(権限)
第二十六条 管理者は、共用部分並びに第二十一条に規定する場合における当該建物の敷地及び附属施設(次項及び第四十七条第六項において「共用部分等」という。)を保存し、集会の決議を実行し、並びに規約で定めた行為をする権利を有し、義務を負う。
2 管理者は、その職務に関し、区分所有者を代理する。第十八条第四項(第二十一条において準用する場合を含む。)の規定による損害保険契約に基づく保険金額並びに共用部分等について生じた損害賠償金及び不当利得による返還金の請求及び受領についても、同様とする。
3 管理者の代理権に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない。
4 管理者は、規約又は集会の決議により、その職務(第二項後段に規定する事項を含む。)に関し、区分所有者のために、原告又は被告となることができる。
5 管理者は、前項の規約により原告又は被告となつたときは、遅滞なく、区分所有者にその旨を通知しなければならない。この場合には、第三十五条第二項から第四項までの規定を準用する。

参考 旧法(権限)
第二十六条 管理者は、共用部分並びに第二十一条に規定する場合における当該建物の敷地及び附属施設を保存し、集会の決議を実行し、並びに規約で定めた行為をする権利を有し、義務を負う。
2 管理者は、その職務に関し、区分所有者を代理する。第十八条第四項(第二十一条において準用する場合を含む。)の規定による損害保険契約に基づく保険金額の請求及び受領についても、同様とする。
3 管理者の代理権に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない。
4 管理者は、規約又は集会の決議により、その職務(第二項後段に規定する事項を含む。)に関し、区分所有者のために、原告又は被告となることができる。
5 管理者は、前項の規約により原告又は被告となつたときは、遅滞なく、区分所有者にその旨を通知しなければならない。この場合には、第三十五条第二項から第四項までの規定を準用する。

1.管理者の地位・権利・権限
26条は、管理者の権限(権利を有し、義務を負うといっても、権利と義務とは反対概念で両立しませんからここで権利というのは権限のことです。)に関する規定です。
管理者は管理組合の代表者または全区分所有者からの受任者として管理組合の業務を執行する立場にありますが、1項では管理者の職務として区分所有者の共有に属する共用部分や敷地・付属施設を保存し、且つこれらを集会決議に基づき管理・変更し、その他集会決議や規約に定める事務を行うものとしています。

民法その他の法令において、不在者の財産管理人や権原の不明な任意代理人の規定等法令による受任者・代理人を定める場合にはその権限を定めるのが通常です。
26条もそれらの規定と同様に、区分法の創設した管理者という地位ないし機関の権限を定めたものといえます。
その場合、代理人の権限は代理人と取引をする第三者にとって明確なものであることが要請される一方、他方として本人の利益を守りその意思になるべく合致した範囲に止まることが要請されますから、一般的には保存行為(民法103条1号)と管理行為(民法103条2号)がその範囲とされ、それ以外の処分・変更行為を行う場合には本人または代理人監督機関の特別の授権が必要とされています。

そこで区分法では、変更・管理行為は集会の決議事項とされ、保存行為は区分所有者各自の単独行為とされていますから、管理者にも保存行為の単独決定権およびその執行権を認め、共用部分等の管理・変更・処分行為については特別の授権として本人の意思たる集会決議または規約の規定に基づき執行することとされます。
要するに、管理者の権限として保存行為のみが明記され管理や変更行為が明記されていないことから、管理者は管理・変更行為を自ら決定することはできませんが(但し、規約で管理について決定権を授権することはできる。)、これらの執行は上記のとおり規約または集会の決議の実行に含まれているということです。

ただ、このように管理者を区分所有者の法定の代理人・受任者として位置付けるということは、区分法が管理組合の団体性の承認に冷淡な結果といえますが、管理組合の社団性を肯定する場合には管理者は社団の代表者と位置付けられますから、1項の権利義務は社団たる管理組合の権利義務そのものであり、管理者はその執行機関として管理組合の権利義務を執行することを1項が確認したものと理解されることになります。

なお、このような管理者の職務については26条に規定するもの以外に次のものがあります。
規約の保管(33)、集会の召集(34)、集会の議長(41)、事務の報告(43)、共同の利益に反する行為に対する訴訟の提起(57)

