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平成18年09月08日東京地方裁判所平成17年(行ウ)第386号裁決取消請求事件(甲事件),平成17年(行ウ)第435号建築認定処分取消請求事件(乙事件)

主文

1 本件訴えのうち,新宿区長が株式会社a及び株式会社bに対し平成16年12月22日付けでした東京都建築安全条例4条3項に基づく認定処分の取消しを求める請求に係る部分を却下する。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

1 甲事件
新宿区建築審査会が,原告に対し,平成17年7月6日付けでした裁決(16新建審請第1号)を取り消す。

2 乙事件
新宿区長が,株式会社a及び株式会社bに対し,平成16年12月22日付けでした東京都建築安全条例4条3項に基づく認定処分(16新都建建審第(認)76号)を取り消す。

第2 事案の概要

本件は,新宿区長が平成16年12月22日付けでした東京都建築安全条例(昭和25年東京都条例第89号。以下「本件条例」という。)4条3項に基づく認定(以下「本件認定」という。)につき,本件認定に係る建築物の敷地の隣接地に存する建築物の区分所有者により構成されている団体である原告が,被告に対し,本件認定の取消しを求める(乙事件)とともに,新宿区建築審査会が同17年7月6日付けでした本件認定の取消しを求める審査請求を却下する旨の裁決(以下「本件裁決」という。)の取消しを求める(甲事件)事案である。

1 本件条例の定め

(1)1条
建築基準法(以下「法」という。)第四十条(法第八十八条第一項において準用する場合を含む。)による建築物の敷地、構造及び建築設備並びに工作物に関する制限の附加、法第四十三条第二項による建築物の敷地及び建築物と道路との関係についての制限の附加、建築基準法施行令(昭和二十五年政令第三百三十八号。以下「令」という。)第百二十八条の三第六項による地下街に関する令と異なる定め並びに令第百四十四条の四第二項による道に関する令と異なる基準については、この条例の定めるところによる。

(2)1条の2
第四条、第十条の二、第十条の三、第二十二条、第四十一条及び第八十二条の規定は、都市計画区域及び準都市計画区域内に限り適用する。

(3) 4条
ア 1項
延べ面積(同一敷地内に二以上の建築物がある場合は、その延べ面積の合計とする。)が千平方メートルを超える建築物の敷地は、その延べ面積に応じて、次の表に掲げる長さ以上道路に接しなければならない。
延べ面積長さ
千平方メートルを超え、二千平方メートル以下のもの六メートル
二千平方メートルを超え、三千平方メートル以下のもの八メートル
三千平方メートルを超えるもの十メートル
イ 2項
延べ面積が三千平方メートルを超え、かつ、建築物の高さが十五メートルを超える建築物の敷地に対する前項の規定の適用については、同項中「道路」とあるのは、「幅員六メートル以上の道路」とする。
ウ 3項
第二項の規定は、建築物の周囲の空地の状況その他土地及び周囲の状況により知事が安全上支障がないと認める場合においては、適用しない。

2 前提事実
本件の前提となる事実は,次のとおりである。証拠及び弁論の全趣旨により容易に認めることができる事実等は,その旨付記した。その余の事実は,当事者間に争いがない。

(1) 当事者等
ア 原告は,建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」という。)3条に基づき,本件認定に係る建築物の敷地の隣接地に存する建築物である「α」(以下「本件マンション」という。)の区分所有者により構成されている団体である。(弁論の全趣旨)
イ 新宿区長は,特別区における東京都の事務処理に関する条例(平成11年東京都条例第106号)に基づき,本件条例4条3項の認定に係る権限を有するものである。(弁論の全趣旨)

(2) 株式会社a(以下「a」という。)及び株式会社b(以下「b」という。)は,新宿区長に対し,平成16年12月17日,本件条例4条3項に基づく認定の申請をした。(乙1)

(3) 新宿区長は,a及びbに対し,平成16年12月22日付けで,本件認定をした。(乙1)

(4) 原告は,新宿区建築審査会に対し,平成17年1月12日,本件認定の取消しを求める審査請求(以下「本件審査請求」という。)をした。(乙5)

(5) 新宿区建築審査会は,平成17年7月6日,本件裁決をした。(甲1)

