(規約の保管及び閲覧)
第三十三条 規約は、管理者が保管しなければならない。ただし、管理者がないときは、建物を使用している区分所有者又はその代理人で規約又は集会の決議で定めるものが保管しなければならない。
2 前項の規定により規約を保管する者は、利害関係人の請求があつたときは、正当な理由がある場合を除いて、規約の閲覧(規約が電磁的記録で作成されているときは、当該電磁的記録に記録された情報の内容を法務省令で定める方法により表示したものの当該規約の保管場所における閲覧)を拒んではならない。
3 規約の保管場所は、建物内の見やすい場所に掲示しなければならない。

参考 旧法(規約の保管及び閲覧)
第三十三条 規約は、管理者が保管しなければならない。ただし、管理者がないときは、建物を使用している区分所有者又はその代理人で規約又は集会の決議で定めるものが保管しなければならない。
2 前項の規定により規約を保管する者は、利害関係人の請求があつたときは、正当な理由がある場合を除いて、規約の閲覧を拒んではならない。
3 規約の保管場所は、建物内の見やすい場所に掲示しなければならない。

1.規定の趣旨
33条は規約の保管と閲覧に関する規定です。
規約は管理組合の根本規則を定めた規程であり、何らかの事態が発生した場合には規約を下にその解決が図られる重要書類ですから、通常、その作成・成立手続きを定めると共に必要な場合に規約を利用できるようにするため保管者も定めておくことが通常です。
従って、重要なことは右側通行か左側通行かと同様、保管者が定まっていること自体であり、保管者をどのように定めるかはあまり意味のない決め事に属します。

2.保管者−本人−
33条では保管者は、管理者がいる場合には管理者、管理者がいない場合(区分法では管理者の設置は任意であり、管理者がいない場合がありえます。
また、管理者がいたが辞任その他で欠けた場合もこれに該当します。)には、建物に現住の区分所有者またはその代理人の中から規約または総会決議で定める者としています。
管理者が保管者の第一順位にあることは、管理者が規約を実行する職責を持ち、2項に係る閲覧等の組合事務を執行する立場にあるのですから、妥当な規定といえます。
第二順位は建物に現住する組合員またはその代理人です。
現住(法文上は使用ですから事務所や店舗の場合には文字通り使用者となります。)の要件は、規約の閲覧の便宜から当該建物内に規約若しくはその保管者があるのが望ましいという趣旨の表れで、それなりに合理性があります。
ただし、重要文書ということで銀行の貸し金庫に保管する等現実の保管方法は特段の定めがない限り保管者がその責任において任意に判断実行できますので、規約が必ず建物内に存在するものではありません。

ところで、規約の保管はそれ自体は民法上は寄託契約に属しますので、有償寄託と無償寄託では責任の程度が異なることになりそうです。
しかし、区分法上はあまり明らかではありませんが無償だとしても管理者の場合は委任類似の契約に基づく管理者業務の一環としての業務ですから民法659条に係らず当然善管注意義務があると思われます。
従って、自分で保管場所を確保できない場合やより保管に適すると思われる場合には管理組合の事前の承諾(民法658条)がなくとも保管代行者を利用することが可能であり、むしろそれが要請されることもありますから、現実には直接の保管者が他の者がである場合も当然有り得ます。

他方、保管者が管理者でない場合は、規約の保管は純然たる寄託契約となりますので、無償の場合は責任が軽くなりますが(民法659条)、皆のためというだけで善管注意義務を負わせるのは酷ですからこの結論もやむを得ないでしょう。

3.保管者−代理人−
ついで、現住の区分所有者の代理人も指名を受ければ保管できるとされています。
保管という事実行為に代理人という法律行為を行う地位の者を規定するのはそぐわないきらいがないでもありませんが、代理人については区分法には規定がないため民法その他の法律による代理人ということになります。
この場合、規定の趣旨に最も適するのは本人の成り代わり(代行者)といえる法定代理人であり、親権者や後見人等の無能力者の法定代理人、裁判所の任命する不在者の管理人がこれに該当するといえます。
任意代理人の場合は本人が委任した不在中の財産管理人はともかく、それ以外の者の場合には規約保管を代理行為の付帯業務とするような代理の場合でないと代理人とはいえないでしょう。
なお、現住を要件とする以上、この代理人は占有代理人でもありますが、占有者というだけではこの代理人と解するのは困難でしょう。
代理人の場合も無償の場合は無償寄託として責任が自己の物と同一の注意となることは非管理者の保管の場合と同様です。

4.閲覧・利害関係者
ところで規約も保管するだけでは意味がなく、文書である以上必要なときに必要な人が内容を確認できる必要があります。
2項はこの閲覧が必要とされる範囲を利害関係人に限る規定です。

