(占有者の意見陳述権)
第四十四条 区分所有者の承諾を得て専有部分を占有する者は、会議の目的たる事項につき利害関係を有する場合には、集会に出席して意見を述べることができる。 2 前項に規定する場合には、集会を招集する者は、第三十五条の規定により招集の通知を発した後遅滞なく、集会の日時、場所及び会議の目的たる事項を建物内の見やすい場所に掲示しなければならない。

1.占有者の意見陳述権
44条は、占有者の集会の出席権と意見陳述権に関する規定です。
占有者は区分所有者ではありませんから、当然には集会への出席権はなく議決権も勿論認められません。
しかし、占有者は建物内の区分所有者と同様に建物の管理運営に関して有形無形の影響を受ける立場にあり、更に46条により建物や敷地の使用に関して区分所有者が負う義務と同一の義務を一方的に負う立場にありますから、その利益も保護される必要がありますので、関係する議題に関しての意見陳述権とその前提としての集会の出席権を認めたものが44条です。

もとより占有者には議決権が認められませんから占有者に関係する議題について意見を表明してもそれが集会で採用される保証はありませんから、占有者の利益保護の手段としては十分とはいえませんが、占有者の意見に合理性があれば区分所有者もその意見に同調する可能性があり、賃貸人等で占有者の意向が影響力を及ぼす区分所有者の賛同も期待できます。
しかし、占有者は区分所有者と異なり建物等に責任を負うものではなく直接にはその負担にも応じない立場にあり、また一般に建物に対する投下資本は区分所有者に比べて低額で他に同等の建物を賃借して転居することも容易ですから、この程度の保護があれば一応十分ともいえるでしょう。

ただし、店舗等の占有者の場合にはその投下資本は多額になる場合もありますので、その制約が相当程度に強度となる場合には制約の必要性や内容、回避可能性や代償措置等を相関的に判断して権利濫用や不法行為が成立する場合もありえるでしょう。

このように、占有者の意見陳述権が占有者の権利擁護の手段であるとすると、保護に値する占有者に限り認めことは当然ですから、この規定でも区分所有者の承諾を得て占有する者、即ち、賃借人や承諾のある転借人に限られ不法占拠者にはこの権利はありません。

2.利害関係
問題は占有者に利害関係のある議題は何かです。
風が吹けば桶屋が儲かるのごとく利害関係も広範に亘りますが、33条2項の規約閲覧の利害関係と同様にこの利害関係も法律上の利害関係を意味します。
従って、抽象的には当該議案が可決されると自己の権利を制限または義務を発生・増大することになる占有者に集会の出席権と意見陳述権が認められることになりますが、具体的に何がそれに該当するかは個々具体的に判断されることになります。

一般的に、管理費の増額は賃貸借契約上の賃料増額の原因となりえますが、これは経済的な因果関係で且つ賃貸人との協議を挟むためその影響も間接的という理由で利害関係が認められません。
しかし、賃貸借契約上管理費支払いが賃借人の義務となっているような場合には利害関係が肯定されるでしょう。

他方、建物の使用に関し占有者は集会議決に法的に拘束されますが、共用部分の使用については共用部分が入居者一般の利用に供されていることの反射的な利益と思われますから、第三者使用または専用使用権に基づく使用部分の制約でない限り利害関係は認められないでしょう。

3.掲示
占有者に意見陳述権が認められるときは、占有者に集会参加の機会を提供する必要があります。
その方法として、占有者にも区分所有者と同様に招集通知を送ることもありえますが、2項では建物内の掲示をもって集会参加の機会を提供としています。

建物内に現在する区分所有者に対する招集通知は規約で定めることによる建物内の掲示と言う簡便な手段が認められていましたが(35条4項)、占有者に対しては区分法自体が簡便な手段を採用したものです。
このことは占有者の利益擁護の点で問題ではありますが、上記のとおり占有者が利害関係を持つ議題の有無・程度は占有者ごとに様々のことが予想されるため全てについて区分所有者同様の通知を強制することは招集権者の負担が重過ぎると判断された結果のように思われます。

この規定に反して、掲示をしなかった場合は集会手続きに瑕疵があることになり、それが占有者の権利に重大な影響があるときは占有者にその議決の効力を主張できないものと考えられます。
原則として集会決議が人により効力を異にすることは認め難いですからその決議は無効というべきでしょう。
それ以外の場合に占有者に損害が生ずる時は招集権者に不法行為による賠償義務が認められることがあることも当然です。

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