(事務の執行)
第五十二条 管理組合法人の事務は、この法律に定めるもののほか、すべて集会の決議によつて行う。ただし、この法律に集会の決議につき特別の定数が定められている事項及び第五十七条第二項に規定する事項を除いて、規約で、理事その他の役員が決するものとすることができる。
2 前項の規定にかかわらず、保存行為は、理事が決することができる。

52条は管理組合法人の事務に関する規定です。

法人の事務とは、当該法人のなすべき一切の業務であり、管理組合法人では区分法3条の目的で設立される法人であることから敷地および建物共用部分の管理全般に関する一切の業務がそれに該当します。
管理組合の業務とその事務の決定方法は区分法16条から21条に定められておりますが、その対象は物理的な共用部分等が対象とされていて、観念的な債権関係の帰属が不明朗なきらいがありました。
しかし、管理組合法人の場合には管理組合法人に帰属する一切の財産関係の処理もその事務に該当することが明らかです。
従って、例えば管理費滞納金の請求事務は勿論その放棄も管理組合法人の事務に該当して集会議決で処理できることになります。

ここで、集会の決議によつて行うとの意味は、法人の事務は監査の事務が監事に帰属していることを除き、事務の執行機関である理事が行うことが原則ですから、1項は集会で決定された方針に従って理事が事務を執行することを定めた規程となります。
このことは、法人前の管理組合においてもその事務たる業務執行は管理者に委託され、管理者は受託者として管理組合の委任の主旨(集会の意思)に基づきその執行を行うわけですから、業務執行者が管理者から理事に代わっても管理組合という組織・性格に代わりがない以上、その実行方法に変わりがないこともまた当然と言えます。

すなわち、管理組合法人の目的は管理組合と同様に区分法3条に定める共用部分等の管理であり、管理組合が管理に関する事務を実行するのは区分法18条で集会の決議によるのですから、管理組合法人において区分法18条の原則を確認したものが52条ということになります。
従って、また、同じく区分法18条2項によれば集会権限を他の機関に委任することができることとなりますが、52条では委託を認める一方、委託先を理事その他の役員に限定しています。
これは各組合において審議内容の重要性に比例して審議決定機関の権限委譲を認めることにより円滑で柔軟な組合運営を決定できることを認めたもので、その点においては管理組合も法人も変りがありませんが、法人の場合には管理組合の場合よりも組織化が高度に進んでいることが予想されるため、以上先の機関も法人内部での調達が可能と考えられた結果と思われます。

勿論、管理組合でも内部機関で処理するのが所有者自治の観点から望ましいことは当然ですが、組合員数その他人的資源の関係から管理組合の場合には権限委譲先を外部に求めることもやむを得ない場合があります。
ここで理事その他の役員とあり、区分法が明記する役員には理事と監事しかなくその他の役員が何を指すのかは明らかではありません。従って、法文にあるとおり、委譲する権限の範囲・内容と共に以上先の機関たる役員自体も理事長・副理事長・世話人・協議委員・評議委員その他規約で自由に創設できるものと考えられます。
実務的には、総会・理事会・理事長の順で権限が縮小されてくる関係にありますから、集会が権限を委譲する先は理事個人よりも理事会ということになるはずです。
法文は以上先を役員個人に限るような表現ですが、その趣旨を集会以外の機関とするか、または役員に共同委託することで49条7項・民法52条2項では理事全員に委託された事務はその過半数で決するとしますから事実上理事会への委託が可能でしょう。
ただし、監事は区分法上の役員ではあってもその職責上業務執行に係るのは忌避すべきですから委託先機関として不適当であることは当然です。

なお、単に現状を保持するに過ぎない保存行為については集会等に懸けるまでもなく全員に利益の行為ですから理事が単独でできることとされます(2項)。 inserted by FC2 system