(管理所有者の権限)
第二十条 第十一条第二項の規定により規約で共用部分の所有者と定められた区分所有者は、区分所有者全員(一部共用部分については、これを共用すべき区分所有者)のためにその共用部分を管理する義務を負う。この場合には、それらの区分所有者に対し、相当な管理費用を請求することができる。
2 前項の共用部分の所有者は、第十七条第一項に規定する共用部分の変更をすることができない。

  1. 20条は管理所有者の権限に関する規定です。
    尤も、文面上明らかのように権限そのものの規定ではなく権限の制限に関する規定というのがより正確といえます。

  2. 管理所有とは、第11条第2項の規定に基づき共用部分が全員の共有との原則を規約で特定の区分所有者の単独所有又は一部の者の共有(但し、本来的に一部の者の共有である一部共用部分とは異なる。)とした場合の特殊な所有方法を指称する概念で、その主体は区分所有者(法27条で管理者であれば区分所有者でなくとも可)であり、目的物は共用部分、権利の性質は所有権であることは第11条第2項の規定から分かりますが、それ以外の内容に関しては法に規定がなく定かでは有りません。

  3. 管理所有制度の立法趣旨に関しては、立法担当者の説明によれば(新しいマンション法)、区分法制定当時に共用部分を実際に管理する者の所有にしているケースがあって、その実態を認めるために規定したものとのことであり、このように管理対象が単独所有であればその委託契約もその者が単独で可能であり管理の便宜に資する、というものです。
    確かに、集団的な管理体制が未成熟で、且つ管理組合の団体性もはっきりしていなかった当時において、管理委託契約一つをとっても区分所有者全員が契約当事者として署名捺印しなければならないことを考えると、管理所有の方式により誰か一名にその処理を任せることは、管理の円滑化が望めたわけですからその意義は十分認められる所です。
    しかし、管理組合の団体性が肯定され、各区分所有者の権利意識も向上し、多数決で決定したその意思を代表機関が表示するという現行においては、管理の便宜という点ではこの制度を利用する必要性は感じられないでしょう。

  4. そのためもあってか、管理所有方式はあまり見られませんが、一応の検討をしてみますと、まず、管理所有者は規約の設定又は変更により共用部分の所有権移転を受け所有者となり、20条1項により区分所有者全員(一部共用部分については、これを共用すべき区分所有者)のためにその共用部分を管理する義務を負うとされていますから、全員のための管理義務が付着した所有権を取得するに過ぎないこととなります。
    元来、所有権は他の制約や負担なしに自由に物を支配する権利ですから、このような制約を伴った所有権の移転というのは通常のものとはいえません。
    ところが、これは、まさに「本法ニ於テ信託ト称スルハ財産権ノ移転其ノ他ノ処分ヲ為シ他人ヲシテ一定ノ目的ニ従ヒ財産ノ管理又ハ処分ヲ為サシムルヲ謂フ」(信託法第1条)ということですから、共用部分の管理を目的としてその所有権を移転するという管理所有が信託の一種であることを示しています。
    これは即ち、管理所有が信託的譲渡といわれる所以です。
    なお、信託的譲渡とは、特別の意味のある表現ではなく、この信託における譲渡行為ないし単純な譲渡ではなく信託上の制約のある譲渡行為という程度の意味合いです。

  5. さて、管理所有が信託だとすると、信託における三主体、即ち委託者は区分所有者全員(一部共用部分は当該一部共有者、以下同じ。)であり、受託者は管理所有者たる区分所有者又は管理者、受益者は区分所有者全員ということになります。
    この信託財産たる共用部分は受託者たる管理所有者の固有財産には含まれない独立財産とされ(信託法22条)、管理所有者は善管注意義務を負い(信託法20条)、事務の報告義務があり(信託法40条)、また管理の失当の時には損害賠償責任を負いますし(信託法27条)、その他の事項も信託法が適用ないし準用されるものとして考えるべきでしょう。

  6. 問題は、管理所有者の管理方法の内容が不明確であることですが、信託では信託行為(信託契約)で定められることを予定し、区分法では単に管理としか表現していませんので、より詳細な内容は管理所有を定める規約で規定されることを予定しているものと思われます。
    しかし、この規定がないか不明確な場合は、管理所有者が善管注意義務をもって判断・実施するしかありません。
    その場合、管理所有者が単独所有することとなる共用部分について法12条の反対解釈により13条から19条までの規定の適用が排除されるとすると、管理所有者は共用部分の管理義務の趣旨に反しない限りその有する所有権に基づき自由に(集会の決議なく)共用部分を管理(維持・保全の意味)・使用・収益できることになりそうです。
    尤も、信託された権限が管理ですから処分や変更が除外されることは当然で、20条の2項もこのことを確認的に規定しています。
    そこで管理(維持・保全の意味)・使用・収益の可否ですが、管理(維持・保全の意味)については20条3項で非除外項目となっており、また18条2項により総会が必ずしも必須とはなっておりませんから管理所有者の自由な判断で可能として良いでしょう。
    使用については、排他的使用を意味するとすれば共用部分の性質に反しますから管理所有という信託の趣旨に反するといえます。尤も、管理室や機械室等一般の区分所有者の現実的な利用が予定されない部分は別に考えることができるでしょう。
    収益については、本来無償利用が予定される部分を有償とするのは信託の趣旨に反しますが、共用駐車場等本来有償の部分の収益権限は認めてもよいようです。
    この場合、利用金設定や徴収方法も管理所有者が総会決議なしに決定できると思われます。
    ただし、この収益は信託財産の一部を構成するのであって管理所有者の個人財産になるものではないことは当然です。

  7. また、管理所有者がその信託事務として実施するこれらの費用は、本来信託財産をもって支弁するのが原則ですが、共用部分という性質からその処分を考えることはできませんから、上記の収益を越える費用については委託者が負担するのが当然です。20条1項後段はこのことを確認しています。


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