々の区分所有者が共有持分権者として判断すべき問題であり,そもそも,区分所有者の団体が決議できる事項にはあたらないと言うべきであり,このような行為は,本件管理規約や区分所有法に基づいて決するのではなく,民法の原則に基づいて,共有者が全員でこれを行う必要があるというべきである。
    解説

  16. H20.3.25東京簡易裁判所平成19年(ハ)第28255号管理費等請求事件
    新標準管理規約で新設された弁護士費用の損害賠償規定認められた事例。
    • 敗訴者に相手方の弁護士費用を負担させる旨の合意等(本件規約を含む)を定めることは,一律に違法とまではいうべきではなく,既存の法律の趣旨,条項に違反しない限りは,その効力を認めるべきである。
    • 管理費等の未納者に対し規約において違約金を定めることは原告のようなマンション管理組合が区分所有であるマンションを管理運営する上で必要な事項であり,区分所有法30条1項に定める「建物の管理に関する事項」に該当するというべきである。
    • 管理費等の未納者に対しその支払いを求める場合において,事案に応じて,その手続を弁護士に依頼する場合が想定され,弁護士に依頼をすれば相応の弁護士費用がかかることになり,その費用を違約金として規約に定めること自体は合理性があり,区分所有法の趣旨に反するものではないというべきである。
    解説

    5.管理費

  17. H13.10.31 東京高等裁判所 平成13年(ネ)第3618号 管理費等請求控訴事件
    管理費等の消滅時効期間が10年と認められた事例。
    • 管理費等は,原則的には毎月一定額を支払う形になっているものの,共用部分の管理の必要に応じて,総会の決議によりその額が決定され,年単位でその増額,剰余金の管理費組み入れ等による減額等がされることが予定されていることを考慮すると,管理費等については,毎年要する経費の変化に応じてその年額(したがってその12分の1に当たる月額)が定まるものであって,どの年にもその額が一定となるものではないから,区分所有者の管理組合(被控訴人)に対する管理費等の納入義務は,一定の金銭の支払を目的とする債務とはいえない。
    • 管理費等については,「支払がされた場合にもその受取証の保存が怠られがちであって証拠方法の保全が困難である」ということも考え難く,民法169条が短期の消滅時効を定めた目的に照らし,管理費等の支払について同条を適用し,短期の消滅時効にかからせる必要性は乏しい。
    • 管理費等の請求債権を短期の消滅時効にかからせることは,管理組合,ひいては遅滞なく管理費等を支払っている善良な区分所有者のいわれなき負担・犠牲において,管理費等を遅滞している区分所有者を不当に利することになるおそれがあり適当でないといわざるを得ない。
    • 前所有者の7年分の滞納金を特定承継人に請求しても権利の濫用とは認められない。
    解説

  18. H16.04.23 第二小法廷・判決 平成14(受)248 管理費等請求事件(第58巻4号959頁)
    管理費等の消滅時効期間が5年と認められた事例。(前の高裁判決の上告審)
    • マンション管理組合が組合員である区分所有者に対して有する管理費及び特別修繕費に係る債権が,管理規約の規定に基づいて,区分所有者に対して発生するものであり,その具体的な額は総会の決議によって確定し,月ごとに支払われるものであるときは,当該債権は民法169条所定の債権に当たる。
    解説

  19. H14. 6.25 札幌地方裁判所 平成14年(レ)第55号 管理費等請求事件
    1階でもエレベーター管理費の負担義務があるとされた事例。
    • 規約承認販売方法で規約に捺印しなくとも、組合員であることを否定できず、その後設立総会で特別決議による規約の成立が認められる。
    • 自己の都合で共用施設の利用が不要となっても共用施設の負担を免れない。
    解説

  20. H17.4.26 最高裁判所第三小法廷 平成16年(受)第1742号 自治会費等等請求事件
    管理組合に代わり団地の管理を行っている団地自治から退会しても共益費の支払いは免れないとされた事例。
    • 本自治会は会員相互の親ぼくを図ること,快適な環境の維持管理及び共同の利害に対処すること,会員相互の福祉・助け合いを行うことを目的として設立された権利能力のない社団であり,いわゆる強制加入団体でもなく,その規約において会員の退会を制限する規定を設けていないのであるから,会員は,いつでも一方的意思表示により退会することができる。
    • 共益費は,本件団地内の共用施設を維持するための費用であり,各入居者は各共益費を本自治会に対して支払うことを指示され、上告人もこの指示に従って支払ってきた以上、入居するに際し,そこに入居している限り被上告人に対して共益費を支払うことを約したものということができる。
    • したがって,本件退会の申入れが有効であるか否かにかかわらず,上告人の被上告人に対する共益費の支払義務は消滅しない。
    解説

  21. 平成17年03月30日東京高等裁判所平成16年(ネ)第5667号求償金請求事件
    管理費等を滞納していた前所有者から競売で区分建物を取得した特定承継人が、区分法8条に基づき自己の負担した滞納管理費等を前所有者に対してした求償が認められた事例。
    • 区分法8条の趣旨は、集合建物を円滑に維持管理するため,他の区分所有者又は管理者が当該区分所有者に対して有する債権の効力を強化する趣旨から,本来の債務者たる当該区分所有者に加えて,特定承継人に対して重畳的な債務引受人としての義務を法定したものである。
    • 債務者たる当該区分所有者の債務とその特定承継人の債務とは不真正連帯債務の関係にあるものと解されるから,真正連帯債務についての民法442条は適用されないが,区分所有法8条の趣旨に照らせば,当該区分所有者と競売による特定承継人相互間の負担関係については,特定承継人の責任は当該区分所有者に比して二次的,補完的なものに過ぎないから,当該区分所有者がこれを全部負担すべきものであり特定承継人には負担部分はないものと解するのが相当である。
    解説

