(規約の設定、変更及び廃止)
第三十一条 規約の設定、変更又は廃止は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議によつてする。この場合において、規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。
2 前条第二項に規定する事項についての区分所有者全員の規約の設定、変更又は廃止は、当該一部共用部分を共用すべき区分所有者の四分の一を超える者又はその議決権の四分の一を超える議決権を有する者が反対したときは、することができない。


31条は規約の設定、変更及び廃止の手続きに関する規定です。
規約が契約だとすれば当然その効力の及ぶ全員の合意が必要となりますが、団体の活動に全員合意を要求することは不可能ですから区分法でも多くの団体と同様に多数決原理が採用されています。
31条は団体の根本規則である規約の設定・変更時における多数決原理を表した規定です。
団体の根本規則であることやその内容が区分所有者の共用部分や専有部分に関する権利を制限し義務を課すこと、しかも反対者に対してもその効力が及ぶことからこの種の多数決では一般に単純多数では足らず特別の要件を設けた特別多数が必要とされます。
それがどの程度であればよいかは難しい問題で原則的には立法機関たる国会の合理的判断に任せるしかありません。
31条では、規約の設定、変更又は廃止について区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数の賛成を成立要件としています。

このように、議決要件に区分所有者及び議決権の双方を要求されていますが、区分所有者数だけを要件とすることは区分所有法の本来的機能である民法物権編の特則としての財産管理法の趣旨に反しますし(財産の量に比例して制約を受けるのだから発言権もそれに比例するのが合理的)、議決権だけを要件とする場合には弱小権利者の権利が守られず規約という団体管理法の趣旨に反するので、両者の調和を図った巧妙な方法と思われます。もとよりどちらか一方のみを要件とした場合に比べて議決要件は窮屈なものとなりますが、対立する利益の調和(妥協)を図る場合のやむを得ない結果であり、特に非難するにはおよびません。


そして、この定数は立法者が賛成者と反対者の利益調整として妥当と考えて決定した基準であり、且つ規約で別段の定めを許容していませんから、加重することも緩和することもできません。

この点、共用部分の変更では区分所有者の要件を規約で過半数まで減じることを認めております(17条1項但書)。
これは、共用部分の変更では財産管理面が主眼であり、そのため弱小の持分権者が多数持分権者を規制することが忌諱された結果ですが、規約の場合はその規制内容が必ずしも財産関係には限られないため弱小の持分権者の利益も軽視することはできないとされた結果です。


さて、このように規約は区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数により設定・変更ができますが、一定の場合には更に条件が付けられています。
それは一つは、規約の変更等が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない、ということであり、もう一つは一部共用部分に関する事項で全員の利害に関係しないものについて全員の規約に定める場合に当該一部共用部分を共用すべき区分所有者の四分の一を超える者又はその議決権の四分の一を超える議決権を有する者が反対したときは、することができない、ということです。


では、一部の区分所有者に特別の影響を及ぼす時とはどういうことでしょうか。
特別の影響条項は共用部分の変更や管理の場合にも同様に存在し、その必要な理由もまた同様です。
即ち、規約の変更等は全員にその効力が及びますから、全員が多かれ少なかれその影響を受けることは明らかです。
しかし、規約は区分所有者団体の基本的ルールですから多数決で成立するものであれ、いったん決まったことは反対者もその団体の一員である以上これを守ることは当然です。
この意味で区分所有者には自己の意に添わない又は自分に不利なことでも規約を遵守するという受忍義務があります。

しかし、多数者の意思が常に少数者の意思に優越するとした場合には何時自分が少数者の立場になるかもわからないのですから安心して住むことができません。
物事には全て限界というものがあり、それは規約の場合も同様です。
その限界が特別な影響で、それは規約の変更等が特定の区分所有者の権利義務に通常受忍すべき程度を質的又は量的に超えた特別の犠牲を強いるようなときは多数者による少数者への不当な圧迫と評価されてその効力を認めないというものと考えられます。
もとより、特別な影響といっても抽象的な概念であり、具体的場合に何がそれに該当するかは一概には言えません。
ケースバイケースである変更等が特定の区分所有者に対し、受忍限度を明らかに越えたものかどうかを、変更等の必要性・合理性・緊急性と制約を受ける権利等の性質・内容・制約の程度等を総合的に判断して結論を下すべきものです。
このような具体例は裁判例が参考となりますが、単に制約を受けるだけではとくべのものとは認定されてはいませんが、専用使用権の制約では特別と認定される場合と否定される場合とがあり、認定の困難さを反映した結論となっています。


一部共用部分の場合には、当該一部共有者の一定の割合の者が反対した場合には規約の変更等ができないこととなっていますが、これは本来、全体の利益に関係しない場合には(この場合には一部共有者の反対があっても強制的に全体の規約に取り込める。)、当該部分に関する規約の設定変更権限は一部共有者の専権に属すべきものであるから当然のことです。
従って、一部共用部分について全体の利益に関係しない事項を全体の規約に取り込むためには、一部共有者だけでもその旨の一部共有部分の規約の変更等が有効に成立する場合にのみ認めることが、当該部分を共有する一部共有者の自治権を守る所以となります。
この意味で、一部共有者での一部共用部分に関する規約の変更等が成立しない場合、即ち、一部共有者の区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数を得られない場合(それは一部共有者の区分所有者または議決権の各四分の一以上の人が反対した場合です。)には一部共有部分の規約も不成立の場合ですから、全体の規約でもまた、定めることができないものとしています。

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