(区分所有者の権利義務等)
第六条 区分所有者は、建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない。
2 区分所有者は、その専有部分又は共用部分を保存し、又は改良するため必要な範囲内において、他の区分所有者の専有部分又は自己の所有に属しない共用部分の使用を請求することができる。この場合において、他の区分所有者が損害を受けたときは、その償金を支払わなければならない。
3 第一項の規定は、区分所有者以外の専有部分の占有者(以下「占有者」という。)に準用する。

1.義務の種類。
第6条は、区分所有者の権利義務規定です。このうち1項は義務を、2項は一定の権利とそれに付随する義務を、3項で占有者の義務を規定しています。

2.共同の利益とは。
1項は区分所有者の共同の利益に反する行為を禁止する義務規定ですが、区分所有者の共同の利益という一般的・抽象的表現という曖昧な表現の一般条項となっています。従って、このままでは何が禁止され、何を守ればいいのかよく分かりませんが、次のように具体化することができるでしょう。

まず、区分所有者の利益とは所有物(資産価値、使用価値と交換価値の双方を含みます。)を維持し、これを自由に使用・収益・処分できることと考えることができます。次に、この利益に反する行為は積極的にこの利益を侵害する行為と消極的にこの利益を守らない行為に分割することができ、前者はさらに@所有物たる建物(専有部分を含む。)を毀損しその価値を減少させる行為とA他人の所有権の行使を妨害する行為に分けることができます。後者はB区分所有者として負担する諸義務の履行を怠る行為のことです。@の例は、建物を物理的に毀損したり汚損する行為、美観を毀損する行為等により建物の交換価値や使用価値を減少させる行為であり、Aの例は、騒音、振動等により他人の専有部分の円滑な使用を妨害したり共用部分に物品を廃棄・放置する等により他人の使用を妨害する行為等がこれにあたります。Bの例は、管理費等の負担の支払義務、用法違反、その他管理規約や使用細則に定められた義務の違反行為が広くこれに該当すると思われます。

3.立入権。
ところで、区分所有者の最も重要なものは所有権ですが、専有部分はその躯体から諸設備にいたるまで他の専有部分や共用部分と有機的に関連しあって存在していますから、その維持管理の実施に自己の権利の及ばない部分の使用が必要となる場合があります。この場合に当該使用ができないことはとりもなおさず区分所有者相互の建物の保存・利用に支障をきたし、また社会的にも不経済なことになりますから、第2項で立ち入り権を認めています。これは民法の相隣関係と同様の考え方ですが、民法では認めない他人の建物内への立ち入りを認める点で民法の特則となっています。

対象となるのは他人の専有部分の外、自己が権利を有しない一部共用部分です。自己が権利を有する共用部分はその権利に基づき当然に使用することができるのでこのような定めは必要ありません。

この権利に基づき他の部屋等に立ち入った場合は、そこで工事等を実施するのでしょうから相手方に損害が発生します。従って立ち入り者はその損害を補填すべきですが、違法行為の場合にこの補填金を賠償金と称するのに対し、この場合は正当な権利行使の場合ですから償い金と称しています。

4.義務の占有者への拡張。
なお、第1項で区分所有者に対し利益背反行為の禁止を謳いますが、専有部分の居住者等が常に区分所有者とは限りません。元来、利益背反行為の禁止はマンションに関係する全員が遵守して初めてその成果が期待できるものです。そこで、3項で区分所有者に対する利益背反行為の禁止を専有部分の占有者にも準用することとしています。

5.占有者の種類。
専有部分の占有者とは、当該専有部分を事実上支配している者をいい、賃借人が代表的ですが、受寄者、管理人、破産管財人等の正当な占有権限者の他、不法占拠者等の正当な占有権限を有しない者も占有者ですが、家族、同居人等正当な権利者の権利の履行補助者の地位にいるものは占有者ではありません。

6.準用の範囲。
また、3項は準用規定ですから、1項の全てが適用されるのではなく占有者と区分所有者との地位の差から所有者にのみ適用されるべき規定(上記@、Aは所有の有無に係らず誰でも遵守すべきで、Bの用法も同様ですから不適用は主にBの所有者としての経済的負担となるようです。)は適用がありません。



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