新法では、規約の形式に従前の文書形式の他に電磁的記録の形式を加えましたから、保管・閲覧の対象にも文書の他にフロッピーディスクやCD、DVD等のものが加わりました。
保管はこれでいいのですが、閲覧で閲覧者にフロッピーディスクやCD、DVDを見せても内容は分かりませんから、記録媒体がこれらの場合にはモニターで可読の状態にしたものを閲覧させるかプリントアウトする必要があります。
そのため、その旨を新法では2項の括弧書きで注書きしています。

なお、利害関係人とは、規約の規定内容について法律上の利害関係、すなわちその者の権利義務に何らかの影響が認められる者をいい、事実上の影響のある者は含まないとされています。
別に誰に見せても減るものではありませんが、この閲覧権者の制限は規約が管理組合という団体の内部規則であり、その団体のプライバシーや閲覧事務の手間との関係で法律上閲覧の利益を保護すべき者との調整の結果です。

そこで、法律上の利害関係者に誰があたるかが問題ですが、まず区分所有者は管理組合の構成員として当然これに該当します。
次に特定承継人は規約の適用を受け、占有者も建物の使用に関し区分所有者と同様な義務を負担しますから(区分法46条)当然法律上の利害関係があります。
区分建物の担保権者も規約の規定が担保価値に影響するので当然です。

問題は、買受を予定している者や借受を予定している者で、これらの者も買い受け等により特定承継人や占有者となるので利害関係人にあたるとする見解(マン管HPのQ&A)もありますが、それらの者は利害関係者となりうる者とはいえてもいまだ利害関係者自身とはいえないように思われます。
少なくとも予約契約等により利害関係の成立が確定的に予定されているのでなければ法律上の影響を肯定することは困難で、それを購入予定といえば誰でも閲覧権者になってしまうのでは、閲覧者の制限は事実上無意味となってしまうでしょう。

尤も、買受を予定している者や借受を予定している者にとって、規約の内容が重要であることは勿論であり、売主や貸主に取引上要求される開示義務項目であることは否定できません。
この点は宅建業者である売主や仲介業者の業法上の義務であることからも明らかですが、これらはあくまで売主や貸主がその相手方に対する義務であって管理組合自身の義務とはいえないように思えます。
これらの義務の履行は売主たる区分所有者が自己の有する閲覧権を通して間接的に実現されるものであって、利害関係者の範囲を拡張して実現するものではないように考えます。

ただし、2項は閲覧の拒絶権を認めているに過ぎず閲覧権者以外に開示することを禁止しているわけではありませんから、買受を予定している者や借受を予定している者、更には仲介業者に閲覧を許すことはそれらを予定する者やその当事者たる区分所有者の利益のために望ましいことと思われ、現実にはその方向で運用されているように思われます。

法律上の利害関係者以外の者は事実上の利害関係者といわれ、この解説上は買受を予定している者や借受を予定している者も含みますが、区分所有者の単なる債権者(区分所有権の差押等担保権者と同様に区分建物に直接の利害関係が認められる場合以外は経済上の利害関係にあるの過ぎません。)、友人(区分所有者の利害に心情的な利害関係が有るにすぎません。)、規約変更等を検討している他のマンションの理事等(単なる参考となる利益があるにすぎず規約の内容がどうであろうと当人の権利義務に何らの影響もありません。)等がこれに当たります。

5.正当な理由
なお、閲覧権者の閲覧請求でも正当な理由、即ち時間的な都合や閲覧理由との関係で拒絶することが認められます。
抽象的な概念である正当かどうかは請求者と義務者とのそれぞれの理由の相関関係を客観的に判断してどちらの利益が優越するかが決定される事柄であり、非常識な時間でも閲覧の必要性と緊急性が強度の場合には閲覧の利益が認められますし、嫌がらせのように閲覧の理由がない場合、常識的な時間でも義務者に閲覧させる余裕がないときに事前連絡なく突然閲覧要求があった時等の場合には拒絶しても正当と判断されます。

6.保管場所
ところで閲覧権者が閲覧を実現するためには閲覧義務者を発見することが必要です。
そのため3項で規約の保管場所を建物内で且つ見易い(発見しやすい)場所に掲示することが要求されます。
しかし、保管場所が分かっても閲覧は閲覧義務者の義務の履行で果たされるのですから、○○銀行の貸し金庫に保管中と掲示しても意味がありません。
従って、保管場所とは閲覧を実現できる保管義務者又はその履行補助者を発見できる場所即ち保管義務者等の住所・居所を意味するものと解されます。

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