(区分所有者の責任等)
第二十九条 管理者がその職務の範囲内において第三者との間にした行為につき区分所有者がその責めに任ずべき割合は、第十四条に定める割合と同一の割合とする。ただし、規約で建物並びにその敷地及び附属施設の管理に要する経費につき負担の割合が定められているときは、その割合による。
2 前項の行為により第三者が区分所有者に対して有する債権は、その特定承継人に対しても行うことができる。

1.区分所有者の対外的責任の理由
第29条は区分所有者の対外的責任に関する規定です。
この規定では区分所有者は管理者の行為の責任を当然負うものとしてその割合を区分所有者の有する共有持分の割合と同一のものと規定しています。

代理人の代理行為は本人に効力を及ぼすのですから、管理者を区分所有者の代理人と位置付ける区分法の立場では(26条2項)この結論は当然かもしれません。
しかし、管理者は区分所有者全員のために行為し、その効果は区分所有者全員に等しく及ぶことになりますから、民法の原則によればその債務も全員が共同して負う(不可分又は連帯債務となる)のが原則のはずです。
そうすると、この規定は民法の原則を制限して区分所有者に分割債務を認める責任の緩和規定ということになりそうです。

しかし、そう考えるべきではなく、区分所有者は管理組合という社団又は組合を組織し、管理者はその代表ないし代理機関として行為するわけですから、その債務は一義的には社団又は組合に、社団又は組合の財産を引当に帰属するものと考えるべきです。
この場合、団体の債務が団体の財産で全て弁済できれば問題がないのですが、弁済ができなかった場合にその債務に対する構成員の個人責任が問題となります。
この点、組合の場合は組合員の責任を加重して組合財産で弁済できなかったものにつき各組合員が第二次的にその出資割合で責任に応じることとされています(民法675条)。

尤も、各組合員は出資の割合で組合の損失の負担義務を負いますから、組合財産が不足する時はその割合に応じて組合に対し財産の補填を行いその財産で組合が債権者に弁済することを考えれば、この対外的責任というのは単に組合が各組合員に有する損失負担請求権の債権者による直接行使を認めたものに過ぎないともいえますが。

それはともあれ、負担割合が出資の割合か共有持分割合かの違いはあるものの民法675条の規定内容は29条と同一です。
従って、管理組合の社団性肯定に消極的な区分法の規定からすれば管理組合を民法上の組合と構成して民法675条の趣旨を確認したものが29条ということになり、29条は区分所有者の責任加重規定といえます。

ところで、管理組合を社団とした場合、その代表者たる管理者の代表行為の効果は管理組合に帰属して管理組合がその財産をもって債務の弁済にあたることになりますが、この社団の財産で弁済できないものにつき民法の原則どおり構成員の責任を追求できないとすることは民法上の組合と同様な管理組合の私益的性格から不当であり、構成員の責任を認めるべき必要性と理由があることも組合の場合と同様です。
この考えからすれば、29条は民法上の社団の構成員の例外規定として、その個人責任を認めたものといえます。

2.責任の割合
この負担割合は、原則として法14条に定める内法面積による共用持分割合によりますが、規約で管理費等の負担割合が別途規定されているときはそれによるものとされます。これは規約自体の公示性はそれほど強度とはいえませんが、一応の公示力を認めて民法675条の頭割り規定の特則を定めたものといえます。

3.承継人が責任を負う理由
なお、第2項でこの区分所有者の個人責任に関し特定承継人の責任が規定されています。
一旦負担した個人責任は区分所有者が区分所有権を譲渡しても免れることはできませんが、この条項により譲渡人と並んで譲受人も責任を負うものとされます。

しかし、組合の債権者の保護としては区分所有者個々人に管理組合と共に責任追及ができることで十分であり、区分所有者は区分所有権を譲渡してもその確定した負担分を免れませんから、わざわざ承継人に請求を認める必要は本来ありません。
尤も、上記のとおり管理組合は区分所有者に対しその費用負担割合(通常は持分割合)で費用請求ができる債権を持ち、この債権は7条で先取特権が認められると同時に8条で特定承継人に承継されるものとされています。
従って、この規定がなくとも組合の債権者は組合が区分所有者に対して有する先取特権付の費用徴収債権を差し押さえて回収し、又は組合が承継人に対して有する債権を差し押さえて回収することができることになります。
このように考えると、29条がなくとも組合債権者は29条の場合と同様の結果が得られますから29条はますます不要の条項となりそうです。

結局、29条は管理組合の債権者を特に保護しようとしたものではなく、組合の債権者が上記のように組合の債権に基づき各区分所有者の承継人に請求するという迂遠な手段を回避して直接請求を認めたものであると考えられます。

そうであるとすれば先取特権も認めてもいいようですが、先取特権は一般に特定の債権の保護を目的とするものであって組合債権者の債権というだけでは保護する謂れがないことから、先取特権については認めないものとしたようです。

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