2.管理者の代理権
どちらの考え方をとりましても、管理者は管理組合又は区分所有者全体との間において委任又は委任類似の契約に基づく受任者であり、広く管理組合に関する業務一般を執行する権利・権限を持つのですから、対外的執行の権限として代表権ないし代理権があることはその地位からして当然といえます。
2項はこの当然の権限を代理権として認めたものです。

更に、2項では管理者に損害保険の保険金受領権等を認めています
。旧法では18条で損害保険の付保行為を管理行為と認めたこととセットとして@損害保険の保険金受領権のみが確認されていましたが、新法ではこれに加えてA共用部分等について生じた損害賠償金及びB不当利得による返還金の請求及び受領が追加されました。

この規定の趣旨は、共用部分の所有者が管理組合と考えれば当然の規定ということになりますが、通常は、@の損害保険は区分所有者個人の財産的損害の填補を目的とする保険ですから本来は管理組合の権限には属さないものですが、保険金は共用部分の修復に使用されるべきものであることから、共用部分の修復にあたるべき管理組合の業務として特に認めたものと考えられています。
Aの共用部分等の損害賠償金とは端的には共用部分が毀損された場合や不法占拠された場合の賠償額のことですが、これらも本来共用部分等の共有者がその持分に応じて個人的に受ける損害のため各自に帰属する債権と考えられており、その金額は結局毀損部分の補修に支出されるべきであることは保険金と同様といえます。
この点、Bの不当利得に基づく債権(例えば第三者が善意で敷地の一部を不法占拠していた場合の地代相当額や無効な駐車場使用契約による駐車料相当額等)はやや特殊といえ、例の駐車料は組合に最終的に帰属さすべきものといえても地代も同様かは組合に当該利益に対応する損失があるか疑問もあります。

3.代理権の制限
代理権(代表権)を認めた結果、管理者は、管理組合又は区分所有者全体の代表者として外部の第三者との間でいろいろな取引行為を行うことになりますが、管理者の行為が有効に管理組合に効力を及ぼすのは原則としてその代表権ないし代理権の範囲で行った行為に限りますし、その範囲をどうするかも委任者である管理組合(総会)で任意に決定できるのが原則です。
ところが外部の相手方は管理組合内部の事情は知りませんから、内部事情である代理権の制限で当該行為が代表権や代理権の範囲の行為ではないとされて無権代理として取引が無効となったのでは管理組合の保護にはなりますが、外部の相手方は不測の損害を蒙ることになりかねません。
管理者は管理組合内部の者であり、その執行の監督は管理組合自身がすべき事柄ですから、内部事情での代表権ないし代理権の範囲の制限はその存在を知らない相手方(善意の第三者)に主張(対抗)することができないことは、代表・代理制度の本質といえます。
これらは民商法の各規定でも見られますが区分法でも3項でこの当然の事理を明記しています。

4.管理者の訴訟担当
4項では、管理者の訴訟における当事者(原告・被告)への就任権を規定しています。
これは一般に管理者に訴訟担当を認めた規定といわれています。
裁判は、相手方との法的な紛争を解決する制度で憲法上も裁判を受ける権利が保障されていますが(憲32条)、誰でも何にでも裁判ができるというものではありません。
民事裁判では判決で白黒をつける判決(本案判決といいます。)をもらえる前提として民事訴訟で訴訟要件といわれる前提条件を満たす必要がありますが、ここで問題となる訴訟要件は当事者適格といわれるもので、これは当該紛争の判決による解決にあたってもっとも妥当な当事者が裁判に携わっているかどうかを判断して認められる原告または被告としての地位です。
すなわち、裁判の効力は原則として当事者にしか及びませんし、当事者の裁判を受ける権利を保障して紛争解決の実効性を図るためには当該紛争の当事者が原告又は被告になっているのが最も望ましいことから、通常はこの紛争の当事者に原告又は被告となる当事者適格が認められます。
そして、裁判は権利義務の存否を判断して判決しますから、権利や義務の主体であることを合い争う当事者に当事者適格が認められ、具体的には、民法その他の権利義務を定める法律の規定により権利者又は義務者となる者に当事者適格が認められる関係にあります。
ところが、他方で権利義務の主体そのものではないものの、他人の権利義務に対し干渉する権限を法的に認められる場合(債権者代位等)や権利義務の帰属主体に実際上訴訟の当事者になりうる機会や能力がないためそのものになり代わって当事者となる場合(被後見人の離婚訴訟における後見人等職務上の当事者といわれる。)にも当事者の地位が認められておりこれを第三者の訴訟担当と称しています。
2項からすれば本来、管理者の訴訟上の地位は代理人で十分のはずですが、管理者の代表者的地位を重く見て管理者を区分所有者全員を代表して訴訟を追行する職務上の当事者として当事者適格を認めたものでしょう。
しかし、管理組合を社団とし、管理者をその代表者とすればこの条項で訴訟担当を認めるまでもなく管理組合自身が訴訟することができるのですから(民訴法29条)その方が実体に即し簡便のように思われます。