  22. 平成19年08月07日東京簡易裁判所平成18年(ハ)第20200号管理費等請求事件
    管理費中、未払いの町内会費の請求が認められなかった事例。
    • 町内会費の徴収は,共有財産の管理に関する事項ではなく,区分所有法第3条の目的外の事項であるから,マンション管理組合において多数決で決定したり,規約等で定めても,その拘束力はないものと解すべきである。
    • 管理組合費のうち100円については,実質的に町内会費相当分であって,その部分に関する原告の規約等の定めは拘束力がないのであり,また,区分所有法第3条の趣旨からすると,原告自身が町内会へ入会する形を取ることも,その目的外の事項として,その入会行為自体の効力を認めることはできないものと解されることからすると,これらを根拠に,原告が被告に対し,未払いの町内会費の請求をすることはできないと解すべきである。
    解説

  23. 平成22年01月26日最高裁判所平成20(受)666号協力金請求事件
    不在家主の管理費の割増金を定めた管理組合がその支払を拒絶する組合員に対し、当該割増金の支払いを求めた事例。
    • 法66条が準用する法31条1項後段の「規約の設定,変更又は廃止が一部の団地建物所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきとき」とは,規約の設定,変更等の必要性及び合理性とこれによって一部の団地建物所有者が受ける不利益とを比較衡量し,当該団地建物所有関係の実態に照らして,その不利益が一部の団地建物所有者の受忍すべき限度を超えると認められる場合をいう。
    • マンションの管理組合を運営するに当たって必要となる業務及びその費用は,本来,その構成員である組合員全員が平等にこれを負担すべきものであって,管理組合が,その業務を分担することが一般的に困難な不在組合員に対し,規約変更により一定の金銭的負担を求め,マンションにおいて生じている不在組合員と居住組合員との間の不公平を是正しようとしたことには,その必要性と合理性が認められないものではない。
    • 規約変更の必要性及び合理性と不在組合員が受ける不利益の程度を比較衡量し,加えて,不利益を受ける多数の不在組合員のうち,現在,住民活動協力金の趣旨に反対してその支払を拒んでいるのは,不在組合員が所有する専有部分約180戸のうち12戸を所有する5名の不在組合員にすぎないことも考慮すれば,本件規約変更は,住民活動協力金の額も含め,不在組合員において受忍すべき限度を超えるとまではいうことができず,本件規約変更は,法66条,31条1項後段にいう「一部の団地建物所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきとき」に該当しない。
    解説

    6.修繕積立金

  24. H13.10.16 京都地方裁判所 平成9年(ワ)第1044号 修繕積立金等請求事件
    修繕積立金の7倍の増額が認められた事例。
    • 規約承認販売方法で完売されなかった規約は不成立であるが、その後規約変更がなされたことによりこの時点で特別決議による規約の成立が認められる。
    • 区分所有法に定める専有部分の床面積比と異なる議決権割合を定めても不合理とは言えない
    解説

    7.管理委託契約
  25. H14. 2.21 神戸地方裁判所 平成12年(ワ)第1647号 管理委託料等請求事件
    委託内容に係わらないクレームで管理費の支払停止は認められないとされた事例。
    • 管理会社に債務不履行がない以上管理組合は,債務が履行されるまで管理委託料の支払を拒絶するという同時履行を主張することはできない。 。
    • 個々の被告組合員が精神的損害を被ることはあっても, 自然人のような感情を持たない管理組合という団体が精神的損害を被ることはあり得ないし, 個々の組合員の慰謝料の総額が即被告の損害になることもあり得ない。
    解説

  26. H11. 8.31 東京高裁 平成8年8(ネ)2630号 預金返還請求・各当事者参加事件
    管理会社が管理組合のために開設した預金口座が管理組合の預金と認められた事例。
    • 預金者の認定については、自らの出捐によって、自己の預金とする意思で、銀行に対して、自ら又は使者・代理人を通じて預金契約をした者が、預入行為者が出捐者から交付を受けた金銭を横領し自己の預金とする意図で預金をしたなどの特段の事情がない限り、当該預金の預金者であると解するのが相当である。
    • 区分所有者と榮高との関係(榮高は、管理委託契約に基づく受託者であると同時に、区分所有法第四節に定める管理者であり、区分所有者を代理する立場にある。)と、右に見たとおり区分所有者に預入の意思があると認められることを併せ考えると、榮高は区分所有者の使者として本件各定期預金をしたものと見るのが相当である。
    解説

