(規約事項)
第三十条 建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、この法律に定めるもののほか、規約で定めることができる。
2 一部共用部分に関する事項で区分所有者全員の利害に関係しないものは、区分所有者全員の規約に定めがある場合を除いて、これを共用すべき区分所有者の規約で定めることができる。
3 前二項に規定する規約は、専有部分若しくは共用部分又は建物の敷地若しくは附属施設(建物の地又は附属施設に関する権利を含む。)につき、これらの形状、面積、位置関係、使用目的及び利用状況並びに区分所有者が支払った対価その他の事情を総合的に考慮して、区分所有者間の利害の衡平が図られるように定めなければならない。
4 第一項及び第二項の場合には、区分所有者以外の者の権利を害することができない。
5 規約は、書面又は電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することのできない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものとして法務省令で定めるものをいう。)により、これを作成しなければならない。

参考 旧法(規約事項)
第三十条 建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、この法律に定めるもののほか、規約で定めることができる。
2 一部共用部分に関する事項で区分所有者全員の利害に関係しないものは、区分所有者全員の規約に定めがある場合を除いて、これを共用すべき区分所有者の規約で定めることができる。
3 前二項の場合には、区分所有者以外の者の権利を害することができない。

1.規約とは
30条は規約に関する規定です。
区分法では単に規約と称していますが一般には管理規約といわれています。

規約とは、区分所有建物において建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する事項に関し区分所有者の権利義務を定める区分所有者団体という部分社会における自治法の一種と考えられます。
30条1項はその制定の根拠を示し、その規定可能範囲を規制する授権法規且つ制限法規です。

2.実質的意味の規約と形式的意味の規約
ところで、規約には実質上の規約と形式上の規約を区別することができます。
実質上の規約とは30条1項による建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項について31条1項の手続きにより定められた規則そのものをいい、形式上の規約は、通常は管理規約というタイトルが付された文書、即ち文書の形式で存在する規約をいいます。
そして、33条により規約は保管・閲覧の対象となることにより物質性が要求されていると考えられますから、規約の制定とは実質的意味の規約を形式的意味の規約で作成することと考えられます。
従って、実質的意味の規約で定めるべき事項は形式的意味の規約で定めなければ効力がなく、実質的意味の規約で定めることができない事項は形式的意味の規約で定めても効力がありません。

例えば、ペットの飼育の制限等建物の使用に関する事項は実質的意味の規約事項ですから、形式的意味の規約で定めなければならず形式的意味の規約以外の使用細則等で定めても効力がありません(但しあらゆる細目の一切を定める必要はなく根本的・基本的制約事項が形式的意味の規約にあればその細目的事項を細則に委任することは可能です。)。

また、区分所有権の譲渡制限等は建物等の管理使用に関する事項ではありませんから形式的意味の規約で定めても効力がありません。
その他、実質的意味の規約も広義の合意の一種として強行法規や公序良俗に反することはできず、不合理に権利を制限し義務を規定するような場合にはその効力が認められないことは勿論です。

尤も、上記のとおり、規約は本来は建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する事項を定めるものではありますが、同時に区分所有者団体が制定する自治法である性格から区分所有者団体の組織・運営に関する事項を定めることができることも団体自治権から当然であり、実際管理組合の組織・運営に関する事項も盛り込んで管理規約が制定されるのが一般的です。

3.規約内容の衡平
ところで、規約は設定が任意となっていますから、必ず規約を設定しなければならないものではありません。しかし、区分法の規定だけでは区分所有者団体を運営し、建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用を円滑に実施することは困難ですから、規約が設定されることが通常です。

これについては、一定のマンションモデルを前提にした標準管理規約が公表されていますから、これに準拠した規約が作成されるのが一般のようです。
通常は、分譲会社が分譲するにあたって宅建業法上、分譲契約書、重要事項説明書、管理規約の所謂3点セットを現地販売所やモデルルームに備えることとなっていますので、この時点で規約原案が作成されます。
そして販売が進むにつれ、購入者から規約の合意書を取り付けることにより最終的に全員の合意を集めて所謂書面決議により規約(一番最初の規約という意味で原始規約といわれています。)が成立することになりますが、この形態では規約の中身は分譲業者が決定し本来の当事者であるべき購入者がその内容の決定に加わる余地が事実上ありません。
そのため、一部の分譲業者が不当な内容の規約を作成することも起こりえることになります。

このような場合への対処として新法では3項を新設し、規約内容の実質的衡平を要求しています。
このことは規約の新設でも変更でも変りはありませんが、制定の趣旨からは特に原始規約を事実上作成する分譲業者へ向けたものといえるでしょう。

3項は規約内容に形式的に不公平もの(取扱いの差異)がある場合に、その扱いを是認しうる程度の合理性の存在を要求するもので、民法90条の定める一般条項たる公序良俗を具体化したものといえます。
従って、この規定に抵触する場合は管理規約の当該抵触部分はその限度で無効となりますが、3項自体も抽象的規定ですからある事項の合理性の有無の判断は解釈者毎に結論が分かれる非常に幅広いものになりそうです。
今後の裁判例の蓄積を通じて規定内容の明確化が図られるのを待つ必要があります。

