(議事)
第三十九条 集会の議事は、この法律又は規約に別段の定めがない限り、区分所有者及び議決権の各過半数で決する。
2 議決権は、書面で、又は代理人によつて行使することができる。 3 区分所有者は、規約又は集会の決議により、前項の規定によ
る書面による議決権の行使に代えて、電磁的方法(電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であつて法務省令で定めるものをいう。以下同じ。)によつて議決権を行使することができる。

参考 旧法(議事)
第三十九条 集会の議事は、この法律又は規約に別段の定めがない限り、区分所有者及び議決権の各過半数で決する。
2 議決権は、書面で、又は代理人によつて行使することができる。

1.議事の原則
39条は議決の要件に関する規定です。

1項により、集会の議事は区分所有者及び議決権の各過半数で決するものとされます。
従って、区分法各条項で集会の議決による、とされている事項、例えば7条の債権、18条1項の管理その他については原則として区分所有者及び議決権の各過半数で可決成立することになります。

2.例外1−区分法の規定−
この例外がこの法律又は規約に別段の定めがある場合で、このうちこの法律に別段の定めがある場合とは、(別段の定めとは、この区分法の各条項に本条が定める原則の区分所有者及び議決権の各過半数という要件を変更・修正する特別の定めがある場合です。)17条の変更や31条の規約の設定・変更および廃止その他特別決議事項とされる項目や建替えのような特殊の決議事項の場合であり、これらの条項では区分所有者及び議決権の各3/4や各4/5という要件が明記されて過半数の原則を修正していますから、これらが特別定めに該当します。 なお、これらの場合には、17条で共用部分の変更の決議を区分所有者の3/4要件を規約で過半数まで減じることを許容する以外に、その要件を規約で緩和することも加重することも認められていません。

3.例外2−規約の規定−
その二は、規約に別段の定めがある場合であり、原則として通常決議事項に関して特別の定めが認められます。

一般には、区分所有者要件を外し議決権の過半数と緩和する例(全体の1/2以上で可決)や、これを更に緩和して出席した者の議決権の過半数、可否同数の場合には議長の決するところによる(但し、総会の成立定数を議決権の過半数とする。全体の1/4以上で可決。標準管理規約)とする例などが多いようです。
区分所有者数の要件を外すということは各区分所有者を平等に取扱うということをせず議決権、即ち持分の多寡で区別した取扱いをするということになりますが、38条でも一言したように共有物に関する事項の決定権がその持分の多寡に比例するのが民法の原則ですから、議事内容が財産の管理項目である限り妥当なものといえます。

また、議長の裁決権は一般には議長は裁決には加わらないので1人一票の原則に反しないとされていますが、特別な裁決権を与える意思が明らかであれば議長に2票与える結果となっても問題はないと考えられます。 尤も、可否同数という議案はおよそ半数が反対しているということですから、もともとこの議案を可決実行するのは問題があるということです。
管理組合の場合に可否同数に分かれた問題を議長の裁決権で可決しなければならないような必要性は考えにくく、管理組合内の協調関係維持の観点からも適切ではないでしょう。
なお、議長の裁決権は特段の定め条項に基づき区分法の規定と別の方法が許容されるものですから、区分法の方法が強制される特別決議の場合には採用できません。

4.間接民主制の採用
ところで、本条は集会の議決方法に直接民主制を採用しており、この方法が管理組合という小集団では最も望ましい方法であることはいうまでもありませんが、この条項の規約による別段の定めには間接民主制の採用も許容されているものと思われます。
区分法の原則は管理行為の全てを直接民主制の集会によるものですが、管理所有の手法によれば集会手続きを省略して管理者の判断で管理行為が実行できるのですから、管理所有を介さずとも理事長の単独判断または理事会その他の機関の決議をもって集会の決議に代えることができるでしょう。
実際にも、事項毎や予算額に応じて総会決議事項と理事会決議事項等にその権限を分配している例が多く、標準管理規約でも管理者の選任は総会の直接選任ではなく理事の選任を通じての間接選任の方法を採用しており、事柄の性質に応じて直接・間接代表制を混合する例はよく見られるところです。更にこれを進展させて大規模集団での管理組合では代議員制の採用も検討の余地があるでしょう。