  27. H15. 5.27 東京地方裁判所 平成13年(ワ)第13444号 割増手当請求
    早朝から夜間に亘る管理作業に関し夫婦の住み込み管理人が求めた未払い残業代の請求が認められた事例。
    • 労基法32条の労働時間(以下「労基法上の労働時間」という。)とは,労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい,実作業に従事していない時間(以下「不活動時間」という。)が労基法上の労働時間に該当するか否かは,労働者が不活動時間において使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものというべきである。
    • 不活動時間であっても労働からの解放が保障されていない場合には労基法上の労働時間に当たるというべきである。そして,当該時間において労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価される場合には,労働からの解放が保障されているとはいえず,労働者は使用者の指揮命令下に置かれているというのが相当である。
    • 各指示業務は,断続的であり,その各所要時間が短いけれども,原告らはそれを遂行するため,当該遂行場所に出向いていたのであるし,その間も住民要望に応えるという役務の提供を求められており,各指示業務間の時間は,次の業務を開始するまで滞留することが命ぜられた状態と同視すべきであり,その間は被告の指揮命令下に置かれていると認めるのが相当である。
    解説

    8.ペット
  28. H16. 9.22 福岡地方裁判所 平成15(ワ)974 損害賠償請求事件
    マンションにおけるペット飼育に関して売主である販売業者の説明義務違反及び不法行為責任が否定された事例。
    • 一般にマンションにおけるペットの飼育の可否は,管理組合規約で定められるものであり,管理組合規約は管理組合の議決により変更され得ること,原告は,本件売買契約以前からマンションに住んでいたことからすれば,原告は,管理組合規約の変更がされ得ることは認識していたというべきであり,将来にわたってペットの飼育が可能であると信じていたとの原告の供述は直ちには採用できない。
    解説

  29. H 6. 8. 4 東京高裁 平成3(ネ)4490 犬の飼育禁止請求事件
    マンションにおけるペット飼育に関して売主である販売業者の説明義務違反及び不法行為責任が否定された事例。
    • 区分所有法6条1項は、区分所有者が区分所有の性質上当然に受ける内在的義務を明確にした規定であり、その一棟の建物を良好な状態に維持するにつき区分所有者全員の有する共同の利益に反する行為、すなわち、建物の正常な管理や使用に障害となるような行為を禁止するものである。
    • 共同の利益に反する行為の具体的内容、範囲については、区分所有法はこれを明示しておらず、区分所有者は管理規約においてこれを定めることができる(同法30条1項)
    • マンション内における動物の飼育は、一般に他の区分所有者に有形無形の影響を及ぼすおそれのある行為であり、これを一律に共同の利益に反する行為として管理規約で禁止することは区分所有法の許容するところであると解され、具体的な被害の発生する場合に限定しないで動物を飼育する行為を一律に禁止する管理規約が当然に無効であるとはいえない。
    解説

  30. H17. 5.30 大分地方裁判所 平成16年(ワ)第297号,平成16年(ワ)第443号 損害賠償請求事件
    マンションの販売業者である被告会社の従業員が,ペット類飼育の許否につき,販売時期によって異なる説明をして正確な情報提供を怠ったなどとして,被告会社から区分所有建物を購入した原告らのうち2名に対する不法行為の成立を認め,被告会社に対する慰謝料請求を認容した事例。
    • マンション内における動物の飼育は,こうした建物の構造上,ふん尿によるマンションの汚損や臭気,病気の伝染や衛生上の問題,鳴き声による騒音,咬傷事故等,建物の維持管理や他の入居者の生活に影響をもたらすおそれがあるほか,動物である以上,行動,生態,習性等が他の入居者に対して不快感を生じさせるなどの影響をもたらすおそれがある。
    • マンションにおいてペット類の飼育が禁止されるのか,可能であるのかが,購入者にとって,契約締結の動機を形成するに当たって重要な要素となることもあり得る。
    • マンション販売業者と購入者との情報の格差や,マンションの管理規約の作成に当たっては,販売業者がその案を準備し,個々の売買契約時に購入者から同意を取得してこれを交付している状況等に照らすと,マンションの販売業者には,将来無用なトラブルを招くことがないよう正確な情報を提供するとともに,当初ペット類の飼育を禁止するとして販売し,後に管理規約案に飼育禁止の条項がないなどとしてペット類の飼育を可能として販売する場合には,入居者に対してその旨を説明して了解を求めるべき信義則上の義務を負っているものと解するのが相当である。
    解説

  31. 平成22年5月13日東京地方裁判所平成20年(ワ)第2785号猫への餌やり禁止等請求事件
    タウンハウスの一部の区分所有者である被告が複数の猫に継続的に餌やりを行い,糞尿等による被害を生じさせたことは,区分所有者の共同の利益に反し,本件タウンハウスの規約規約にも違反するとして、飼育の禁止と慰謝料を認めた事例
    • 管理規約で「他の居住者に迷惑を及ぼすおそれのある動物を飼育しないこと」と定める動物飼育禁止条項は、小鳥や金魚の飼育を許す趣旨は含んで いるとしても,小型犬や猫の飼育を許す趣旨も含むものとは認められない。
    • 動物は家族の一員,人生のパートナーとしてますます重要となっている時代趨勢にあるが,他方,区分所有法の対象となるマンション等には,アレルギーを有する人も居住し,人と動物の共通感染症に対する配慮も必要な時代であるから,時代の趨勢に合わせて犬や猫の飼育を認めるようにすることは,マンション等の規約の改正を通じて行われるべきである。
    • したがって,白色の猫1匹の屋内飼育であっても,動物飼育禁止条項に違反すると認められる。
    解説

