(共用部分の負担及び利益収取)
第十九条 各共有者は、規約に別段の定めがない限りその持分に応じて、共用部分の負担に任じ、共用部分から生ずる利益を収取する。

    第19条は共用部分の負担及び利益収取に関する規定です。
    物の所有者は、その所有権に基づきその物を自由に使用収益することにより(民法206条)その利益を享受する訳ですから、その反面、受益の責任としてその物の費用を負担することは当然です。
    そして、物が共有の場合は各所有者(共用者)の所有権の割合が持分ですから共有者の利益の享受(民法249条)と負担(民法253条)が持分に応ずることもまた当然であり、19条は区分所有の場合においてこのことを確認する規定といえます。
    即ち、19条は1棟の建物のうち専有部分を除く部分の共用部分は区分所有者全員の共有とされ(11条1項)、その持分は原則として床面積の割合によるとされておりますので(14条1項)、区分所有者全員が共用部分の所有者としてその費用を分担し、その利益を享受するという原則を宣言する規定です。

  1. 尤も、この負担義務ということも、物が単独所有の場合には所有者がその物をどう管理するかは他人に損害を与えない限り自由であり、極論すれば廃棄するのも自由ですから管理費の負担義務といっても他に負担する者がいないという消極的な意味合いですが、共有の場合には複数の所有者が存在しますので持分を放棄しない限り廃棄も自由とはいかず、持分の多数決で管理方針が決定されればその費用は各自が持分に応じて強制的に徴収されるという積極的なものになるという違いは有ります。
    更に、11条で共用部分の実際の所有者が団体としての管理組合であって個々の区分所有者ではなく、区分所有者は形式上の所有名義人に過ぎないと考える場合は、19条の規定は所有者の権利義務ではなく管理組合という団体構成員としての区分所有者の権利・義務を定めた規定であるといえるでしょう。

  2. ここで、負担とは、共用部分の清掃費・照明代・動力費・管理人人件費・エレベーターその他機器の保守点検費等からなる管理費と大規模・計画修繕費からなる修繕積立金のように共用部分を維持・保全・修繕・改良するための費用および共用部分に起因する不法行為の賠償金その他共用部分に関して発生する一切の責任をいいます。

  3. なお、このような定義付けや「共用部分の負担」という文面からは管理や修繕に関する直接費用のみが本条に該当し、会議費や通信費等の組合費的な費用や徴収費等の間接費については定めていないようにも思われますが、このような間接費も区分所有者に便益を与える一方、他に負担者がいないという点では共用部分の負担である直接費と同様ですからこれらの間接費用に関しても本条が準用又は類推適用され、それらの費用も持分に応じて全員で負担するものであると考えるべきでしょう。

  4. ところで、一般に実際に管理業務を実施するのは管理会社等(工事業者や電気ガス水道の供給者等管理組合に物品サービスを提供する者を広く含む。)であり、現実的な費用負担の流れは管理会社に対して管理組合が委託費を負担する、各区分所有者は管理組合に対して委託費の持分負担分を負担するという形態になります。
    従って、このような費用の負担を考える場合には、ここに登場する管理会社等、管理組合、区分所有者の三者間の問題として@管理組合と実際の管理業務や修繕業務を実施する管理業者等との関係、A管理組合とその構成員である区分所有者との関係、およびB管理業者等と区分所有者との関係を検討する必要があります。
    このうち@は純然たる民法上の契約関係ですから特に区分法上考慮を要する問題はありませんが(管理組合側の契約主体が管理組合の実体が管理組合法人と権利能力なき社団の場合と民法上の組合の場合とで異なりますが、その相違の結果は結局Bの問題に帰着します。)、AとBは問題です。
    なぜなら、団体の構成員の責任には、団体内部関係における責任としての構成員の団体に対する責任とその団体外部関係における責任としての構成員の団体外部の者に対する責任が区別され、それぞれ問題になるからです。

  5. そこでまずAの管理組合とその構成員である区分所有者との関係ですが、一般に構成員は団体の資金の出資・負担者ですから出資又は損失負担の関係がこれに該当します。
    それは民法上の組合では出資の割合(民法674条、出資自体は最初の組合契約で定まる。)であり、社団の場合は定款で定めることとなりますが、出資額が平等でない限り組合の場合と同様に出資の割合とする取扱いが最も公平な方法といえるでしょう。
    ところで、管理組合はその性質が稀に民法上の組合である場合もあるものの概ね権利能力なき社団と考えるべきであり、且つ各区分所有者の出資額はその持分がこれに該当しますから、各区分所有者の損益分配は持分の割合によるとするのが最も公平です。
    また、管理組合が民法上の組合の場合も同様でありこの場合も各区分所有者の損益分配は持分の割合によるとするのが最も公平です。そしてこの結論は19条に記載する内容そのままですから、19条は第1次的には管理組合とその構成員である区分所有者との内部関係における責任を確認的に定めたものといえます。

