(委任の規定の準用)
第二十八条 この法律及び規約に定めるもののほか、管理者の権利義務は、委任に関する規定に従う。

1.準用の意味
28条は管理者の権利義務について民法の委任の規定が準用される旨の規定です。

管理者を管理組合という社団の代表者と見ようと、区分所有者の受任者と見ようと、いずれも委託されて他人のために事務を行う者であることには変りがありません。
そして他人から委託を受けて他人の事務を執行する場合の通則(原則的な取扱い)が民法の委任の規定ですから、管理者に委任の規定が適用ないし準用されるのは当然といえます。
この点、民法の理事や株式会社の取締役なども同様であり、区分法では28条で委任の規定を準用する旨規定してその旨明らかにしています。

尤も、民法の委任は法律行為の委任が主眼ですから、管理組合の各種事務を執行する管理者の行為の大部分は事実行為となるでしょうからその本質は準委任といえます。

28条の規定上は区分法と規約が民法に優先適用されるとしていますので、同種の規定の場合には民法の適用は有りませんが、区分法と民法とで重複していそうな規定は民法645条の報告義務と区分法43条の事務報告ぐらいのようです。
従って、民法の委任に関する14か条のほぼ全てが区分法の管理者に関する規定に追加適用されることになります。

2.具体的な準用
民法643条委任の意義(成立)
委任も契約ですから申込みと承諾の意思表示の合致により成立します。区分法では25条で集会の決議で選任するとしていますが、集会は管理組合の意思決定機関であっても意思の表示機関ではありません。
従って、集会が決議しただけでは管理者委託の契約はいまだ未成立といわざるを得ません。
本来はこの集会が決定した意志を、その表示機関たる代表機関が表示して初めて申込みの意思表示が完成するのですが、こと団体内部の機関選任の場合に限っては総会自体が意思の表示機関も兼ねることができると解されているようで、総会の選任決議に被選任者が就任受託の意思表示をすることにより役員就任契約が成立するとされているようです。

民法644条善管注意義務
区分法には規定がないので民法の規定が適用になり管理者はその職務を執行するにあたって善良なる管理者の注意義務を負うことになります。

区分法でいう管理者とは法25条で選任され26条の職責を持つ特定の役職の者を指しますが、同じ文字でも善良なる管理者という場合の管理者は一般的に管理する者という程度の意味で特に特定の役職にある者を指す概念ではありません。
これは注意義務の程度の区別をするときに用いられる概念で一般に有償契約の当事者は物の保管や事務の処理にあたって社会通念上要求される万全の注意を払うべき地位にあるということを善良なる管理者の注意義務を負うと称しています。
これに対する概念は自己の物と同一の注意といわれ、無償契約ではこれが一般です。
現実には自分の物のほうに払う注意の方が高い場合も往々にしてあるでしょうが、民法上は他人の物については高度な善管注意義務が要求され、自己の物については程度の注意義務でよいものとしています。

委任は民法648条にあるように無償が原則ですが、受任者を特に信頼しておこなう契約である点で有償契約と同様であり、この場合の委任者の信頼を保護するため有償契約並みの善管注意義務が課されています。

民法645条報告義務
報告義務に関しては区分法43条に年1回の定期総会での報告、法26条5項に訴訟時の報告が規定されていますので、これらが民法645条の特則ということになります。
しかし、民法645条の趣旨は必要なときに適宜報告することですから、これらの区分法の規定が民法645条の規定を完全に排除するものと理解すると民法規定の緩和規定となってしまい委任の趣旨に合致しません。
従って、区分法の報告規定は報告義務の最低限を定めたものであり、それ以外にも必要なときには適宜報告する義務があるものと理解すべきでしょう。

通常、理事会等の内容が組合員に定期的に報告されますが、それはこの報告義務の履行行為と理解することができます。

報告受領権は解任権と共に委任者たる管理組合が管理者の職務執行を監督するための重要な権利ですから、委任者との信頼関係の維持と受任者の職務執行の適正を保障するため必要なコミュニケーションに努めることが必要です。

民法646条受領物の引渡義務
管理者の場合には本人にあたる管理組合には物理的な受領能力がないので、管理者が本人の財産として保管することになります。

民法647条金銭消費の責任
これは単なる不法行為の一場合を規定したものであり、管理者の場合も同様です。

民法648条報酬請求権
委任の場合が無償が原則なのは、信頼関係による役務提供が金銭精算されることに対する倫理的な反感に基づく立法の沿革によるものに過ぎません。
ただし、管理者にもこの規定は適用されますから報酬を与える場合にはその旨規約で定める必要があります。

民法649条費用前払い請求権
民法650条費用償還請求権
いずれも、委任者の事務を行うのですからその費用の一切は受任者が負担すべきは当然のことですから、受任者に費用面で何らの負担をかけないというものです。
管理者にも当然適用があります。

民法651条相互解除権
委任は相互の信頼関係が全てですので信頼関係が喪失した場合は委任関係の解消が認められなければなりません。
契約が守られなければならないのは契約の大原則であり、そのため契約の解消は違反行為や解約権留保の特約のない限り認められないのが通常ですが、委任の特質により相互の関係解消が認められています。
管理者にも適用がありますが、組合側の解消は総会決議又は裁判所の解任判決によるのであり、管理者側では辞任によることになります。

民法652条解除の非遡及
解任及び辞任は将来に向かってのみ効果を生ずることになります。

ただし、選任決議の瑕疵等就任契約自体の有効性に問題があるときには遡及的に無効となる場合があることは勿論です。

民法653条終了原因
管理者にも適用されますから、管理者の死亡・破産・被後見人の審判、管理組合の消滅・破産(管財人が引き継ぐので管理者は不要になります。破産的清算の実益があるかは疑問もありますが否定する必要もなさそうです。ただ、現実には債権者は組合の破産申立てよりも個々の区分所有者に請求することになるでしょう。)の場合に管理者は更迭されます。

民法654条緊急処分権
管理者にも適用され、辞任等で退任した管理者は管理組合の不測の損害を防止するため後任に引き継ぐまで緊急時の応急対処義務があります。
ただし、信頼関係の喪失により解任された場合には別と考えるべきでしょう。

民法655条終了の対抗要件
管理者は代表権ないし代理権をもって外部と折衝しており外部のものは管理者が代表者であることを信頼しているのが通常ですから、善意の第三者に対しては委任終了により管理者でなくなったことを対抗(主張)できないことは代理制度一般の原則です。

民法656条準委任
法律行為以外の事実行為の委任を準委任といいい、委任の規定が準用されます。
委任が法律行為を目的としたことも沿革上の理由に過ぎず、信頼関係を基礎に契約されることに変りはありませんから、準委任の場合にも委任の規定が準用(適用)されます。
管理者との関係は管理者の事実行為の委任が主ですからその性質が本来的には準委任であること前記のとおりです。

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