(特定承継人の責任)
第八条 前条第一項に規定する債権は、債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても行うことができる。

1.特定承継人とは。
第8条は特定承継人の責任規定です。

ここで特定承継人とは、一般承継人と対比されるもので一般承継人が被承継人の地位を一般的・包括的に承継する者であるのと異なり被承継人の地位の一部・特定部分を承継する者という概念です。包括承継の場合はその人の年金等一身専属的な権利を除きその人の権利義務の一切(包括的地位)を包括的に承継しますが、特定承継の場合はある不動産の所有者の地位等特定の地位しか承継しません。
一般承継は個人の場合は相続、法人の場合は合併がその適例で、承継人は被承継人に属していた権利・義務の一切(前述のとおり、一身専属的なものは除外されます。)を当然に承継します。
特定承継は特定の財産権の譲渡の場合がその例で、区分建物の売買や競売・公売による買主、贈与の受贈者、特定遺贈による受遺者等がこれに該当します。

このように、包括承継の場合は前条の債務を当然に承継しますから第8条のような規定は必要ありませんが、特定承継の場合は承継された特定の財産に内在又は付着した物的・法律的な瑕疵や負担しか承継しないことが原則ですから、本条がなければ前条の債務を特定承継人が承継することはありません(循環論気味ですが、本条の存在が上記原則適用上の法律的瑕疵・負担を構成している関係となっています。)。

2.債務が承継される理由。
それでは本条はどういう趣旨の規定でしょうか。
本条と同様の規定である民法254条の趣旨は共有者間の取り決め事項や共有物に関する負担が、それを是としない共有者が持分を譲渡することにより事実上廃棄・消滅されることを防止しもって共有者間の共有物の管理を全うさせることにある、とされています。
つまり、共有物を管理し使用するには共有者間で一定のルールを定めてそれに従うことが必要ですが、対人的なルールは取り決めた当事者間でしか効力がないのが原則ですから、そのルールを気に入らない者が持分を譲渡してしまうとルールに縛られない新持分権者が出現し全体としてルールが無効になってしまうこと、また共有者は民法259条により共有物の管理等の負担について互いにその持分を担保に出し合っている関係にありますが、持分の譲渡により担保を消滅できるのでは不当であること、ということです。

前者の理由については区分所有の場合には、共有物に関する取り決め事項は一般に30条による規約でなされ、規約の特定承継時の取扱いは別途46条に本条と同趣旨の規定がありますから、本条が問題となる場合はないようです(ただし、規約がない場合は区分所有者間の取り決め事項の承継に本条が適用されることはあります。)。
従って、本条の立法趣旨は、金銭債権に関し前条の先取特権の目的物(区分建物等)を譲渡することにより先取特権を消滅させることを防止するものといえるでしょう。

3.特定承継人となりうる者。
従ってまた、本条の特定承継人は前条の先取特権の目的物の現在の所有者である必要がありますから、元々の本来の債務者から何度特定承継がなされていようと現在の区分所有者ということになります。
その反面、この責任は法が特に現在の区分所有者に認めたものですから、本来の債務者でもなく、たとえ債務を認めても先取特権の保存に何ら意味のない中間の取得者は本条の承継人にあたらないこととなります。

4.特定承継のもう一つの立法理由について。
なお、この立法理由に関しましては、不払い費用相当額が建物に化体し又は組合財産を形成しているので当該持分を取得した特定承継人が支払い義務を負担するのが当然であるとその不当利得性を根拠とするのが立法担当者の説明ですが、58年改正による被担保債権が拡張され必ずしも不当利得者の地位を承継したとはいえない債権もありうる以上、統一的な説明(積極的な理由付けとはいえませんが)としては上記のように理解するのが妥当であろうと考えます。

5.特定承継人の責任。
本条により、前条の債務について特定承継人と本来の債務者が連帯して弁済する責任が生じます。
この関係は当事者の合意によらない法律の規定に基づくことから不真正連帯債務とされますが、実体は本来の債務者の肩代わりをするのですから通常の場合(当事者の合意により承継人が支払うこととした場合以外の場合)は、保証債務の規定を準用して催告・検索の抗弁権を認めても良いでしょう。
通常の場合に承継人が支払った場合は本来の債務者に求償する訳ですから、組合としてもまず本来の債務者から回収することを要求されても不当とはいえないでしょう。

なお、この特定承継人の承継義務は本条に基づく法定責任ですから、特定承継人がその債務の存在を予め知っていることを要しません。
従って、通常の売買(重要事項説明書にどういう記載があろうと)であろうと競売(物件調書にどういう記載があろうと)であろうと買主が知らなかったというのは言い訳にはなりません。
ただし、この特定承継人の負担は当該売買契約や手続きの瑕疵として売買当事者間等で精算されることとなります。

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