なお、管理者がいない場合には合有や総有関係の事項については区分所有者が全員連名で訴訟するしかありませんが、この場合や管理者が当事者となる場合でも当事者には訴訟代理人の選任権がありますから別途訴訟代理人として弁護士に実際の裁判を依頼できるのは当然です。

5.管理者の訴訟のできる範囲
実際の裁判では、管理者が訴訟担当として行っても、管理組合が社団として行ってもどちらでも当事者適格が認められることに変わりは有りません(民訴法29条)。
ただし、両者が当事者適格が認められるのはあくまで管理組合ないし区分所有者全員のための共用部分並びに敷地及び附属施設の保存・管理・変更に関する事項や集会の決議並びに規約で定めた事項に限られることは当然であり、区分所有者の個人的利益や個人財産に関する事項に及びません(例外26条2項の3項目)。

6.判決の効力
裁判は私的紛争の解決を目的としていますから、その解決指針たる判決が確定するとその内容が当該紛争の唯一の解決方法として何人も異議を挟めないこととなっています(判決の既判力)。
管理者が管理組合の代表者として裁判を行った場合には管理組合は判決を受ける本人としてその判決に拘束され、その構成員たる区分所有者も同様です。
また、管理者が区分所有者の訴訟担当者として裁判を行った場合、紛争当事者は本人たる区分所有者自身ですから、判決の効力は当然本人たる区分所有者に及び区分所有者を拘束します(民訴法115条1項2号)。
従って、これらのものが受けた判決に不服があっても確定すると再審事由(民訴法338条)がない限り、重ねて同じ訴えを起こすことができませんから、そのために損害を受けた場合はこれらのものに対して損害賠償をすることで対処するしかありません。

なお、民法上の組合が受けた給付判決や合名会社が受けた給付判決の執行力は民法675条、商法80条を通して構成員の責任に当然に及ぶと解されているようですから、管理組合の場合も区分法29条により当然に及ぶものと考えられます。

7.管理者の報告義務
ところで、管理者は受任者の立場にありますから委任者たる管理組合や区分所有者に適宜その事務の報告をする義務があることは当然であり、このことは報告内容が裁判事項である場合に限りませんが、裁判は管理組合にとって重要事項である以上、管理者が原告又は被告となつたときは、遅滞なく、区分所有者にその旨を通知しなければならないこととされています。
ただし、5項では規約に基づき(集会決議なしに管理者の判断で)原告または被告となったときにその旨区分所有者に通知する旨が規定され、集会の決議で原告または被告となったときの報告が要求されていません。
これは集会決議がある場合には当該集会またはその招集手続きや議事録等で欠席者も含めて全区分所有者に裁判の存在が明らかであるためでしょうが、管理者の報告義務からすればその場合でも適時必要な情報の提供を行うべきでしょう。
なお、この場合の通知方法は総会の召集通知の規定が準用されています。

8.管理者の報酬
管理者には委任の規定(民法648条)が準用されますから、無報酬が原則であり特約のない限り報酬は貰えません。
しかし、区分所有者以外のマンション管理士等有償で他人のために事務を処理する者がその職務として行う場合には有償とする合意があるものと見るのが通常です。

9.管理者の義務
管理者には委任の規定が準用され、無報酬でも善良なる管理者の注意義務(略して善管注意義務といわれます。)が課されます。
尤も、民法上の有償契約ではすべてこの善管注意義務が課されていますから、無報酬でも課されるという点が特色といえるでしょう。
善管注意義務とは、抽象的にはその者の職業、社会的・経済的位置に基づき一般的に要求される程度の注意をいいますが、ようするに管理会社を管理監督する立場の管理者は有償の管理会社が負う責任と同じ程度の責任を負すべきですから、一般組合員が管理会社に期待し且つ要求するのと同程度の義務が理事長に要求されているということになります。

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