H18.3.30 最高裁判所 平成17年(受)第364号 建築物撤去等請求事件の解説

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この事件は、国立景観事件の最高裁判決である。東京地裁の認めた景観利益の侵害に対する建築制限を否定した高裁判決を是認し、住民側の敗訴が確定した。
本判決は、景観法(平成16年法律第110号。同年12月17日施行)の成立を受けて、「都市の景観は,良好な風景として,人々の歴史的又は文化的環境を形作り,豊かな生活環境を構成する場合には,客観的価値を有する」とし、良好な景観の恵沢を享受する利益は,法律上保護に値する」としつつも、「景観利益は,これが侵害された場合に被侵害者の生活妨害や健康被害を生じさせるという性質のものではない」との考えから、「ある行為が景観利益に対する違法な侵害に当たるといえるためには,少なくとも,その侵害行為が刑罰法規や行政法規の規制に違反するものであったり,公序良俗違反や権利の濫用に該当するものであるなど,侵害行為の態様や程度の面において社会的に容認された行為としての相当性を欠くことが求められる」として、結局、景観利益による保護を否定する結論となっている。
差し止め等には判例上認められている人格権に対する侵害が必要であって景観利益のような漠然としたものでは足りないということであろう。
そうであれば、景観利益を法的利益とするようなリップサービス文句を述べるべきではなかったし、法的利益と本当に認識するならもうすこし「被侵害利益である景観利益の性質と内容,当該景観の所在地の地域環境,侵害行為の態様,程度,侵害の経過等を総合的に考察して」結論を出してもよかったように思われる。
景観利益の保護は、他の正当な行為との調整の問題であるから他方が正当ならば景観利益の出る幕はないという論法では処理できない問題ではないだろうか。 inserted by FC2 system