(建物の区分所有)
第一条 一棟の建物に構造上区分された数個の部分で独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用途に供することができるものがあるときは、その各部分は、この法律の定めるところにより、それぞれ所有権の目的とすることができる。


所有権は物に対する全面的な支配権であるから所有権の目的となるものは1個の物であることが必要とされます。そして建物の個数は社会通念上その棟数で数えられるので本来建物の1個は1棟でなります。
しかしながら、中高層マンションの出現により1棟のマンションを区分してその一部を各々の所有権の対象とする必要が生じたため民法の特別法として区分所有法が制定されました。

第1条は区分所有建物の成立要件を規定しており、この条文によればそれには@構造上区分されていることA独立して利用できることが要件とされます。これを一般に@構造上の独立性、A利用上の独立性と称しています。
構造上の独立性は、他の区画と区分され他の人の所有物との混合の危険性がないという所有権の対象としての適格性の要件であり、利用上の独立性は、本来1個の物の一部分を特別に所有権の対象とするだけの必要性の要件といえます。

構造上の独立性とは、区画が床・壁・天井等で物理的に他から区分されていることをいい、原則として四方が完全に区画されていることが必要です。区画の材質は木材、コンクリート、ガラス等ある程度永続的に区画を区分しうるものならこれを問いません。現状は紙や布・ベニアでは区角材の要件を満たさないようです。ただ、構造上の独立性も建物の用途との関係で相関的に判断されるものであり、住宅ではそのプライバシーを守るために四方を閉じた完全な独立区画であることが必要ですが、駐車場では出入口が開放されていたも車は文句を言いませんから三方が閉じられていれば構造上の独立性が肯定されます。

利用上の独立性とは、当該区画が住居、店舗、事務所又は倉庫その他の用途に独立して支障なく利用できることを言います。
支障を生ずる場合に他の専有部分との関係での支障と共用部分や共用施設との関係が考えられます。専有部分との支障とは、他の専有部分を経由しなくては外部に出られない場合や反対に当該専有部分を通らずに外部との交通手段がない専有部分がある場合です。これらの場合には、通路となる区画は他の共用に供されますので独立して利用しているとはいえません。従って、この場合は当該区画と他の専有部分とを一体にしたものが1個の専有部分ということになります。
共用部分や共用施設との関係は、専有部分を通らないと共用部分へ行けない場合や専有部分内に共有設備等がある場合です。この場合は当該専有部分の用途と共用部分や設備の内容・利用状況等により専有部分の独立利用を害するものかどうかを具体的に判断しなければ結論は出ません。なお、ここでも建物の用途との関係で独立性は相関的に判断されます。例えば、ある住居を通って共用の倉庫に行くのは住居の独立利用を害しますが駐車場の利用は害されないとするのが通常です。問題は専有部分内に共用設備がある場合とりわけ防災盤やエレベーター監視盤があったり受付がある管理人室が専有部分としての用件をみたすかですが、管理事務室としか使用できないようであれば利用上の独立性がなく、多少の不便はあっても住宅や事務所にあまり支障のない使用ができるようであれば利用上の独立性を認めても良いと思われます。

ところで、このように構造上・利用上の独立性が認められ所有権の対象となったとして、はたして自己の所有権の及ぶ範囲がどこまでなのかは法に規定がありません。この点の考え方としては、大別して壁芯説と上塗り説があります。このうち壁芯説は隣戸との床・壁・天井スラブの中心線を境とする説であり、上塗り説は床・壁・天井スラブの躯体部分は専有部分に含まれずその上塗り部分のみが専有部分とするものです。
壁芯説を取ると、壁の中心までは自己の所有権が及びますから壁に時計や額をビスで吊り下げる等の日常生活の空間的利用は当然のこととして専有部分内のリフォーム工事も原則として自由に行えることになり個々の所有者には大変便宜な結果になります。反面、躯体の半分が専有部分ということですからこれを自由にはつれるともなりかねずマンション全体の構造上は問題がある考え方でしょう。
上塗り部分説は、マンション全体の構造上は問題がありませんが、壁紙やカーペット等の躯体の上塗り部分のみが専有部分ですからこれらの取替は自由となりますが壁に時計や額をビスで吊り下げる等の日常生活の空間の利用は専有部分外に効果が及ぶ行為として原則自由とはいえないこととなります。従って、これらの説を文字通り適用すればあまり妥当な結果とはなりませんから、壁芯説では構造上の問題を生ずるような行為は共同の利益に反するものとして当然禁止される、上塗り部分説では共同の利益に反しないような日常的な利用は共用部分の通常の用法として当然許される、と一定の制限をつけて理解すべきでしょう。
いずれの説も一長一短がありますが、標準管理規約における上塗り説が一般である現状においては結論的には上塗り説で理解しておくべきでしょう。


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