(書面又は電磁的方法による決議)
第四十五条 この法律又は規約により集会において決議をすべき場合において、区分所有者全員の承諾のあるときは、書面又は電磁的方法による決議をすることができる。ただし、電磁的方法による決議に係る区分所有者の承諾については、法務省令に定めるところによらなければならない。
 この法律又は規約により集会において決議すべきものとされた事項については、区分所有者全員の書面又は電磁的方法による合意があつたときは、書面又は電磁的方法による集会の決議があつたものとみなす。
3 この法律又は規約により集会において決議をすべきものとされた事項についての書面又は電磁的方法による決議は、集会の決議と同一の効力を有する。
 第三十三条の規定は、書面又は電磁的方法による決議に係る書面並びに第一項及び第二項の電磁的方法が行われる場合に当該電磁的方法により作成される電磁的記録について準用する。
5 集会に関する規定は、書面又は電磁的方法による決議について準用する。

参考 旧法(書面決議)
第四十五条 この法律又は規約により集会において決議すべきものとされた事項については、区分所有者全員の書面による合意があつたときは、集会の決議があつたものとみなす。
2 第三十三条の規定は、前項の書面に準用する。

1.書面または電磁的方法による決議の趣旨
45条は書面決議等に関する規定です。
区分法においては、共有物の管理・変更や使用方法、区分所有者の団体即ち管理組合の運営に関する事項は全て集会という区分所有者全員で組織する議決機関の議決で決定される建て前を取っています。
これは区分法以前の所有者自治・団体自治というものの表れですが、構成員全員の合意があれば所有者自治・団体自治の目的は達成されますから何もわざわざ集会を開催する必要はない道理です。
旧45条は、この当然の事項を確認した規定でした。
そして、旧法では、合意内容の明確化とその証の永続化のため合意は文書によることが必要である点が特則となっていましたが、新法ではIT普及の第4段として、電磁的記録の方式が追加され、そのため、旧法の1項は2項に繰り下がり(従って、意味内容は旧法のままです。)新たに1項が新設されています。

新1項では、従来と異なり、集会自体を開催せず集会討議を省略していきなりの書面または電磁的方法による決議を認めています。
ただし、この方法では、執行部からの提案にイエスorノーといえるだけで、衆議を集めた意見形成が不可能という重大な欠陥があるため書面または電磁的方法による決議をすること自体に全員の合意が必要とされますが、遠隔地に区分所有者が散在する投資用マンション等での利用が一応期待されるでしょう。

ところで、この方法をとるには全員の合意が必要ですから、特別多数で制定される規約で定めても常にこの方法をとるというわけには行きませんが、新築時に全員の合意書で設定される原始規約であれば、そこに規定することにより規約でこの方法を採用できそうにも思われます。
しかし、1項では「決議をすべき場合において」として特定の議案を前提にする趣旨を示しており、総会決議事項全般を対象としている2項の「決議すべきものとされた事項」という表現と規定方法を区別しておりますから、事前の包括的な同意は予定されていないものと考えられます。
従って、決議が必要な事項が発生したら、その都度、この方法で決を採るか否かを全員に図り、全員の合意が得られたら、書面または電磁的方法による決議を行うことになります。

2.効力・集会手続きの準用
1項の書面又は電磁的方法による決議は、実際に集会して討議がなないだけでそれ以外は通常の集会と変わりがありません。
従って、この場合の当該決議の可否は、当該議案が通常決議事項か特別決議事項かで異なるだけで新2項(旧1項と同趣旨の項)のように必ずしも全員の合意が必要というわけではありません。
このことからしても、1項の書面又は電磁的方法による決議は議案の事前通知や議決権の割合等全て総会に準じて扱われるべきものです。
そのため5項で、集会の規定が準用されることとなっています(2項の場合は全員の合意が集会手続きの全てを不要にしますから5項で準用する余地はありません。従って、5項は1項の尚書きでもよい規定です。)。
そして、準用の対象となる集会規定は34条から42条までありますが、実際に集まるわけではないことから、招集の場所が書面又は電磁的記録の送付先に変更になったり、審議がないので議長が不要となる等所要の読み替えを行いつつ上記数箇条を適用することになります。

なお、1項の書面又は電磁的方法による決議は、上記のとおり実際に集会して討議がないだけでそれ以外は通常の集会と変わりがありませんから、その議決の効力も集会の決議と同一であることは当然です。
従って、3項の規定は単にこのことを確認するあまり意味のない規定といえますが、手続き全体としては複雑でも議決方法としては簡易な方法といえますから念のために規定されたものでしょう。

ただ、全員の合意の要求は相当高いハードルであり数人の組合でないと事実上実現は不可能でしょうから、この方法が実際に使われるようになるのはもっとIT社会が進展して、この規制を緩和する次期改正以降の話となるのではないでしょうか。

ここで、電磁的方法とは、先行する会社では、
「法務省令で定める方法は、次に掲げる方法とする。
 一  送信者の使用に係る電子計算機と受信者の使用に係る電子計算機とを電気通信回線で接続した電子情報処理組織を使用する方法であって、当該電気通信回線を通じて情報が送信され、受信者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに当該情報が記録されるもの
 二  第二条に規定するファイルに情報を記録したものを交付する方法
 2  前項各号に掲げる方法は、受信者がファイルへの記録を出力することにより書面を作成することができるものでなければならない。(商法施行規則5条)」、
とされていますから区分法でも同様になるものと思われ、要するに電子署名付の電子メールかフロッピー・CD自体の送付の手続きとなります。

2.対象
対象は、区分法や規約で集会決議事項とされた事項ですが、この書面決議等は集会の決議に代わるものに過ぎませんから、集会の開催に代わるのではなく管理者の集会招集義務(34条1項)、報告義務(43条)、関係者の弁明聴取義務(58条3項、59条2項、60条2項)を免除するものではありません。

3.区分所有者全員、共有の場合
対象の区分所有者は、書面決議等は集会の決議に代わるものであることから専有部分が共有の場合には原則として議決権行使者がそれに該当します。
従って、議決権行使者未選任の場合に、集会の場合には専有部分が共有の場合の区分所有者が集会に参加できないこととなりましたが、書面決議等の場合には書面決議等自体ができないということになります。
ただし、2項の書面決議等は集会とは異なり区分所有者全員の意思を尊重する制度ですから、必ずしも議決権行使者の選任を要するものではなく共有者全員が書面等で合意することでも足りるというべきでしょう。

4.書面等の数
書面決議における区分所有者全員の書面は、全員の意思が明らかになれば足りますので、必ずしも1枚の用紙でそれを証明する必要はなく、各自が別紙で意思を表示しても全員の合意が明らかになればよいものです。
この点は、電磁的方法即ち電子メールやFaxでは各自が各々送付することになりましたから、いっそう明確になりました。
実務上も、分譲マンションの販売においては購入者各自から個々に規約の同意書を取り付けて全員の合意を揃える方法が一般的です。

5.合意書面等の欠陥の場合
なお、書面決議等の効力は全員の合意がその根拠となりますから、一部の者が合意しない場合にはその効力が認められません。
しかし、書面決議の効力は書面等の存在というより全員の合意の存在にありますから、たとえ一部の合意書が欠落していても全員の合意があったものとしてその合意に基づいて行動した者や合意したと見られる者はその欠陥を主張することは原則としてできません。

6.書面の保管・閲覧
書面決議は集会の決議に代わるもので書面決議書は集会の議事録に代わるものですから、その保管や閲覧に関して規約の保管・閲覧の33条の規定が準用されます(4項)。

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