    9.専用使用権
  32. H10.10.30 第二小法廷・判決 平成8(オ)258 駐車場専用使用権確認事件
    専用使用権を有するマンション駐車場の使用料を増額することが区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときにあたらないとされた事例。
    • 建物の区分所有等に関する法律三一条一項後段にいう「規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきとき」とは、規約の設定、変更等の必要性及び合理性とこれによって一部の区分所有者が受ける不利益とを比較衡量し、当該区分所有関係の実態に照らして、その不利益が右区分所有者の受忍すべき限度を超えると認められる場合をいう。
    • 区分所有者が専用使用権を有するマンション駐車場の使用料を増額する規約の設定、変更等は、増額の必要性及び合理性が認められ、かつ、増額された使用料が当該区分所有関係において社会通念上相当な額であると認められる場合には、専用使用権者の権利に建物の区分所有等に関する法律三一条一項後段にいう「特別の影響」を及ぼすものではない。
    • 区分所有者が専用使用権を有するマンション駐車場の使用料が、規定の設定、変更等によることなく、規約の定めに基づき、集会決議もって増額された場合にも、建物の区分所有等に関する法律三一条一項後段の規定が類推適用される。
    • マンション駐車場の専用使用権を有する区分所有者が、使用料を増額する集会決議の効力を争い、管理組合の主張する増額使用料の支払義務の不存在確認を求める訴訟を提起し、既に三回の口頭弁論期日が開かれていたにもかかわらず、管理組合が、専用使用権者に対して増額使用料を支払うように催告し、その支払に応じないことを理由として駐車場使用契約を解除する旨の意思表示をしたこと、管理組合の主張する使用料の増額が社会通念上相当なものであることが明白であるとはいい難いことなど判示の事情の下においては、管理組合による右駐車場使用契約の解除は効力を生じない。
    解説

  33. H10.10.22 第一小法廷・判決 平成8(オ)1559 駐車場専用使用権分譲代金返還事件
    マンション分譲業者が、マンションの分譲に伴い、区分所有者の共有となるべきマンション敷地の一部に駐車場を設け、マンション購入者のうち駐車場の使用を希望する者に対して右駐車場の専用使用権を分譲し、その対価を受領した場合において、分譲業者が営利の目的に基づき自己の利益のために専用使用権を分譲したものであり、専用使用権の分譲を受けた区分所有者もこれと同様の認識を有していたなど判示の事情の下においては、分譲業者が区分所有者全員の委任に基づきその受任者として専用使用権の分譲を行った等と解することはできず、右対価は、専用使用権分譲契約における合意の内容に従って分譲業者に帰属すべきものであるとされた事例。
    • 売買契約書の記載によれば、分譲業者である上告人は、営利の目的に基づき、自己の利益のために専用使用権を分譲したものであって、専用使用権の分譲を受けた区分所有者もこれと同様の認識を有していたと解されるから、その対価は、売買契約書に基づく専用使用権分譲契約における合意の内容に従って上告人に帰属するものというべきである。この点に関し、上告人が、区分所有者全員の委任に基づき、その受任者として専用使用権の分譲を行ったと解することは、専用使用権分譲契約における当事者の意思に反するものであり、管理委託契約書の記載も右判断を左右しない。また、具体的な当事者の意思や契約書の文言に関係なく、およそマンションの分譲契約においては分譲業者が専用使用権の分譲を含めて包括的に管理組合ないし区分所有者全員の受任者的地位に立つと解することは、その根拠を欠くものといわなければならない。
    解説

  34. 最高裁判所平成8年(オ)第1362号 管理費等請求事件
    従前の規約において無償の専用使用権が設定されていた駐車場に関し、規約変更等により有償の専用使用権とし、また専用使用権を消滅させることの可否が争われた事例。
    • 法31条1項後段の「規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきとき」とは、規約の設定、変更等の必要性及び合理性とこれによって一部の区分所有者が受ける不利益とを比較衡量し、当該区分所有関係の実態に照らして、その不利益が区分所有者の受忍すべき限度を超えると認められる場合をいい、このことは直接に規約の設定、変更等による場合だけでなく、規約の定めに基づき、集会決議をもって専用使用権を消滅させ、又はこれを有償化した場合においても、法31条1項後段の規定を類推適用して区分所有者間の利害の調整を図るのが相当である。
    • 南西側駐車場の専用使用権が消滅させられた場合、南側駐車場だけでは被上告人が営業活動を継続するのに支障を生ずる可能性がないとはいえず、被上告人以外の区分所有者は、駐車場及び自転車置場がないことを前提として本件マンションを購入したものであること等を考慮すると、被上告人が南西側駐車場の専用使用権を消滅させられることにより受ける不利益は、その受忍すべき限度を超えるものと認めるべきであり、消滅決議は被上告人の専用使用権に「特別の影響」を及ぼすものであって、被上告人の承諾のないままにされた消滅決議はその効力を有しない。
    • <専用使用権者に使用料を支払わせることは、一般的に専用使用権者に不利益を及ぼすものであるが、有償化の必要性及び合理性が認められ、かつ、設定された使用料が当該区分所有関係において社会通念上相当な額であると認められる場合には、専用使用権者は専用使用権の有償化を受忍すべきであり、そのような有償化決議は専用使用権者の権利に「特別の影響」を及ぼすものではないというべきである。また、設定された使用料がそのままでは社会通念上相当な額とは認められない場合であっても、その範囲内の一定額をもって社会通念上相当な額と認めることができるときは、特段の事情がない限り、その限度で、有償化決議は、専用使用権者の権利に「特別の影響」を及ぼすものではなく、専用使用権者の承諾を得ていなくとも有効なものであると解するのが相当である(平成10年10月30日第二小法廷判決参照)。
    解説

