平成19年10月11日東京地方裁判所平成17年(ワ)第19972号営業差止等請求事件の解説

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本件は、都市再開発事業で建築された複合用途建物の住宅部分を中古購入した区分所有者が、管理組合の理事長になり店舗部分の深夜営業が住宅居住者の迷惑となる共同の利益違反等として深夜営業の差し止めを求めた事件である。

本件建物は、下層部分に店舗を持つマンションでいわゆる下駄履きマンションの一種であり、このような形態は店舗営業と静謐な住居環境との両立はとかく困難であり、本件でもその問題が顕在化したものと思われる。

住宅側からの意見としては、店舗部分で深夜に営業行為がなされると,従業員,顧客,取引先等の往来が激しくなるほか,店舗用の区画から生じる騒音,悪臭等が共用部分にわたりマンション全体の衛生悪化,治安悪化等を生じさせる、というものであり、これに対する店舗側の指摘する問題点は改善でき、受忍限度を超えるようなものではないし、人通りの存在は防犯効果がある、というものである。

抽象的には、どちらの言い分も成り立ち、そのため水掛け論となりがちであるが、問題は地域性も含めた建物の存在意義から考えるべきものであろう。
そうすると、本件建物は、地域の活性化を目的とする都市再開発事業の施設建築物というのであり、賑やかな街づくりの一環として建築され、近隣店舗も同様の深夜営業を行って一定の繁華街を形成しているというのであるから、本件建物の住宅居住者もそれを前提として入居したものと言うべきであろう。
自ら危険に接近した者の自己責任として、その危険を受忍すべきである。

本判決では、原告の主張する営業時間制限の規則の存在が否定され、新たな決議も無効であるとして原告の請求が棄却されたが、判決理由中の「専有部分については,本来それぞれの所有者がその意思に従って自由に管理及び使用をすべきものであることを考慮すると,専有部分の管理又は使用の調整に関する事項については,集会決議(普通決議)で定めることができず,区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による集会の決議(同法31条1項,以下「特別決議」という)を要する規約でのみ定めることができる」という点、「総会決議による専有部分の使用制限の場合にも区分法31条1項後段の規定が類推適用され、特別な影響を蒙る者の承諾が必要であり、現行の深夜時間を午後10時までに制約される場合は店舗所有者に特別な影響がある」という点には、留意すべきであろう。

尤も、特別な影響とは受忍限度を超える負担を意味し、合理的制限の限度では受忍限度内となる。
午前4時を午後10時に制約することが、受忍限度を超えるという判断の前提には、午前4時までの営業がこの建物の地域性から不合理ではない、という考えがあるのであり、地域によっては午前4時までの営業自体が不合理である場合もある。
この場合には、午後10時までの営業に制約することが合理的であり、そのように制約しても受忍限度内となる。
この意味で、特別の影響の有無の判断はケースバイケースであり、この判決の結論が常に妥当するとは限らないことにも留意すべきである。


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