5.代理行使
集会は管理組合の最高且つ唯一の意思決定機関であり、区分所有者がその意思を管理組合の運営や建物の管理・使用に反映させるためには集会において自己の意思を表明することが唯一の手段です。

そのため区分法では招集手続きを厳格に定めて区分所有者が集会に参加する機会を保障していますが、実際の日時は個々の区分所有者の予定を聞かずに招集権者が決定するので、当日他の都合により参加できない場合があります。
この場合に、区分所有者自らは出席できなくともその意思が代わりの者等により表明されれば、区分所有者の集会参加権は一応保護されることになりますし、定数が必要な集会の議決が個人の都合でできないというような不都合も回避できることになります。
このような理由により、2項では区分所有者は代理人または書面でその議決権を行使できるものとしています。

代理人は区分所有者の選任する任意代理人となりますので、委任事項やその権限は全て区分所有者の授権の範囲・内容により決定され、通常は委任状で代理人資格および授権の内容・範囲が明らかにされますが白紙委任状の場合は(本来は白紙部分に記入が必要)全般的な権限があると取り扱うのが通常でしょう。

なお、区分法では代理人資格を制限していませんから、誰を代理人にしようと、何人代理人を選任しようと原則として自由ですが、それでは集会にそぐわないような者の参加を規制できないため、標準管理規約を初めとして代理人資格を規約で区分所有者等に制限することが多いようです。
2項には規約での特段の定めを認める記載はありませんが、区分所有者の議決権という権利行使も集会の円滑な運営という他の利益との調和の下で達成されるべきですから、その制限が実質上議決権行使を相当困難にするようなものでない限り規約での制限は有効と思われます。
集会の議事内容からすれば事情に精通した他の区分所有者が最も代理人に相応しいわけですが、そのためには事前に賛否の意向を代理人に十分説明しておく必要があります。たとえ本人の意思と異なる場合でも代理人の質疑や賛否の行為は本人のものとされますから、後でそうではなかったというのは通じないからです。

6.議決権行使書
そういう場合に備え、白紙委任状ではなく賛否を明らかにした委任状の使用が望ましいかもしれません。
この考えを延長すると書面による議決権の行使、所謂議決権行使書となります。
この議決権行使書が2項にいう議決権の書面での行使の具体的な方法となります。

各議決事項単位に賛否を明らかにして議長に提出するもので、白紙委任状をめぐる諸問題や代理人の代理権不誠実行使等の代理でのトラブルが防止できる利点がありますが、議案修正への対応については硬直的な結論となりかねない欠点も保有します。

7.電磁的方法による議決権の行使
議決権行使書による場合は、文書による区分所有者の意思の表示方法ですが、本人や代理人が出席しない点では文書が郵送でなされようが手交でなされようが変りはありません。
そうするとFaxでも電子メールでも同じといえ、更に電子投票システムを使用する場合も同様となります。
そのため、電磁記録による規約を認めたのと同様の理由により、書面決議の方法の一環として新法では電磁的方法による議決権行使の方法が新たに認められました。

このような方法は遠隔地にいる区分所有者が費用をかけずに集会に参加できるメリットがある一方、他方でこの方法が普及すると集会して他の人の意見等を総合的に判断して自己の結論を導くという会議制のメリットをますます阻害する可能性も秘めたものであり、インターネットのチャットや掲示板等の即時双方向の議論ができるものとセットでないと双方のメリットが生かせないのではないかと危惧されます。
他にも、文書による場合の捺印が無くなるわけでしょうから投票者の同一性をどう判断するか等の問題もあり、この点、法務省令である「建物の区分所有等に関する法律施行規則 (平成十五年五月二十三日法務省令第四十七号)」第3条では、「一  送信者の使用に係る電子計算機と受信者の使用に係る電子計算機とを電気通信回線で接続した電子情報処理組織を使用する方法であって、当該電気通信回線を通じて情報が送信され、受信者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに当該情報が記録されるもの 二  第一条に規定するファイルに情報を記録したものを交付する方法 」で且つ「前項各号に掲げる方法は、受信者がファイルへの記録を出力することにより書面を作成することができるものでなければならない。」とされており、電子メールの送信か磁気ディスク、CD、DVD等の交付がその方法とされています。
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