平成6年10月28日大阪地方裁判所平成6年(行ウ)第20号道路工事施行承認無効確認請求,緑地回復工事請求事件

判例紹介へ

主文

一 原告の被告豊中市長に対する訴えを却下する。
二 原告の被告豊中市に対する請求を棄却する。
三 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一 当事者の求めた裁判

一 請求の趣旨

1 被告豊中市長(以下「市長」という。)が、別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)につき、平成四年一一月二〇日に、豊中市指令土管第七一二二−一三六号をもってした道路工事施行承認処分は無効であることを確認する。
2 被告豊中市(以下「市」という。)は原告に対し、本件土地につき、コンクリートなどによる舗装を撤去し、その跡に低木類の樹木を植栽して緑地を回復する工事を行え。
3 訴訟費用は被告らの負担とする。

二 被告市長の本案前の申立て
主文一、三項同旨

三 請求の趣旨に対する被告らの答弁
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 主文三項同旨

第二 当事者の主張

一 請求原因

1 原告は、豊中市<地名略>ないし八地上にあるAないしM棟の各マンション(a団地)の区分所有者からなる管理組合の代表者等を構成員とし、同宅地及びこれに付随する駐車場施設、塵芥集積場、街灯設備、植木、公園等の施設の管理を目的とする団地管理組合法人である。

2 大阪府自然環境保全条例(以下「条例」という。)三一条、同施行規則二一条、二二条は、一ヘクタール以上の規模の住宅地の造成をしようとする者は、大阪府知事との間に「自然環境の保全と回復に関する協定」を締結し、植樹等の緑化に関する事項や周辺の自然環境との調和に関する事項等を定めなければならないとしている。
訴外b株式会社は、a団地の用地の造成を担当した業者であるが、豊中市<地名略>ほか七二筆の合計一ヘクタール以上の土地を造成するにあたり、昭和五七年六月一五日、条例に基づき、大阪府知事との間に「自然環境の保全と回復に関する協定」(以下「本件協定」という。)を締結した。

3 本件協定により、bは大阪府知事に対して、一定面積の公園や緑地を設置し、これを将来とも公園、緑地以外の用途に利用しないことを約した。
そして、本件土地を含む別紙物件目録記載の<地名略>の土地も右緑地部分に含まれていた。

4 bは、昭和五九年七月二四日、被告市に対して本件土地を含む<地名略>の土地を寄付したが、その際、被告市はbに対し、本件協定を順守し将来にわたり<地名略>の土地を緑地以外の用途に使用しないことを承諾した。

5 a団地は、昭和五七年春頃から分譲を開始し、昭和五八年各棟の管理組合の代表からなる原告の前身であるa団地管理組合が結成され、平成六年二月一五日に法人化されて原告となった。
原告やその前身である管理組合は、組合を結成した頃に、bから被告市に対する贈与者としての地位を当然承継し、それに伴い被告市に対して、<地名略>の土地を緑地以外の用途に使用しないよう求める権利を取得した。

6 訴外野村不動産株式会社(以下「野村不動産」という。)は、本件土地に隣接する豊中市<地名略>地等の土地上にマンションを建設する際、本件土地に対する道路工事施行承認申請をし、被告市長は、平成四年一一月二〇日、道路管理者として豊中市指令土管七一二二−一三六号をもってその承認を与えた(以下「本件承認処分」という。)。

7 そこで、野村不動産は、本件土地上に植栽されていた樹木類をすべて撤去し、そのあとにコンクリート等の舗装を施し、緑地としての本件土地を破壊した。
本件土地は、野村不動産の建築したマンションへの進入路となる部分である。

8 被告市長の本件承認処分は、内容的には条例及びこれに基づく協定によって定められた本件土地の用途制限に違反する行為であり、また手続的には条例の制定者であり協定の締結当事者である大阪府知事に対して、事前の通知や協議を経ないで行われたものであって、いずれの点からも重大かつ明白な瑕疵がある。
そこで、原告は被告市長に対し、本件承認処分が無効であることの確認を求める。

9 さらに、原告は被告市に対し、<地名略>の土地を緑地以外の用途に使用しないよう求める権利に基づき、請求の趣旨2記載の緑地を回復する工事をすることを求める。

二 被告市長の本案前の主張

1 本件承認処分は道路法二四条に基づくものであり、同条は道路管理者以外の者は、道路に関する工事の設計及び実施計画について道路管理者の承認を受けて道路に関する工事又は道路の維持を行うことができる旨を定めているところ、その承認の具体的基準は定めておらず、また同法には右承認を決するにあたって個々人の個別的利益を直接保護していることを推知させるような規定は全く存しない。
してみれば、道路法二四条の承認は、道路の適正な管理という公益の実現の観点から、道路管理者が、その工事を行う必要性、設計及び実施計画の合理性並びに道路管理上の支障の有無などを総合的に判断して、その裁量的判断でその許否を決することとしたものであって、一般的公益とは別に、個々人の個別的利益をも保護する趣旨を含むものと解することはできない。
したがって、原告には本件承認処分の無効確認を求める法律上の利益はなく、原告は原告適格を有しない。