    10.善管注意義務

  35. H13.12.28 横浜地方裁判所 平成11年(ワ)1057号 損害賠償請求事件
    敷地及び共用部分等の管理責任を怠ったことにより,損害を被ったとして,同管理組合の理事長に対し,受任者としての善管注意義務違反に基づく損害賠償を請求した事例。
    • 管理組合は,変色の生じた外壁部分につき管理責任を負い,その原因や修理経過,今後の修理計画について把握する義務があり、変色の原因につき詳細を把握しておらず上記義務を怠ったことが認められるが、管理組合のこの任務懈怠と,平成9年3月から現在までの104号室の価値の下落との間に,因果関係は認められない。
    • 駐車場の専用使用権が,規約に基づき,区分所有者に限定され,その所有する住戸部分を譲渡,貸与した場合には消滅するものであり,空き駐車場が発生した場合の使用者は,申込順に決定することとなっているにもかかわらず規約に違反する不正使用の事実があった場合でも違反がなければ原告が駐車場専用使用権を確保できていたかどうかという点について認めるに足りる証拠はないときは,駐車場利用権の侵害に基づく損害を認めることはできない。
    解説

  36. H13.11.21 東京高等裁判所 平成13年(ネ)第3824号 損害賠償請求控訴事件
    管理組合の理事長がベンディングマシンの設置に関し個人的に手数料を取得したことが受任者の善管注意義務に違反するとされた事例。
    • 自販機業者と本件自動販売機の設置の許諾,手数料の額や支払方法等について交渉し,契約を締結する職務を負っていた理事長は,その設置の場所を管理組合が管理するマンションの1階共用部分とする(物件の稼働費たる照明電気代等は控訴人が負担する)のであるから,管理組合が各自販機業者から各自販機業者が支払う意思のある本件自動販売機設置の手数料の全額を得られるように交渉し,かつ,その旨の契約を締結するべき善良な管理者としての注意義務及び誠実に職務を遂行するべき義務がある。
    解説

  37. H15. 1.22 広島高等裁判所 平成14年(ネ)第391号 損害賠償請求控訴事件
    管理料不払いを総会議案とされたことが名誉毀損だとして理事長に求めた賠償請求が否定された事例。
    • 原告の管理費の滞納は,原告自身正当な根拠ないし権利に基づくと考えあえて行っているものであるから,そのことを管理組合員に知ってもらって何ら不都合はないはずであり,その間題が総会の議題とされれば,原告としては,まさに与えられたその場において自己の見解を訴え管理組合員の理解を得るよう努めればよいのである(それこそが原告の標榜する民主主義であろう。)。にもかかわらず,それが総会の議題とされたことによって人格が傷つけられ社会的名誉が毀損されたとの主張は矛盾しており,採用の余地はなく,名誉毀損の事実を認めることはできない。
    • 原告の経費節約問題に関する主張の当否は別として,管理費の滞納自体は,管理組合として容易には受け入れ難い事態であることは明らかである。したがって,管理組合の理事長である被告及び理事らが,総会において原告の主張をも披瀝してもらった上でこの問題に対する対処方法を組合員に諮るべく,総会の議案に取り上げ提案したことは,管理組合理事として正当な職務行為といえる。よって,このことをもって原告の名誉を毀損する違法行為ということはできない。
    解説

    11.共同の利益

  38. H14. 5.16 大阪高等裁判所 平成13年(ネ)第3322号 ビル使用禁止,管理費等請求控訴事件
    原審:大阪地方裁判所 平成12年(ワ)第8241号,平成13年(ワ)第1228号
    管理費の滞納は59条の差止め請求の理由とはならないとされた事例。
    • 59条の規定は,共同の利益に反する行為をする区分所有者に対し,相当の期間,専有部分の使用を禁止するというものであるが,専有部分の使用を禁止することにより,当該区分所有者が滞納管理費等を支払うようになるという関係にあるわけではなく,他方,その区分所有者は管理費等の滞納という形で共同の利益に反する行為をしているにすぎないのであるから,専有部分の使用を禁止しても,他の区分所有者に何らかの利益がもたらされるというわけでもない。そうすると,管理費等の滞納と専有部分の使用禁止とは関連性がない。
    • 管理費等の滞納については,区分所有法7条による先取特権が認められており,先取特権の実行により,あるいは債務名義を取得して,管理費等を滞納している区分所有者が有する他の財産に強制執行をすることにより,滞納管理費等の回収を図ることができるが,これらの方法では効果がない場合には,59条による競売も考えられ,競売による買受人は未払の管理費等の支払義務を承継するので(同法8条),59条による競売は,管理費等の滞納解消に資する方法である。
    解説

  39. 平成20年11月25日仙台地方裁判所平成20年(ワ)第1109号区分所有権競売申立事件
    共同の利益に反する行為を行った区分所有者に対する区分所有権の競売請求が認められた事例。
    • 区分所有法59条に基づく競売請求を認めることは義務違反者の区分所有権の剥奪という厳しい効果をもたらすものであることに鑑みると,その判断は十分慎重になされるべきであるとしても,本件事情の下では共同生活上の障害を回避するために他に相当な方法があるとは解されないから,競売請求を認めることもやむを得ないものというべきである。
    解説