  6. ただ、この19条が単に存在するだけでは、管理組合に対する区分所有者の債務は抽象的な負担義務に止まります。これを現実的・具体的なものにするには、その負担内容が集会決議や実際の費用発生により具体化されなければなりません。具体化された債務は、管理組合に対する現実の支払債務として請求(裁判上の請求を含む)することができ、法7条の先取特権の被担保債権となり、法8条の特定承継人の被承継債務となります。

  7. さて、このように具体化された管理組合の債権に関し、その消滅時効期間について定期給付債権(民法169条)に該当し5年間とする考えと一般債権(民法167条1項)に該当して10年間とする考えがあります。
    定期給付債権とは、地代家賃や年金のように原則として毎月定期的に支払がなされる債権であり、追怠られがちであると共に支払い証書が債務者の手元にないことが一般のため債務者を保護の目的で短期の消滅時効を認められたものです。
    確かに実際の管理組合の管理費は月払いが一般で毎月定額の点では地代家賃と同様ですが、地代家賃等が期間の経過による便益の対価を期間経過毎に支払うというルーティンな債務で正に定期給付債権の短期時効の趣旨に合致するものであるのに対し、管理組合の区分所有者に対する債権は組合債務の各区分所有者の分担であって、その実態は元本債務の分割返済(これは定期給付債権ではない。)というべきものですから定期給付債権には該当せず一般債権(民法167条1項)に該当して10年間と考えるべきです。

  8. 更に、具体化された管理組合の債権の放棄の方法についても争いがあります。
    現在の主要な考え方は組合財産は区分所有者の合有ですから、民法の原則どおりその放棄には全員の合意が必要であるとするものです。
    民法上合有の場合は持分の存在は肯定されますが、通常の共有と異なり個々の持分の放棄は認められません。
    従って、合有財産全体を放棄するには全員が一致して全持分を放棄する必要がありこの意味で全員の合意が必要とされるわけです。

    しかし、この考え方は我妻民法講義中2(組合の部)によるものと思われますが、共用部分の変更に全員の合意を要した旧区分法制定時の昭和38年代のもので現在も妥当するかは疑問があります。
    なにより、管理組合を民法上の組合と前提していることが現状にあわず、管理組合は組合ではなく社団と解するべきですからその所有形態は合有ではなく総有として考えなければなりません。
    しかも、放棄も処分行為一種とされますが、合有の代表例である民法上の組合でさえ、少なくとも組合事業に使用される限りにおいては個々の組合財産の処分に全員の合意を要求しておりませんから管理組合が組合の場合でも結論が妥当とはいいがたいものが有ります。
    そこで総有財産の処分方法が問題となりますが、この問題の検討には区分所有者の総有というアプローチよりも社団財産の処分として民法の規定を参照するアプローチがより適切でしょう。
    なぜなら管理組合が社団であるとすれば民法の社団法人の規定が権利能力なき社団にも適用のある社団の本質を規定したものとして社団の通則規定であることに関し異論がないからです。
    そうすると、管理組合という社団の財産の処分が社団の事務に該当するのは明らかですから民法63条の精神により総会の決議で処理される事項となることも明らかになります。
    この結論は、管理組合法人の財産処分がその法人の事務として総会決議で処理されるとする現時の通説と結論を同じくしますが、法52条が民法63条の特則であり且つ民法の社団法人の規定が法人格に関する規定ではなく社団に関する規定であることの当然の結果といえるでしょう。
    その意味では、法52条も同様に法人格の規定というより社団の特則というべきですから、権利能力なき社団としての管理組合の場合に準用ないし類推適用すべきは民法63条よりは法52条ということになります。
    従って、財産の処分が管理行為となるか変更行為となるかの区分により総会の絶対多数決と単純多数決の別や理事等への委任の可能性が決定されるものの全員の合意が必要となるものでは有りません。
    また、放棄の対象とされる財産が共用部分か付属施設や設備か、はたまた債権かに違いはないことになります。

