H18.09.08 東京地方裁判所 平成17年(行ウ)第386号裁決取消請求事件の解説

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この事件は、マンション隣地の建築計画に反対する管理組合が行政庁の行った建築基準法の接道義務緩和認定処分に対して無効確認を請求した事例である。
本判決は、建築基準法の接道義務緩和認定が行政訴訟の対象となる行政処分であると認め、建築基準法の接道義務が建築主のみならず近隣住民の生命・身体・財産の保護を目的とした規定で、近隣の住民や各区分所有者個人も行政訴訟の当事者適格があるとした。
そのため、各区分所有者個人は違法な行政処分を取消させて、隣地の違法建築を阻止しうることとなる。

ところで、管理組合は区分所有者の団体であり、区分所有者が個人の資格で訴訟可能であれば、利害を共通にする区分所有者の総体である管理組合が、全区分所有者を代表して訴訟を行うのが最も適切なやり方に思える。この事件の原告である管理組合もこのような考えで裁判を起こしたものであろう。
このため、管理組合は@当事者適格のある区分所有者の団体であること、A管理者には区分法26条4項により裁判の当事者適格があり、区分所有者の総体である組合も同様と考えるべきこと、B管理組合には任意的訴訟担当(本来の当事者の授権により当事者となること)が認められる資格があること、などを主張して当事者適格を具備する旨争った。

しかし、これらの主張に対して裁判所は次の要旨で、管理組合の当事者適格を否定し、訴えを却下した。それは、
@管理組合とその構成員の区分所有者は別の存在(人格)であり、管理組合自身は侵害されるべき生命・身体・財産を持たず、管理組合には当事者適格の基礎となる保護すべき利益がない。
A管理者に当事者適格が認められても管理者とは別の主体である管理組合自体に当事者適格を認められるとは限らない。
B区分所有者個人又は管理者(任意的訴訟担当)が訴訟できる以上、これに重ねて管理組合に当事者適格を認める必要性がない、というものである。

ところで、構成員各自に認められる利益がその総体には認められない、というのは分かりにくいが、この判決のとおり管理組合とその構成員とは別個の存在であり、管理組合自体は建物を所有せず、生命・身体もない以上、管理組合自体としては当事者適格を認める基礎としての法律上保護すべき利益を認めることができない、というものである。

それでは、訴訟担当(任意的)を認めるべきか、であるが、任意的訴訟担当は、弁護士代理の原則、訴訟信託の禁止に反せず且つその合理性(必要性)が認められる場合に、肯定されるが、保護すべき利益を持つ者の総体である管理組合には、依頼者の利益に反する三百代言の弊害は考えられず弁護士代理の原則や訴訟信託禁止に反するとは考えられない(それだからこそ裁判所も合理性・必要性の点を問題とし、他の訴訟手段があるため訴訟信託の必要がないとしたのであろう)。

本件での管理組合の主張Aの趣旨は管理者に認められる訴訟担当を管理組合にも認めるべきとの内容であり、その実質的理由は正に@の区分所有者の総体であることである。そうだとすれば、管理組合に組合員に対する訴訟信託を認め当事者適格を認めても何の支障もないようにも思える。

実際、任意的訴訟担当肯定の事例である民法上の組合における業務執行組合員の場合や権利能力なき社団等に対する代表者の場合とどこが異なるのか、ともいえる。
これらの事例も、実際の権利主体と訴訟担当者との利害は一致し三百代言の弊害はなく、且つ合理性・必要性が肯定されるのに管理組合の場合と変わりがないし、権利主体自体や代理等により訴訟担当以外での訴訟手段が認められることも管理組合の場合と変わりがないからである。

しかしながら、管理組合は区分所有者の団体であるといっても区分法による強制設立・強制加入の団体であり、一般の民法上の組合や社団のような任意加入の団体ではない。
任意加入の団体であれば、任意的訴訟担当に必要な授権の存在も加入時の自由な判断で肯定できるが、強制加入の管理組合の場合は区分所有者個人の権利の訴訟担当は、当該個人がたとえ反対であってもその権利を処分する権限を付与することになるから、その肯定には慎重となるべきである。
この点、区分法も管理組合の権限(権利能力)の範囲を建物等の管理と使用に関する事項に限っていることに留意すべきであろう。
管理組合は区分所有者の団体ではあるが、その強制的性格から本来的権限を越えて、所有者の有するすべての権限を代行できるとするのは少数個人の権利をあまりにも無視することとなる。
従って、管理組合の訴訟担当を否定した本判決は妥当なものと思われ、裁判の場をはなれても、区分所有者の団体であることを理由に管理組合の本来的権限を逸脱いないように留意する必要があろう。

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