2 加えて、原告は、団地建物所有者の共有に属する団地内の土地又は附属施設の管理を目的とする団体であるから、管理の対象とならない土地の道路工事に対する承認処分につき無効確認を求める法律上の利益を有するものとはいえないから、いずれにしても、本件訴えは却下されるべきである。

三 請求原因に対する被告らの認否

請求原因のうち、原告主張の条例、同施行規則の定めが存すること、bが大阪府と本件協定を締結したこと、本件協定により、bが一定面積の公園及び緑地について将来にわたり、公園や緑地以外の用途に利用しないことを約したこと、本件土地の一部が右緑地に含まれていること、昭和五九年七月二四日、被告市がbから本件土地を含む<地名略>の土地の寄付を受けたこと(但しbからは持分二分の一のみであり、残りの二分の一の持分については訴外三井不動産株式会社から寄付を受けたものである。)、被告市長が、本件土地に隣接する土地上にマンション建築を計画していた野村不動産の申請により、平成四年一一月二〇日、右マンションへの進入路である本件土地について道路工事施行承認をしたこと、野村不動産が本件土地上の樹木を撤去してコンクリート等による舗装を行ったことは認める。

四 本案に対する被告らの主張

1 被告市は、昭和五九年七月二四日、本件土地を含も<地名略>の土地につき、持分二分の一はbから、残りの持分二分の一は訴外三井不動産株式会社から寄付を受け、同月二七日、所有権移転登記を経由したが、右土地は市道に隣接する奥行のない細長い土地であって、市道と一体管理が望ましいことから、所有権を妨げる何らの権利負担その他の瑕疵のない土地として寄附を受けたものである。
したがって、被告市が本件土地を緑地以外の用途に使用しない義務を負担し、あるいは右のような義務を承継したということはない。なお、本件協定により緑地とされた範囲は<地名略>の土地の一部であり、かつ、本件土地の一部に過ぎない。

2 原告は、被告市に対して、本件土地を緑地以外の用途に使用しないよう求める権利を有すると主張するが、原告が右権利を取得した理由が不明であるし、そもそも、団地建物所有者の共有に属する団地内の土地又は附属施設の管理を目的とする原告がそのような請求権を取得することはあり得ない。

3 条例三一条は、協定締結義務を定めた本文に続いて、「ただし、国及び地方公共団体については、この限りではない。」と規定し、国及び地方公共団体は、「自然環境の保全と回復に関する協定」の協定締結義務者から除外されている。したがって、知事と事業者との間に締結された協定に基づく緑地であっても、所有権が国又は地方公共団体に移転した場合は、協定による緑地としての拘束を受けるものではない。

4 本件土地は、野村不動産の建築したマンションへの進入路となる部分であるが、被告市は行政指導により、歩道横の緑地帯への影響を出来るだけ少なくするため、進入路の幅を当初の計画より狭めさせたうえ、被告市長において野村不動産の道路工事施行承認申請を承認した。
<地名略>の土地のうち協定による緑地は一部分であり、その余の緑地部分は被告市が独自に緑地として整備しているものである。本件土地のうち協定による緑地は一一・二九平方メートルに過ぎず、<地名略>の土地のうち緑地として維持される土地は進入路となる部分を除いて二〇六・五平方メートルであるから、進入路が設置されても、<地名略>の土地内に協定による緑地が設けられた趣旨は十分尊重されているのであり、被告市長の本件承認処分はなんら違法ではない。

第三 当裁判所の判断

一 前記争いのない事実に甲三、四号証、乙一号証の一、二、検乙一ないし一二号証及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

1 条例三一条、同施行規則二一条、二二条は、一ヘクタール以上の規模の住宅地の造成をしようとする者は、大阪府知事との間に、「自然環境の保全と回復に関する協定」を締結し、植樹等の緑化に関する事項や周辺の自然環境との調和に関する事項等を定めなければならないと規定している。

2 山陽は、豊中市<地名略>ほかの土地を分譲マンション用地として造成するにあたり、昭和五七年六月一五日、条例に基づき大阪府知事との間で、本件協定を締結し、一定の公園と緑地を設け、これらは将来にわたって公園、緑地以外の用途に利用しないことを約束した。

3 <地名略>の土地はb及び三井不動産株式会社が各持分二分の一の割合で共有していた土地であり、bが造成したマンション用地の一角に位置し、市道に沿って存在する奥行きのない細長い形状の土地であった。
<地名略>の少なくとも一部分は本件協定によって緑地とされた土地であり、現実にもその部分は緑地として低木類の樹木が植栽された。

4 <地名略>の土地は、昭和五九年七月二四日、b及び三井不動産株式会社から、被告市に対して道路用地として寄付され、市道の一部となったが、<地名略>の土地の少なくとも一部は、寄付後も従来とおり歩道脇の緑地として低木類の樹木が植栽されていた。

5 <地名略>の土地の隣接地にマンションの建築を計画していた野村不動産は、<地名略>の土地の一部である本件土地につき、右マンションへの進入路三か所を設けるべく、市道の道路管理者である被告市長に対して、道路工事施行承認処分を申請し、平成四年一一月二〇日、被告市長は本件承認処分をした。
その結果、本件土地上の低木類が伐採され、コンクリート等によって舗装が施され、右マンションへの進入路が造られた。