    12.建替え

  40. H13.10.31 神戸地方裁判所伊丹支部 平成9年(ワ)第375号 総会決議無効確認請求事件
    阪神大震災で被災したマンションの建替え決議が有効とされた事例。
    • 建替えの制度は、効用の維持・回復の費用が,建物の価額その他の事情に照らし,相当の範囲内であれば,補修をして建物の使用を継続すべきであるが,その範囲を超えて過分の費用を要する場合には,建替えをして,その敷地の利用価値を回復するのが合理的であるとするものである。
    • 建物にどの程度の効用を期待するかは,相対的な価値判断の問題であり,まず第一次的に区分所有者が判断すべきものであるから,建物の効用を維持し,又は回復するのにどの程度の補修工事をするか,どの程度の費用を投じるかについての大多数の区分所有者の主観的判断は,それが不合理といえない限り,これを十分尊重すべきものである。
    • 法63条4項における時価は,再建建物の敷地とすることを予定した土地の更地価格から現存建物の取壊しに要する費用を控除した額により算定すべきである。
    解説

  41. 平成21年04月23日最高裁判所第一小法廷平成20(オ)1298号所有権移転登記手続等請求事件
    区分所有法第70条が憲法29条に違反しないと認定された事例。
    • 区分所有権の行使(区分所有権の行使に伴う共有持分や敷地利用権の行使を含む。以下同じ。)は,必然的に他の区分所有者の区分所有権の行使に影響を与えるものであるから,区分所有権の行使については,他の区分所有権の行使との調整が不可欠であり,区分所有者の集会の決議等による他の区分所有者の意思を反映した行使の制限は,区分所有権自体に内在するものであって,これらは,区分所有権の性質というべきものである。
    • 区分所有建物について,老朽化等によって建替えの必要が生じたような場合に,大多数の区分所有者が建替えの意思を有していても一部の区分所有者が反対すれば建替えができないということになると,良好かつ安全な住環境の確保や敷地の有効活用の支障となるばかりか,一部の区分所有者の区分所有権の行使によって,大多数の区分所有者の区分所有権の合理的な行使が妨げられることになるから,1棟建替えの場合に区分所有者及び議決権の各5分の4以上の多数で建替え決議ができる旨定めた区分所有法62条1項は,区分所有権の上記性質にかんがみて,十分な合理性を有するものというべきである。
    • 同法70条1項は,団地内の各建物の区分所有者及び議決権の各3分の2以上の賛成があれば,団地内区分所有者及び議決権の各5分の4以上の多数の賛成で団地内全建物一括建替えの決議ができるものとしているが,団地内全建物一括建替えは,団地全体として計画的に良好かつ安全な住環境を確保し,その敷地全体の効率的かつ一体的な利用を図ろうとするもの であるところ,区分所有権の上記性質にかんがみると,団地全体では同法62条1項の議決要件と同一の議決要件を定め,各建物単位では区分所有者の数及び議決権数の過半数を相当超える議決要件を定めているのであり,同法70条1項の定めは,なお合理性を失うものではないというべきである。
    解説

    13.生活妨害

  42. H16.12.20 東京簡易裁判所 平成16年(ハ)第12133号 損害賠償請求事件
    所有するマンション居室に対し,被告により14階建てマンションが建築中であり,これにより原告は,日照・通風が遮られるとして行った物的損害,精神的損害の賠償請求が否定された事例。
    • 居宅の日照,通風は,快適で健康な生活に必要な生活利益であって,法的な保護の対象になる。
    • その場合に不法行為が成立するか否かは,その被害の程度が社会通念に照らして社会生活上一般に受忍すべき限度を著しく超えているか否かの判断が基本になる。受忍限度を超える侵害か否かは,建物建築による日照・通風の阻害の程度,日影規制などの公法規制違反の有無,周辺地域の土地の利用状況等,多角的な観点から総合考慮して判断する。
    解説

    14.販売責任
  43. H14. 5.31 神戸地方裁判所 平成10年(ワ)第1666号 売買代金返還等請求事件
    トイレ等の生活騒音が聞こえるとして売主である販売業者に対して求めた債務不履行又は瑕疵担保責任に基づく売買契約の解除が認められなかった事例。
    • パンフレットに「快適さを極限まで追求した,これからのステータスともいえる永住志向型都市住宅」であるとか「満足度の高い永住志向型都市住宅」である旨の記載があっても,新築マンションの宣伝用パンフレットにおいて,よく用いられるセールストークの類であって,抽象的な表現にとどまり,これをもって,特定の品質を保証したものであるとか,特別の防音性能,遮音性能を保証したものと見るのは相当でなく,特別の品質保証約定が成立したことを認めることはできない。
    • 本体マンションの原告居室(本件建物)は,通常の居住用建物として,通常人の居住上支障のない程度の遮音性能を有することに問題はないというべきであるから,マンション建物に通常要求される品質,性能を具備していない(隠れた)瑕疵があるとすることはできない。
    解説