    尤も、以上は財産放棄の法的方法に関する検討であり、個々のケースの財産放棄の是非や当・不当は別問題です。法的に有効に放棄(債権の放棄は相手方のある意思表示ですから相手方に意思表示しなければ効力がありません。)したとしても、不当に組合員の権利を侵害した場合は不法行為の損害賠償責任を負うことがあります。

  9. 次にBの管理業者等と区分所有者との関係ですが、@のように団体が結んだ契約上の債務は一次的には団体がその財産で支弁するのが原則ですから、Bが問題となるのは団体の財産で支弁できない場合の構成員の責任ということになります。
    この点、管理組合が単なる民法上の共有者の集合に過ぎない場合は@の契約も構成員が合同で契約した契約当事者となりその契約上の利益を不可分的に享受することになりますので、その反対給付たる債務も不可分債務となることが民法の原則です。
    即ち各区分所有者が管理会社等への支払いの全額につき支払い債務を負う関係です。このような学説もあるようですが、管理組合が社団若しくは組合であることを考慮していない結論で妥当とは考えられません。
    尤も、専有部分の共有は原則として民法上の共有ですからAの組合債務を各共有者が全額につき不可分債務を負います。

    そこで、社団たる管理組合の場合の区分所有者の対外的責任ですが、民法上、権利能力なき社団の場合は構成員は社団債務の責任を負わないというのが原則です。
    しかし、社団の債権者がすべからく社団財産のみからの弁済を期待すべきとするこの結論は社団の性格も考慮しなくては不当なことになりかねません。
    管理組合は公益を目的とする社団ではなく構成員の利益を目的とするもので社団債務の全てが構成員の便益の対価であることを考慮すると社団債務の最終責任は構成員が負うのが公平といえます。
    従って、構成員の対外的責任を肯定すべきですが、管理組合が民法上の組合の場合は民法675条により、社団の場合は法53条の準用ないし類推適用による責任を負うものと考えるべきでしょう。
    このことは、法19条の内容と同じですから、19条は区分所有者の対内的責任のみならず対外的責任に関する規定でもあるといえることになります。
    このように見てくると、結論的には、管理組合法人の場合に53条が適用されるほか、管理組合が権利能力なき社団と組合の場合は等しく19条が区分所有者の対内的・対外的責任を定めた規定であると理解すべきでしょう。
    従って、組合財産で完済されない債務については各区分所有者は持分に応じてその債務を弁済する責任を負うこととなります。
    このことは、まさか管理会社等も個々の区分所有者に全額請求を期待してはいないでしょうから結論としても妥当なものと考えます。

  10. 以上は区分所有者の負担に関する検討ですが利益の場合もほぼ同様です。 このうち、共用部分の使用に関する利益については法13条で持分ではなく用法に従い平等に使用できることになっていますから、ここで利益とは使用以外の駐車場使用料・各種専用使用料・電柱や看板の設置料等の共用部分の使用の対価が主なものでしょう。
    勿論共用部分や附属施設・設備の売却代金や資源ゴミの回収収益等が発生すればそれも含みます。

    これらは可分債権である金銭債権となりますので19条をストレートに適用すれば、持分に応じた債権を各区分所有者が取得するようにも思えますが、これらの実態が社団財産の使用の対価等である以上、この財産はまず社団(若しくは組合)に帰属しますので、各区分所有者への配分も組合財産の処分の一環として総会決議が必要であることは上記の組合財産の放棄の場合と同様です。
    従って、この決議無しには各区分所有者は当然には自己の収益分を組合に請求する権利はありません。
    その意味で、利益の収取の場合にも19条は総会決議で具体的な債権にならない限り抽象的な権利に止まります。

  11. ところで、19条は負担や利益の持分での配分を原則としてますが例外的に規約で別段の定めを許容しています。専有部分の用途が異なり管理仕様が異なる場合は面積按分の管理費負担は不合理ですし、その他持分によるべきではない合理的な理由があれば規約で相当な負担や利益の配分基準を定めるべきでしょう。
    この際、管理費の負担基準と修繕費の負担基準を別に定めることも当然に可能です。
    なお、消極的では有りますが、19条の持分負担の原則は1階でエレベーターを使用しないから当該エレベーター管理費の負担を拒絶する意見に対する法の反論という意味合いでの使用も可能かもしれません。
    ただし、当該クレームに合理性のある範囲で別の負担基準を策定する事がより公平であることは勿論です。


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