平成11年08月31日東京高等裁判所平成8年第2630号預金返還請求・各当事者参加事件の解説

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本件は、参加人らのマンションの管理者兼管理会社が区分所有者から徴収した管理費・修繕積立金を原資とする定期預金の帰属を巡る事件である。
この管理会社株式会社榮高の事件は、管理業者の適正な管理と組合経理の明朗化を趣旨とするマンション管理適正化法立法の原因となったものであるので紹介する。

この事件は、親会社のディベロッパーの開発案件の管理を行う子会社であった管理会社が、親会社の倒産に伴い連鎖倒産し、その預金が預託先の銀行から借入金と相殺されたため、相殺の無効を主張する破産管財人が銀行を訴えた裁判に、本来の預金者と主張する管理委託者の各管理組合が自己に引渡しを求めて独立当事者参加したものである。
もし預金が、管理会社のものとされると銀行の相殺が有効となり、管理組合は永年積み立てた積立金の預託金が破産債権となり、通常数%の配当額以外が消滅することになる。

裁判所は、「預金者の認定については、自らの出捐によって、自己の預金とする意思で、銀行に対して、自ら又は使者・代理人を通じて預金契約をした者が、預入行為者が出捐者から交付を受けた金銭を横領し自己の預金とする意図で預金をしたなどの特段の事情がない限り、当該預金の預金者であると解するのが相当である(預金者認定についての客観説=名義に係らず出捐者を預金者とする説)とし、預金者の認定についてはこの基準により判断するのが相当であり、預金の名義がどのようになっているか、銀行側が預金者についてどのような認識を有していたかは右判断を左右しない。」として、@本件各定期預金の出捐者は、それぞれのマンションの区分所有者全員である、A定期預金の預入から遅くとも一年以内の決算報告において区分所有者が本件各定期預金の預入をする意思を有することが具体的に明確になった、B管理委託契約に基づく受託者であると同時に、区分所有法第四節に定める管理者であり、区分所有者を代理する立場にあること、及び区分所有者に預入の意思があると認められることを併せ考えると、管理会社は区分所有者の使者として本件各定期預金をしたものと見るのが相当である、と認定して、本件各定期預金の預金者は、各マンションの区分所有者の団体である管理組合であり、区分所有者全員に総有的ないし合有的に帰属すると認めることができる、と結論づけた。

預金者認定の客観説は、単なる受寄者である銀行には名義人が誰であるかにつき実質的利益がなく(銀行預金は寄託=預り金で、預かっている者には固有の利益は通常ない)、名義人と出捐者との間では名義人が自己のものとして預金した場合や出捐者が名義人に譲渡した場合等の事情がない限り実際の資金主のものに留まる、とするものであり、管理会社が預託を受ける管理費・積立金は、この説の元では管理組合のものということができる。
この意味で最高裁判例に準拠した妥当な判決といえるが、この銀行は自己の貸出金の担保として期待していたようであり、一般に預金を担保として期待する銀行に名義人が誰であるかにつき実質的利益がない、とは限らず、銀行の主張を認めたこの判決の前審たる地裁判決は、銀行の実質的利益を認めたケースといえよう。
ただ、管理費・積立金の場合は破産管財人も主張の通り、委託先から受託されたものであり、実質的に管理会社の資産でないことは明白であるから、その内容を熟知していた銀行の期待は筋違いというべきであろう。

この裁判で預金は管理組合に戻ることになったが、弁護士費用等で少なからず費用が掛かったであろうから管理会社の破産により管理組合も一定の影響を受けることとなる(この裁判でも訴えなかった組合は預金を失っている)ので、管理会社の営業状態にも今後関心を持つ必要があろう。
また、この事件により管理適正化法で、この管理会社のような支払い一任方式等の経理処理をする場合には、積立金等は徴収から1箇月以内に、組合名義口座に移管し、且つその1カ月分の預託期間の債務の担保のため指定保証機関(高住管)の保証が必要となっているが、その履行を常時確認することも必要であろう。

また、銀行は、預金が担保として機能するのは貸出先のものであることを留意し、名義に頼らずに預金者を把握することが要請されよう。

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