(監事)
第五十条 管理組合法人には、監事を置かなければならない。
2 監事は、理事又は管理組合法人の使用人と兼ねてはならない。
3 第二十五条並びに前条第五項及び第六項、民法第五十六条及び第五十九条並びに非訟事件手続法第三十五条第一項の規定は、監事に準用する。

1.監事の制度
50条は監事に関する規定です。
監事は管理組合法人の必要的且つ常設の監査機関です。
管理組合法人はその業務を全てその執行機関たる理事に委託することになりますが、理事の権限が多ければ多いほどその濫用や不正の危険も増すことになります。
そのため総会における理事の人事権・報告聴取権や予算・決算の審議権等を通じて区分所有者は理事を監督することとしていますが、総会は常設の機関ではなく理事等の招集を待って活動する一時的なものでしかありません。
通年に亘る理事の活動を監督するには常設の監督機関が必要なことから置かれるものが監事という制度です。

監事の任免については25条が準用されますから、原則として総会で選任することになります。
なお、規約で選任方法を定めることが認められていますから必ずしも総会における直接選任である必要はないでしょうが、監事の地位・性格から理事に選任権(解任権)を与えるような選任方法は2項の趣旨にも反し妥当とはいえないでしょう。

2.監事の資格
監事の資格については2項により理事および(理事の監督を受ける)組合の使用人との兼任が禁止されていますが、理事を監督する監事が同時に理事であったり、その監督下の使用人であったりしては監査の実が挙がりませんから当然の規定です。
尤も、理事または使用人が監事に選任された場合は、理事または使用人を辞すれば兼任という事態は回避されますから、2項は就任資格ではなく在任資格の制限というべきでしょう。
従って、監事が理事または使用人に就任した場合に速やかに理事または使用人の職を辞さない場合には監事の職を辞したものと理解できます。

他に、監事の就任資格や員数については特に制限がありませんから、理事の場合と同様、区分所有者に限る必要もなく区分法上は誰でも何人でも自由に選任することができます。

3.監事の任期等
監事の任期・欠員の場合の取扱い・仮監事・解任については理事の場合と同様です(3項、49条5・6項、民法56条、非訟手続法35条1項)。
4.監事の権限@
監事の権限は民法59条により、@法人の財産の状況を監査すること、A理事の業務の執行の状況を監査すること、B財産の状況または業務の執行につき不正の虞あることを発見したときはこれを総会に報告すること、C前号の報告のため必要あるときは総会を招集すること、です。

@は会計に関する監査権であり、日常的には管理組合法人の収入・支出や未払い・未収入金、積立金等の保管・運用方法、予算実行方法等の有無や是非を監査することで、定期の業務としては予算および決算の適否の監査を行うこととなります。
そのため、理事に対し必要な報告資料の提出を求めることができますし、更に必要があれば専門家によるチェックを依頼することも監事の善管注意義務の範囲内のものとして認められるでしょう。
理事は明らかに不当な要求でない限り監事の請求に答える義務がありますが、監事からの請求を待っているのではなく、むしろ理事には監事に対する適時の報告義務があるというべきでしょう。
監事が業務遂行に要した費用(外注専門家費用も含む)は当然償還され、必要とあれば前払いの請求も可能です(民法649・650条)。

5.監事の権限A
Aは理事に対する業務監査権です。
日常的には、総会で承認された年間業務計画の実行および突発事項等の計画外事項の処理方法、工事や日常管理の状況の有無や是非を監査し、定期的には総会報告事項や各種議題の是非を監査することになります。
このための報告聴取権や費用償還権は会計監査権の場合と同様ですが、実務上組織される理事会が存在する場合には、監査権限の一環として当然に理事会への出席権が認められるものと思われます。
この場合には、理事会での理事の協議内容の監査が実施されるわけですから監事は必要な発言も当然行うことができますが、業務執行の権限および責任は理事にありますから、監事が発言して理事の職責に干渉できるのは原則として対象の適法性の有無についてであって当・不当の妥当性判断についてではありません。

6.監事の報告義務
Bは監事の総会への報告義務です。
理事に対する本来の監督権限は真の委任者たる区分所有者全員であり、理事の監督ための組織・機関が理事の人事権を持つ総会ですから、監事に総会に対する報告義務があることは当然です。
この報告義務は43条の準用はないものの理事の監事に対する報告義務と同様に監事の監査業務全般に及び、監事は総会に対し自己の監査業務実施の経過およびその結果を総会に報告することになります。
ただし、監事常設の目的が理事の業務執行の不正防止にありますから、全般的な報告義務のうちでも不正については特に報告すべきものとして明記したのがBの趣旨です。

なお、監事の報告義務もその報告内容については監事の権限である会計および業務執行における適法性に関するものに限られ、妥当性には及ばないことは当然ですし、監事の不正防止目的機関性から不正の虞のあるときは総会報告前に理事に対し注意指導する等により不正行為の回避を図るべきで、そのような手段をとらず単に集会に報告すれば監事の善管注意義務を果たしたというものではありません。

7.監事の総会招集権
Cは監事の総会招集権を認めた規定です。
Bの総会報告義務を認めて総会による理事の監督権の発動を期するためには、総会が開催されなければなりませんが、総会招集権は第一次的には理事に属しますから理事の不正を追求する総会を当該理事が招集しない虞があり、かといって単独区分所有者権による裁判所に対する申し立ても監事という立場を考慮すると迂遠な手続きとなりますので、監事に総会の招集権を認めたのがこの規定の趣旨です。
勿論、理事が招集するのならそれでよく、総会招集に至らない段階で問題が解決すればそのほうが望ましいことは当然です。

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