(先取特権)
第七条 区分所有者は、共用部分、建物の敷地若しくは共用部分以外の建物の附属施設につき他の区分所有者に対して有する債権又は規約若しくは集会の決議に基づき他の区分所有者に対して有する債権について、債務者の区分所有権(共用部分に関する権利及び敷地利用権を含む。)及び建物に備え付けた動産の上に先取特権を有する。管理者又は管理組合法人がその職務又は業務を行うにつき区分所有者に対して有する債権についても、同様とする。
2 前項の先取特権は、優先権の順位及び効力については、共益費用の先取特権とみなす。
3 民法(明治二十九年法律第八十九号)第三百十九条の規定は、第一項の先取特権に準用する。

1.先取特権とは。
第7条は先取特権(さきどりとっけん)の規定です。先取特権とは、抵当権と同様に担保物の価値で債権を担保する方法の一つで、担保される債務の履行がないときに担保権を実行(民事執行法に基づく競売)して債権を優先的に回収することができます。

2.先取特権の成立。
先取特権は、公平、当事者の一般的な意思及び社会政策的理由の全部又は一部の理由により法律がその成立を認める法定担保物権の一つであり、区分所有者が建物の管理等に関する債務を負担する場合には区分所有者の有する専有部分やその中の動産、敷地利用権をその担保とすることが公平且つ当事者の意思に適うものであることから認められたものと思われます。
この点は共有物に関しその持分の上に特別の担保権(先取特権類似の権利)を認める民法259条と同様です。

この先取特権は法定担保物権ですから区分所有者が建物の管理等に関する債務を負担すると当然に発生し、約定担保権の抵当権と異なり、設定行為は必要ありません。
そのため、被担保債権額の公示等がなされませんので債務者の一般債権者を害する虞がありますが、一般に債権額が多額にならないためやむを得ないものとされています。

3.先取特権の効力。
この先取特権は、債務者の特定財産に関する担保権であるのにもかかわらず共益費用即ち民法306条1号の一般の先取特権(債務者の全財産を本来対象とするもの)とされていますので、登記なしに一般債権者(対抗力ある担保権等の優先的権利を持たない者)に優先して債権を回収することができますが、登記なしには登記した抵当権者等の担保権者には優先されます(民法336条)。
なお、一般にこの先取特権の登記はなされませんから、現行の過剰担保の状況下で抵当権実行の手続きに参加して配当要求を行っても配当を受けられる可能性は低いでしょう。
この点に対しては民法329条2項の共益費用の先取特権は其利益を受けたる総債権者に対して優先の効力を有す、という趣旨からこの先取特権の被担保債権は建物保存の費用で抵当権者の担保価値保存に利益を与えているはずとの考えから抵当権に優先して配当を受けられるべきだ、とも思われますが、この先取特権の被担保債権にはいろいろのものがありますので、真に建物保存の費用で抵当権者の担保価値保存の有益なものである場合は、抵当権に対する優先権が認められている民法325条1号の不動産保存の先取特権として登記しその順位を保存しておくべきでしょう。

4.先取特権の被担保債権。
この先取特権の被担保債権は、@区分所有者が、共用部分、建物の敷地若しくは共用部分以外の建物の附属施設につき他の区分所有者に対して有する債権、A規約又は集会の決議に基づき他の区分所有者に対して有する債権です。
@は共用部分、建物の敷地及び附属施設の保存・管理・変更・処分に関する一切の費用であり、具体的には管理費・修繕費・修繕積立金・同基金・専用使用料等の債権及びその立替金債権がこれに該当します。なお、この点は@の債権は保存行為等で個人の区分所有者が立替えた現在の債権をいい、Aの債権は管理費・積立金・義務違反者の違約金等団体としての管理組合が有する債権をいうとするのが一般のようです(コンメンタールマンション区分所有法(日本評論社 稲本洋之助・鎌野邦樹共著)P58・59、区分所有法(丸山英気)、新しいマンション法(法務省民事局参事官室編))。しかし、立替金という不当利得請求債権なら区分法で規定しなくとも当然ですし、次に記載のとおりこれらの債権の主体が@とAで異なるとは思えませんし、@が民法の特則規定とするのであれば上記のとおり@は債権の目的からAは発生手続きからの規定とするのが妥当と考えます。尤も、@に該当しようとAに該当しようと被担保債権となることに変わりはなく実務上は問題ありません。
Aは規約又は総会決議に基づく債権で、@の債権に限らず管理組合が精算を行う専有部分の水道光熱費等がこれに該当します。

5.先取特権の主体。
ところで、1項の主語が区分所有者となっていますが、これらの債権は通常は総体としての区分所有者、即ち区分所有者の団体たる管理組合に帰属するものですから、本来は管理組合が主語であるべきですが管理組合に正規の権利帰属主体たる法人格がないため区分所有者という主語となっているものと思われます。
なお、このように区分所有者は複数形と読むべきですが、各区分所有者は単独で保存行為が可能ですし、管理・変更行為も総会で当該区分所有者が実施するとされれば実施でき、その場合には管理組合に対する債権の外、持分に応じて負担に応じるという規定を通し個々の区分所有者に対しても債権を行使できると考えられますから、単数形の場合がないわけではありません。
また、個々の区分所有者が他の区分所有者の負担金を立替えた場合は、その実態はこの先取特権が付着した債権の第三者弁済による求償債権ですから、この先取特権を行使することができ、この場合も単数形となります。
ついでながら、この単数形の場合で単独で職務を行う者が管理者(ただし区分所有者とは限らない。)であり、複数形で正規の権利帰属主体たる法人格を持つ場合が管理組合法人ですから、管理者又は管理組合法人がその職務又は業務を行うにつき区分所有者に対して有する債権についても同様とするのは当然です。

6.先取特権の客体・対象物。
この先取特権の対象物は、債務者の区分所有権(共用部分に関する権利及び敷地利用権を含む。)及び建物に備え付けた動産とされます。
このうち、区分所有権、共用部分に関する権利および敷地利用権は不動産担保権の抵当権の対象となるため上記のように抵当権に優先されますが、建物に備え付けた動産は抵当権の目的とならないため抽象的にはこの先取特権で優先して債権を回収することが可能です。
ただ、現実的にはこの種の動産は新品価格の数%で競落されるのが通常ですからあまり期待はできません。3項でこの先取特権に民法319条、同192条から195条が準用されていますから、この先取特権成立時即ち被担保債権取得時点において建物に備え付けた動産が債務者の物であることについて善意無過失(そうでないことを知らず、知らないことに過失がないこと。)の場合は、たとえそれが他人の物であってもこの先取特権の目的物となります。

建物に備え付けた動産の範囲は、建物使用に伴いある程度継続して建物に置かれる家具、電気器具その他の設備で単に建物内に存在する物では足りないものと思われますが、この規定に類する民法313条に関しある程度継続して置いてあれば金銭、有価証券、宝石類もこれに該当するとするのが判例です(大判大3.7.4民録20―587)。ただし、個人の生存に不可欠なものとして差押禁止財産とされているものが除外されることは勿論です(民事執行法第131条)。

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