6 山陽が造成したマンション用地(現在は豊中市<地名略>の土地)の上には数棟のマンション(いずれも区分所有建物)が建築され、「a団地」を形成しており、原告は右団地内の数棟のマンションの区分所有者からなる団地管理組合法人であり、「1 豊中市<地名略>、同所<地名略>、同所<地名略>の土地及び駐車場施設、塵芥集積場、外灯設備、植木、集会場、公園その他上記土地に定着してい る附属施設の管理、2豊中市<地名略>aM棟の三階の集会場、管理センター室、倉庫の管理」を目的としている。

二 被告市長に対する訴えについて

1 原告は被告市長に対して、本件承認処分が無効であることの確認を求めるが、処分の無効確認の訴えは、「当該処分の無効の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者」(行訴法三六条)に限り提起することができ、「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、かかる利益も右にいう法律上保護された利益に当たり、当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は、当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである(最高裁平成四 年九月二二日第三小法廷判決・民集四六巻六号五七一頁参照)。
ところで、道路法二四条は、道路管理者以外の者は、道路に関する工事の設計及び実施計画について道路管理者の承認を受けて道路に関する工事又は道路の維持を行うことができると規定しており、右制度は、道路管理者以外の者が道路の舗装や撒水等の自らの必要性に基づいて道路に関する工事又は維持を行う必要が生じた場合、道路管理上支障がなければこれを認めることが適当であるので設けられたもの である。
したがって、道路工事施行承認の申請がなされると、道路管理者は、当該承認にかかる工事を行う必要性、設計及び実施計画の合理性並びに道路管理上の支障の有無を総合的に判断して承認又は不承認の処分をすることとなる。
そして、通常の場合一般公衆が道路の使用によって享受する利益は、道路が設置され一般公衆の用に供されていることの結果として受ける反射的利益に過ぎないから、法二四条の承認制度は道路管理上の支障の防止という一般的公益を保護する規定であり、原則として個々人の個別的利益の保護を目的とするものではない。
しかし、承認にかかる工事の対象となる道路が個人に個別的具体的な利益をもたらしていて、工事によって個人の生活に著しい支障が生ずるといった特段の事情が存する場合には、道路管理者は右特段の事情を考慮して承認又は不承認の処分をしなければならないと解されるから(最高裁昭和六二年一一月二四日第三小法廷判決・判例時報一二八四号五六頁参照)、そのような場合に限って、法二四条は個別的利益を保護する趣旨を含むものと解され、右特段の事情の存する者は当該処分の無効確認を求めるにつき原告適格を有するというべきである。

2 そこで、原告に右特段の事情が存するといえるか否かについて検討するに、原告は、被告市に対して本件土地を含む<地名略>の土地を緑地以外の用途に使用しないよう求める権利を有すると主張し、右権利の存在が特段の事情に該当すると主張するものと解される。
しかしながら、原告は団地管理組合法人であり、その目的は、「団地内の土地、附属施設及び専有部分のある建物の管理を行うこと」であり、団地管理組合は、右の目的の範囲内で権利を有し、義務を負うに過ぎない(建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」という。)六五条、六六条、四七条七号、民法四三条)。
そして、管理の対象となる団地内の土地とは、法律上当然に管理対象となる団地内の数棟の建物の区分所有者(本件の場合、団地内の数棟の建物はすべて区分所有建物である。)の共有に属する土地(区分所有法六六条、一七条、一八条)と、規約に基づく管理対象となる団地内の一部の建物の区分所有者の共有に属する団地内の土地(同法六八条一項一号、六六条、三〇条一項)に限定されているのである。
しかるに、本件土地は、被告市が所有する公衆用道路の一部であるから、団地管理組合法人の管理の対象となる団地内の土地に該当しないことはいうまでもなく、本件土地に関して団地管理組合法人が被告市に対して何らかの請求権を取得することはその目的の範囲外の行為である。
したがって、原告が被告市に対して本件土地を緑地以外に使用しないよう求める権利なるものを取得することはあり得ないことになるから、原告が主張する前記特段の事情は主張自体失当であり、他に原告に前記特段の事情を肯定し得べき事情は存在しない。

3 以上によれば、原告は本件承認処分の無効確認を求める当事者適格を有しないこととなり、被告市長に対する訴えは却下を免れない。

三 被告市に対する請求について

原告は、被告市に対して本件土地を含む<地名略>の土地を緑地以外の用途に使用しないよう求める権利を有することを前提として、被告市に対して、本件土地を緑地に回復する工事を行うことを求めるが、前記二2のとおり、団地管理組合法人である原告が被告市に対して、本件土地を含む<地名略>の土地を緑地以外の用途に使用しないよう求める権利を取得することはあり得ないから、原告の請求は理由がない。

四 よって、原告の被告市長に対する訴えは不適法であるからこれを却下し、被告市に対する請求は理由がないからこれを棄却することとして、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 下村浩藏 小野憲一 植村京子)

別紙物件目録(省略)

inserted by FC2 system