4.相対的記載事項
このように規約はその制定が強制されていませんから、規約の書式があるというものでもなく内容的にも必ず記載されないと規約が無効となるような必要的記載事項があるわけではありません。
しかし、30条1項の事項等規約に定めなければ効力がない(相対的記載事項)とされる多くの事項がありますから、規約の内容は相対的記載事項の集合体となっています。

相対的記載事項として30条1項で規約の規定内容となっている事項は、建物(共用部分は勿論附属設備や専有部分も含めた1棟の建物)又はその敷地(法定敷地は勿論規約敷地を含みます)若しくは附属施設の管理(広義の管理を言うと解するべきですから保存・管理・改良・変更の各行為をいいます)又は使用に関する事項です。

30条1項以外で規約事項となっている項目は、規約共用部分の設定(4条2項)、規約敷地の設定(5条1項)、先取特権の被担保債権の創設(7条1項)、共用部分の共有に関する別段の定め・管理所有の設定(11条1項)、共用部分の持分割合の別段の定め(14条4項)、一部は共用部分の全体での管理の定め(30条2項)、変更の決議での定数の減少の定め(17条1項但書)、共用部分の管理の別段の定め(18条2項)、共用部分の負担及び利益収取方法の別段の定め(19条)、分離処分禁止解除の定め(23条)、管理者選解任の別段の定め(25条1項)、管理者への訴訟担当の授権(26条4項)、管理者による管理所有の設定(27条)、区分所有視野の対外的責任の割合の別段の定め(29条1項但書)、規約保管者の別段の定め(33条1項)、少数総会召集権の定数の減少の定め(34条3・5項)、決議事項の事前通知の別段の定め(37条2項)、議決権割合の別段の定め(38条)、集会の議決要件の別段の定め(39条)、集会議長の別段の定め(41条)、管理組合法人を代表する理事の定め(49条4項)、管理組合法人の理事の員数(49条6項)、管理組合法人の残余財産の帰属先(56条)、軽微復旧の別段の定め(61条4項)等があります。

5.任意的記載事項
なお、相対的記載事項ではありませんが、形式的意味の規約に記載した事項はその変更が規約変更にあたるという意味で手続きが厳重であり、それらは管理組合の重要事項と認識される効果がありますから、各管理組合で重要事項と認識した項目を任意的記載事項として規約に記載することは自由です。
一般にこのことを規約自由の原則と称する場合があります。標準管理規約でも管理費や特別修繕費、会計規定等管理組合にとって重要と思われる事項を規約に記載しています。

6.一部共用部分の規約
一部共用部分については、全体共用部分と同様その共有者だけで団体(全体に対する部会)を形成し(3条)、全員の利害にかかわるものを除きその者だけで管理を行うことが原則(16条)ですが、規約に定めれば管理組合の管理に管理を移管することができることは16条の解説のとおりです(ただし、31条2項)。
それと同じ趣旨により、一部共用部分の団体(部会)においても当該団体の団体自治および一部共用部分の管理のために規約を設定することができ、その内容や権限は管理組合の場合と異なりません。

ただ、この部会の決議が必須となるのは一部共用部分の変更のとき以外にはありませんから、管理組合の組織と重複して部会を組織化するのは煩瑣且つ不経済です。
そのため用途の異なる複合建物の場合以外には部会規約を設定して部会を構成する例はあまりないようです。

7.規約の対外的効力
3項で規約は区分所有者以外の者の権利を害することができないと規定しますが、規約が区分所有者(一部共有者)団体の自治法であることから団体外の者に効力を及ぼすことができないのは当然です。
従って、3項はその当然の事柄の確認規定ということになります。

ただし、この区分所有者団体の周辺にいる関係者にも全く及ばないとすると団体の目的達成に支障が出る場合がありますから、必要な関係者には規約の効力が及ぶことを個別に定めています。
46条1項の特定承継人および同2項の占有者がこれにあたります。

8.書面又は電磁的記録による規約
新法により4項が新設され、規約は書面又は電磁的記録により作成されるべきことが明記されました。
これは規約が形式的意味(閲覧・保管の対象となる物質的な存在)で存在する必要があるということですが、このこと自体は1項および区分法の他の条項で当然のことでしたから、4項新設の意味は正に電磁的記録による規約を認めたことにあります。

尤も、電磁的記録による規約の新設は、マンション住民の皆がみんなコンピューターを使えるわけでは有りませんから、一般の要望に応えたというものではなくIT普及を重要政策とする政府行政当局の都合によるものと思われます。
従って、これが普及するかは未知数といえるでしょう。

ところで、電磁的記録による規約としてどのようなものが認められるかは、法務省令で定めるとされていますから省令が公布されるまで待たざるを得ませんが、書面という物体と並列に扱われるものですから規約データー自体を指すものではなくそのデーターを記録したフロッピーディスク、MO、DVDその他の物体としての記録媒体を指すように思われます。

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