平成19年08月07日東京簡易裁判所平成18年(ハ)第20200号管理費等請求事件の解説

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本件は、管理組合から滞納管理費を請求された区分所有者が、管理費のうち町会費分は管理組合が請求することはできないと主張して争った事件である。

主張の理由は、@本件マンションに居住していないから,町内会の会員に該当しない。A町内会費は,まさに住民が任意に支払いを委ねられているものであり,法的に支払いを強制されるべきものではない。B町内会費の未払いに関して,原告のようなマンション管理組合が,裁判をもって訴求することはできない。というものである。

これに対し裁判所は、@について町内会の目的・実態からすると,一定地域に不動産を所有する個人等(企業を含む)であれば,その居住の有無を問わず,入会することができる、と否定したものの、Bを認め、町内会費の徴収は,共有財産の管理に関する事項ではなく,区分所有法第3条の目的外の事項であるから,マンション管理組合において多数決で決定したり,規約等で定めても,その拘束力はないものと解すべきである、として町会費分の請求を否定した。

この東京簡裁の論理は、町会費と自治会費の違いはあるが、平成17年04月26日 第三小法廷判決 平成16年(受)第1742号 自治会費等請求事件のものと同様であり、裁判所は町会を含む任意の自治組織については、原則として加入脱退が自由でその会費も当該自治組織との関係で発生・消滅・請求がなされるものとの扱いで一貫している。

ところで、町内会等の自治会は任意加入で関係地域の全員が加入しているとは限らないものの地方自治体の下部組織としての性格もあり、最も基礎的な地域組織としての性格もある。

マンションも街の一員である以上、地域の町会と無関係ではありえず地域コミュニティーの形成・維持のため町会に参加することの意義は否定できないものと思われる。

このマンションのように自治会費を当該地区町会に納めているケースは多く、このマンションでは@町内会が主催するお祭り,レクリエーション等の行事に参加することにより地域と密着した社会生活を送ることができること、またA 町内会は,区役所,警察,保健所等の依頼を受け,日常生活に密着した通知等の各種印刷物を配布しており,これらの印刷物の配布を受けられないと,日常生活に支障を来すこととなる。ことなどをそのメリットにあげているが、それ以外にも地域の一員として地域自治会の環境美化・防犯・風紀の維持の利益を享受していること等が挙げられるであろう。

また、近年は震災等の災害時の相互扶助の効用も無視できないものと思われる。そうであれば、マンションとして町会に加入することは否定的に考えるべきではなくかえって奨励されるべき対応というべきであろう。

新標準管理規約においても遅まきながら地域コミュニティーへの参画を含めたコミュニティー形成がうたわれているところであり、今後ともこの自治会への参画傾向は変わらないであろう。

しかしながら、最高裁判決や本判決にあるように、任意加入が原則の自治会に加入を拒絶する組合員を強制加入させることはできない。それはその組合員の団体加入の自由を侵害し、管理組合という団体の権限を越えることとなる。

では、組合員の加入が無理なら管理組合自身で加入するのはどうか。この点に関して、本判決は区分所有法第3条の趣旨からすると,原告自身が町内会へ入会する形を取ることも,その目的外の事項として,その入会行為自体の効力を認めることはできないものと解される、と否定的である。

一般に裁判所は、任意設立団体の業務範囲・権限である権利能力を広く、強制設立団体については狭く目的の範囲内に限定する傾向にあるので、この簡裁判決もその傾向に沿ったものといえる。

しかしながら、管理組合が強制設立団体といってもその性格は単なる財産管理団体に留まらず居住者の住生活全般に配慮すべきものであり、その点地域自治会に通じるものがあることが否定できない。他方、地域自治会のマンションに対する既述の効用を考えると、地域自治会への参加はマンション管理の有益なものとして管理組合の目的の範囲に含まれるとすべきように思われる。


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