(6) 原告は,平成17年9月1日に本件裁決の取消しを求める甲事件に係る訴えを,同年10月5日に本件認定の取消しを求める乙事件に係る訴えをそれぞれ提起した。(当裁判所に顕著な事実)

3 争点
(1) 本件認定は処分性を有するか。
(2) 原告は本件認定の取消しを求める訴えの原告適格を有するか。
(3) 本件認定は適法であるか。
(4) 本件裁決は適法であるか。

4 当事者の主張

(1) 争点(1)について
(原告の主張)
ア 本件条例4条3項に基づく認定は,その効果として,申請者に対して同条1項の接道義務の適用除外を受けられるという法律効果を与える利益処分であり,逆に認定をしない行為は,申請者にとって同項の接道義務の適用除外を受けられないという法律効果を与える不利益処分である。したがって,本件条例4条3項に基づく認定は,「直接国民の権利義務を形成する」処分であることは明らかである。

イ 用途区域内の建築許可(建築基準法48条1項),壁面線外の建築許可(同法47条)及び総合設計許可(同法59条の2第1項)は,それが許可されたからといって直ちに建築行為を開始し得るわけではなく,建築行為をするには確認済証の交付を受けなければならないということは,本件条例4条3項の認定と同様であるところ,これらについては処分性が認められているのであるから,同項の認定にも処分性が認められるべきである。

ウ 本件条例4条3項の認定は特定行政庁の専権事項であり,当該認定がされた後に建築確認申請がされたとしても,建築確認を担当する指定確認検査機関においては特定行政庁による本件条例4条3項の認定がされているか否かを形式的に審査するだけであり,当該認定が実体的に正しいか否かを判断する権限はない。したがって,本件条例4条3項の認定における特定行政庁の判断の誤りは,当該認定自体を独立の処分として不服申立てを認めなければ正すことができないのである。

(被告の主張)
ア 本件条例4条3項に基づく認定は,認定申請者の建築計画について,新宿区長から安全上支障がないと判断されることにより同条1項によって附加された制限の適用がされないとの効果が発生するのみで,それにより直接個々人の権利義務に何らかの制限が及ぶことはない。

イ また,本件認定に係る建築計画には不確定な部分が残されており,認定を受けた者について,そのことにより直ちに建築行為を開始し得るという法律上の効果が発生するものではなく,建築を行うには更に建築基準法6条1項に基づき,確定した建築計画について,建築主事等に対し建築確認申請を行い建築基準関係規定に適合する旨の確認を受け,確認済証の交付を受けなければならない。

ウ さらに,本件認定に処分性がないとしても,本件認定に係る建築計画が確定し,それに対する建築確認処分がされた際に,法律上保護された権利利益を当該建築確認処分により侵害された者は,当該建築確認処分について,審査請求をし,又は抗告訴訟を提起することができる。

エ 以上のとおりであるから,本件認定は取消訴訟の対象となる処分に該当しない。

(2) 争点(2)について

(原告の主張)
ア 本件条例4条3項は,建築基準法43条1項の趣旨を受けて,当該建築物の敷地における避難通行上の安全はもとより,大火災,大震災等の大災害時における消防活動への支障,更にはそれによって生じ得る周辺地域への危険性の波及の防止をも含めた,安全性確保のために設けられた規定である。
本件認定に係る建築物の周辺は,消防活動が極めて困難な地域であり,避難の安全性も確保されておらず,いったん火災が発生した場合には,いわゆる大火となり,周辺地域一帯に延焼が拡大する可能性がある。
本件マンションの敷地は,本件認定に係る建築物の敷地の東側隣接地であるところ,風速,風向,乾燥度その他の気象条件によっては,当該建築物から本件マンションに類焼する可能性がある。
以上のように,本件マンションは,本件認定に係る建築物が火災に見舞われた場合には,その消防活動の遅れによる延焼被害を極めて直接的かつ甚大に被る立場にあるから,本件マンションの各区分所有者及び居住者には,本件認定の取消しを求める訴えの原告適格が認められることが明白である。