  44. H14.12.18 東京地方裁判所 平成13年(ワ)第6273号 建築物撤去等請求事件
    完成したマンションの一部の撤去が認められた事例。(国立マンション事件)
    • 建築基準法は,国民の生命,健康及び財産を保護するための建築物の構造等に関する「最低の基準」(同法1条)にすぎないから,本件建物が同法上の違法建築物に当たらないからといって,その適法性から直ちに私法上の適法性が導かれるものではなく,本件建物の建築により他人に与える被害と権利侵害の程度が大きく,これが受忍限度を超えるものであれば,建築基準法上適法とされる財産権の行使であっても,私法上違法と評価されることがある。
    • 抽象的な環境権や景観権といったものが直ちに法律上の権利として認められないとしても,前記のように,特定の地域内において,当該地域内の地権者らによる土地利用の自己規制の継続により,相当の期間,ある特定の人工的な景観が保持され,社会通念上もその特定の景観が良好なものと認められ,地権者らの所有する土地に付加価値を生み出した場合には,地権者らは,その土地所有権から派生するものとして,形成された良好な景観を自ら維持する義務を負うとともにその維持を相互に求める利益(以下「景観利益」という。)を有するに至ったと解すべきであり、この景観利益は法的保護に値し,これを侵害する行為は,一定の場合には不法行為に該当すると解するべきである。
    • 本件建物は,大学通りの並木に近接した位置に建設された,並木の高さの20メートルを遙かに超える地上43.65メートルの大型マンションであり,そのうち本件棟は大学通りから20メートル以内という至近距離にあり,大学通りの並木から突出し,本件景観の重要な要素である並木の周辺の建築物がいずれも20メートルを超えないものであることと明らかに抵触し,本件景観を侵害するものである。
    • 周辺地権者らの不断の努力で築かれた景観を,公法上の規制がないことに目を付け,住民や行政らの反対にも耳を貸すことなく,建築を開始し,周囲の環境を無視し,景観と全く調和しない本件棟を完成させ,しかも周辺地権者らが築いてきた景観利益を逆に売り物として,本件建物の販売に踏み切ったものであり,本件建物が公法上は違法建築物ではないこと,被告が18階建てから14階建てにするなど計画を変更したことを考慮しても,本件建物を建築したことは原告Aら3名の景観利益を受忍限度を超えて侵害するものであり,不法行為に当たる。
    解説

  45. H18.3.30 最高裁判所 平成17年(受)第364号 建築物撤去等請求事件
    完成したマンションの一部の撤去が認められなかった事例。(国立マンション事件上告審判決)
    • 良好な景観に近接する地域内に居住し,その恵沢を日常的に享受している者は,良好な景観が有する客観的な価値の侵害に対して密接な利害関係を有するものというべきであり,これらの者が有する良好な景観の恵沢を享受する利益(以下「景観利益」という。)は,法律上保護に値するものと解するのが相当である。
    • 建物の建築が第三者に対する関係において景観利益の違法な侵害となるかどうかは,被侵害利益である景観利益の性質と内容,当該景観の所在地の地域環境,侵害行為の態様,程度,侵害の経過等を総合的に考察して判断すべきである。
    • 景観利益の保護とこれに伴う財産権等の規制は,第一次的には,民主的手続により定められた行政法規や当該地域の条例等によってなされるべきであり、ある行為が景観利益に対する違法な侵害に当たるといえるためには,少なくとも,その侵害行為が刑罰法規や行政法規の規制に違反するものであったり,公序良俗違反や権利の濫用に該当するものであるなど,侵害行為の態様や程度の面において社会的に容認された行為としての相当性を欠くことが求められると解するのが相当である。
    • 本件建物は,日影等による高さ制限に係る行政法規や東京都条例等には違反しておらず,本件建物の建築は,行為の態様その他の面において社会的に容認された行為としての相当性を欠くものとは認め難く,上告人らの景観利益を違法に侵害する行為に当たるということはできない。
    解説

  46. H15. 6.26 神戸地方裁判所 平成14(ワ)第76号 損害賠償請求事件
    平成7年1月17日未明に発生した阪神淡路大震災によって全部滅失したマンション敷地上に再建されたマンションの分譲主に対し、同マンションの管理組合が本件マンションの再建事業費(建築費)の支払のために借入をなし,これに伴い本件マンション購入者個々人に負担が生ずることの新規購入区分所有者への説明が不十分だとして,分譲契約における付随義務の債務不履行とされた事例。
    • 本件マンションにおいては,本件マンション管理組合が本件マンション建設費の支払を一部負担するために多額の借入を行い,その負債を抱えてスタートすることから,これによる負担を新規購入者においても甘受しなければならない仕組みになっているわけで,それら負担のあることは,一般の購入希望者が本件マンションを購入するかどうかを決めるにあたって,極めて重要な事項であると認められる。そして,それら負担は,本件マンションの建設が阪神淡路大震災による滅失マンションの再建事業としてなされた特殊性によるものであって,通常のマンション分譲ではまず考えられない負担であることにも照らせば,本件マンションの分譲業者である被告には,売主の付随義務として,新規購入希望者に本件マンションを分譲するにあたっては,それら負担のあることにつき,事前に十分に説明し,その理解を得たうえで,売買契約を締結する義務があった。
    • 本件借入金については,本件マンション管理組合が借り入れるものであるが,その返済については,駐車場収入からこれを返済することが予定されており,その返済につき,原告ら本件マンション管理組合員に現実の出費による負担を強いることのないよう計画されてはいる。しかし,本件借入がなければ,駐車場収入は,本件マンションの管理や修繕費用等にこれを充てることができたはずのものである。また,駐車場収入による返済計画が破綻した場合には,原告ら本件マンション管理組合員個々人がその返済の負担を負わなければならなくなる。しかも,本件借入は,これを本件マンション建設費である再建事業費の支払に充てることにより,再建組合員の負担を軽減することを目的とするものであるから,その返済は本来的には再建組合員らがこれをなすべきものであるのに,同組合員ではない新規購入者である原告らにおいても,その購入代金とは別途に本件借入による負担を負わされることになるわけで,実質的には,それら負担は,原告ら新規購入者からすれば,本件マンション購入代金の上乗せに他ならない
    • 本件マンションにおいては,本件マンション管理組合が本件マンション建設費の支払を一部負担するために多額の借入を行い,その負債を抱えてスタートすることから,これによる負担を新規購入者においても甘受しなければならない仕組みになっているわけで,それら負担のあることは,一般の購入希望者が本件マンションを購入するかどうかを決めるにあたって,極めて重要な事項であると認められるから本件マンションの分譲業者である被告には,売主の付随義務として,新規購入希望者に本件マンションを分譲するにあたっては,それら負担のあることにつき,事前に十分に説明し,その理解を得たうえで,売買契約を締結する義務があったものと認められる。
    解説

