(共用部分の変更)
十七条 共用部分の変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。)は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議で決する。ただし、この区分所有者の定数は、規約でその過半数まで減ずることができる。
2 前項の場合において、共用部分の変更が専有部分の使用に特別の影響を及ぼすべきときは、その専有部分の所有者の承諾を得なければならない。

参考 旧法(共用部分の変更)
第十七条 共用部分の変更(改良を目的とし、かつ、著しく多額の費用を要しないものを除く。)は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議で決する。ただし、この区分所有者の定数は、規約でその過半数まで減ずることができる。
2 前項の場合において、共用部分の変更が専有部分の使用に特別の影響を及ぼすべきときは、その専有部分の所有者の承諾を得なければならない。

1.民法との違い−要件緩和の理由−。
第17条は変更行為に関する規定です。
1項は、共有物の変更を共有者の議決権(規約で特段の変更のない場合には持分)および共有者数の各3/4の多数決でできるとして、同様の事項に関する民法251条の全員の合意の原則の特則を定めた規定です。
区分法でも昭和58年改正前の旧法では民法の原則である全員の合意を必要としていましたが、それでは1名でも反対の人がいると多くの人が必要とする改善工事ができなくなる等の不都合がありますので、全員の合意を所有者及び議決権の各3/4の多数という条件に緩和したものです。

2.強行規定。
本来全員の合意を必要とする行為を法が緩和した規定ですから、規約等の当事者の合意でこれを更に緩和したり制限を強めたりすることはできません。その意味でこの規定は強行規定です。
ただし、持分の帰属に偏りがあって一部の者が大多数の持分を有するような場合に多数の少数持分権者の一部の者の反対で必要とする改善工事ができなくなる等の不都合を回避するため区分所有者の定数要件は、規約でその過半数まで減ずることができるとされていますので、この範囲の緩和は法が認めているといえます。
この緩和の趣旨が妥当なものかどうかは議論のあるところですが、区分法が財産管理の法である民法の特則規定である性格が現れている規定と言えます。

3.変更とは。
ところで、区分法は民法の規定方式を受けて、最広義の管理を変更・管理・保存(広義の管理の一種)の3形態に分け、これを17条・18条1項本文・18条1項但書にそれぞれ規定しています。
このうち、保存は物の価値(使用価値・交換価値)を維持・保存すること、管理は物の使用(使用価値の実現)及び改良(使用価値や交換価値の増加)すること、変更は物の形状・性質・特性を改変(使用価値や交換価値の改変)することを意味する概念といえます。
このように変更とは物の形状・性質・特性を改変しもってその使用価値や交換価値の改変することをいいますから、目に見える物理的な概念としての既存の物の増設・除去・追加・改変のみならず、用途の変更、管理行為を超える使用権の設定等の無形の行為も使用価値や交換価値の改変として変更に該当することになります。

新法では、変更行為をその形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除くとして、民法での通常の定義どおりのものに変更規定を改正しましたから、形状又は効用の著しい変更を伴わずに原状を回復するものであれば所謂大規模修繕工事も管理行為の一環として通常決議で実施できることになります(これがこの条項の改正の趣旨でもありますが。)。

4.変更判断の基準。
なお、ここでいうところの変更・管理・保存は対象とする1棟の建物全体の価値に対する概念であり、特定の一部分を対象とするものではありません。
なぜならば、そうでないと全体的見地からは管理行為や保存行為であっても当該一部分から見ると変更や処分に該当してしまい18条で過半数要件や単独行使を認めた趣旨が意味をなさなくなってしまうからです。

以上のとおり変更を定義しても抽象的なものに止まり具体的場合に管理行為と区別される共用部分の変更行為とは果たして何かはあまり判然としませんが、その実施手続きが通常決議と特別決議に分かれることから双方に該当すると思われる事項については当該行為の性格、内容、実施方法や各人に及ぼす影響、負担額等を当該時点の社会常識に照らし総合的に判断して決することになるようです。
これを端的に表現すれば、変更行為の場合は皆を呼んで相談しなければ決められないと思われる事項であり、管理行為の場合は来た人だけで決めても欠席した人から文句を言われないと思われる事項と言えるでしょう。

5.変更か否かの判断。
ちなみに、エレベーターに遠隔監視装置を設置する場合は、安全性の向上として使用価値や交換価値の増加が見込まれ改良概念に該当すると共に機器の新設や価値の変更という意味で変更概念にも該当しそうですが(設置工事に伴う共用部分への加工自体を変更とすべきではありません。)、既存の機器の常識的な範囲の機能向上を目的とするものに過ぎず管理行為に含む改良と思われます。
また、インターネット回線の新設も現在では同様に管理行為といえるものと考えます(この点に関しましては何を選択するかの方が問題かもしれません。)。


6.旧法での著しく多額とは。
なお、以上は、共用部分の変更は、形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除き、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議で決するものとするとする本条の改正後でも同様と思われますが、旧法では性質上の変更となるかどうかに係らず著しく多額の費用の場合を変更に含めておりました。
ただし、、この規定自体は新法と矛盾するものではなく、そのままこの規定を存続させる場合には管理行為のうち特に特別決議を要する規約の別段の定めとして新法施行後も有効といえますので、この規定を持つ管理組合では新法施行後も著しく多額とはいくらかが問題となります。

これも抽象的で巾のある概念であり、結論的にはケースバイケースの判断となりますが、経常的に支出する修繕費等の額と比べて絶対額が明らかに多額であるか、又は各自の負担額が一時金で徴収するとしたら皆を集めて相談する必要がある程度に高額かを(反対から言えば、この程度の負担でいちいち呼ぶなと思われない額)、判断することとなるものと思われます。

7.特別の影響とは。
2項は、共用部分に係る既得権者の既得権保護の規定です。
共用部分の変更は既存の共用部分の形状や使用方法等の現状を改変するため全員に何らかの影響を及ぼすことは避けられませんが、その影響が特定の専有部分や専用使用権設定部分その他特定の区分所有者の共用部分との係わり合いに特に強く発現する場合もあります。
この場合に一方で、多少の影響があるからといって変更を拒絶されるのでは円滑な共同生活は成り立ちませんが、他方で特定の者に通常受忍すべき範囲を超える程度の受忍を強いる場合は多数による少数の圧迫としてそのような行為が制限されるのもまた当然です。
このような趣旨により、変更が特定の区分所有者に通常の受忍範囲を超える場合にはその承諾を必要とするのが2項です(この反対の解釈として、特別の影響がない限り個々の承諾は不要ということで、現実にはこの意味で使われるのが多い条項です。)。

何がこの特別の影響かもまた抽象概念ですから個別的な判断となりますが、工事の目的、性格、内容、方法、必要性と影響の性質、内容、程度、必然性ないし回避可能性、代償措置等を総合的に判断する必要があるでしょう。

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