  47. H15. 2. 3 東京地方裁判所 平成11年(ワ)第21193号 損害賠償請求事件
    分譲住宅を購入した者が,その後,大幅に値下げをして一般に売り出されたのは,原告らに対する債務不履行ないし不法行為であるとして請求した代金差額請求が認められなかった事例。
    • 公募価格が原告らに対する販売価格を常に下回ってはならないとの合意がなされたと認めることはできない。
    • 原告らは,公団が提示した諸条件の総体としての価値と,借家権を喪失することによって原告らの被る損害とがほぼ等価であると認識していたのに,実際には公団が提示した条件の価値が著しく低かったというものであると解されるが、原告らが仮にこのような認識を有していたとしても,代金額,目的物たる当該分譲住宅の同一性,性状等には何ら錯誤はなく,原告らの認識は,そのような条件で賃貸借契約の合意解除に応じるという効果意思が形成される過程における錯誤,すなわち動機の錯誤であるというべきである。したがって,原告らが有していた前記①の認識が少なくとも黙示的に表示されていない限り,本件各売買契約は無効とならないというべきである。
    • 売主と買主との間には,売買契約締結前には,当該売買契約に関し,何らの権利義務関係も存在せず,また,買主は,売買契約を締結するか否かを自由に決定できるのであるから,特段の事情がない限り,売主が,買主に対して,信義則上の適正価格設定義務を負うことはない。
    解説

  48. H13.12.19 東京高等裁判所 平成12年(ネ)第5090号 損害賠償請求控訴事件
    分譲住宅を購入した者が,その後,大幅に値下げをして一般に売り出されたのは,原告らに対する債務不履行ないし不法行為であるとして請求した代金差額請求が認められなかった事例。
    • 売買契約における信義則上の付随義務として、同一団地同一価格体系の原則なるものを認めることはできない。
    • 本件値下げ販売が控訴人らの期待権を侵害するものであるとか、信義則に反するものであるとかとまで認めることはできないから、そのような侵害ないし違反が不法行為に当たるとする控訴人らの損害賠償請求も理由がない。
    解説

  49. 平成18年03月09日福岡高等裁判所平成16年(ネ)第581号損害賠償請求事件
    新築マンションを購入した区分所有者が、民法570条の定める売主の瑕疵担保責任に基づき,販売主に対して外壁タイルの剥離・剥落及びその補修工事の騒音等による交換価値の下落による財産的損害,慰謝料及び弁護士費用の損害賠償を請求した事例。
    • 本件マンションの売主である被控訴人は,売主の瑕疵担保責任として,瑕疵の存在を知らずに合意した売買代金額と瑕疵を前提にした目的物の客観的評価額との差額に相当する,この経済的価値の低下分について,損害賠償義務を負わなければならず、本件補修工事によって上記瑕疵が修復された結果,外壁としての機能上の問題は今のところ解消されたということができようが,本件マンションの外観上の完全性が回復されたということはできない。
    • 本件補修工事による控訴人らの生活被害についても,本件マンションの外壁タイルの剥離・剥落という瑕疵に基づく損害に通常含まれるものとして,被控訴人が賠償しなければならないと解するのが相当である。 この意味において,上記瑕疵と控訴人らの慰謝料は,瑕疵による損害というべきである。
    解説

    15.その他
  50. 昭和56年5月29日神戸地方裁判所昭和51年(行ウ)第31号固定資産税賦課処分取消請求事件
    マンションの区分所有者が土地の固定資産税・都市計画税について、敷地の共有持分に対して各区分所有者ごとに課税せず敷地全体に対して全員に一括課税しているのは違法であるとして、税額の賦課決定の取り消しを求めた事例。
    • 固定資産税および都市計画税は、不動産を所有する事実を課税要件とし、その資産価値自体に着目して課せられる財産税の一種であつて、共有物については共有者全員が納税義務者となり、かつ、連帯して納税義務を負い、各自独立して共有物全体にかかる固定資産税および都市計画税の納税義務を負うものであるから共有土地に対する固定資産税及び都市計画税の課税処分は、当該土地共有者の各持分に応じて、またはこれに対してなされるものでない。
    解説

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