イ 原告は,区分所有法3条に基づく団体であり,本件マンションの土地,建物及び付属施設の管理又は使用に関する区分所有並びに区分所有者相互間の諸事項について,区分所有者の共同の利益を維持し,良好な住環境を保持することを目的としており(α管理組合規約(以下「規約」という。)1条参照),すべての区分所有者のために,@敷地内における風紀,秩序及び安全の維持(規約44条1号(6)),A対象物件内の防災に関する業務(同号(7)),Bその他円滑な共同生活を維持するために必要な業務(同条5号),C共同防火管理協議会を結成し,組合員の中から防火管理者を選任すること(規約47条),D敷地及び共用部分等のうち専用使用部分以外の部分については,原告が区分所有者全員の責任と負担において管理すること(規約24条)などを遂行する責任を負っている。
したがって,本件マンションの各区分所有者すべてに原告適格が認められることが明らかである以上,その区分所有者全員を構成員とし,かつ,各区分所有者のために,区分所有法,規約及び理事会決議に基づいて,防災に関する業務等を遂行する法律上契約上の責任を負っている原告が,各区分所有者の生命,身体及び財産に危険を及ぼす蓋然性が高い本件認定の取消しを求めるにつき,原告適格を有することは明白である。

ウ 区分所有法3条は,区分所有者は,全員で,建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体を構成する旨規定しているところ,本件において原告適格を有するのに最もふさわしいのは,すべての区分所有者に対して管理主体としての責任を負っている原告である。

エ また,区分所有法26条4項は,管理者は,規約又は集会の決議により,その職務に関し,区分所有者のために,原告又は被告となることができる旨規定しているところ,本件マンションにおける管理者は管理組合代表者である理事長であるから(規約39条,57条2項),理事長は,自己の名において,区分所有者のために原告又は被告となることができる当事者適格を法律上当然に与えられているのである。区分所有法が管理者単独の当事者適格を認めているのであるから,その母体である団体そのものに当事者適格が認められるのは当然である。

オ 法律上の明文の規定がある場合以外における任意的訴訟担当は,弁護士代理の原則や訴訟信託の禁止を潜脱するおそれがなく,かつ,これを認める合理的必要性がある場合に許容されるものと解すべきところ,原告はこのような要件を満たしているから,任意的訴訟担当が認められるべきである。

(被告の主張)
ア 本件条例4条3項に基づく認定は,認定申請者の建築確認について,同条1項及び2項によって附加された制限の適用がされないとの効果が発生するのみで,直ちに建築行為を開始し得るという法律上の効果が発生するものではなく,当該建築物を建築するには更に建築基準法6条1項に基づき,建築主事等に建築確認申請を行い建築基準関係規定に適合する旨の確認を受け,確認済証の交付を受けなければならないのである。
したがって,本件条例4条3項に基づく認定は,周辺住民等の第三者の法律上保護された利益を必然的に侵害するものではなく,本件認定の根拠法規である同項は,周辺住民等の個別的利益まで保護する趣旨を含むものではない。
また,本件認定の根拠法規が周辺住民等の個別的利益を保護する趣旨を含むとしても,建築計画に係る建築物の災害による被害が直接的に及ぶことが想定される周辺の一定範囲の地域に存する他の建築物について,その居住者の生命身体の安全等及び財産としてのその建築物を個々人の個別的利益として保護する趣旨である。
しかるに,原告は,本件認定に係る建築計画に隣接する土地に存する共同住宅の管理組合であるから,自然人と異なり生命身体の安全等の人格的利益を自ら共有する主体となることができない。
したがって,本件認定の根拠法規が周辺住民等の個別的利益を保護する趣旨を含むとしても,原告は,本件認定の根拠法規が保護する個別的利益を有していない。
以上のとおりであるから,本件認定が取消訴訟の対象となる処分に該当するとしても,原告は,同訴訟の原告適格を基礎付ける法律上の利益を有していないというべきである。

イ 審査請求適格及び原告適格を基礎付ける法律上の利益は,原告自身に帰属する固有の利益であることが必要であるところ,管理組合は,区分所有者から独立した,しかも当事者能力を有する団体であるから,区分所有者が法律上の利益を有するとしても,管理組合に区分所有者が有する利益が帰属するものではない。したがって,原告自身に帰属する固有の法律上の利益の主張立証がない以上,原告に審査請求適格及び原告適格はないというべきである。
区分所有法3条の団体の目的は建物並びにその敷地及び附属施設の管理に限定されるから,それを超える事業をこの団体が行うことはできず,この目的の限界については,建物の使用のため区分所有者が全員で共同して行うことの必要性及び相当性に応じて判断すべきものであるところ,本件認定の取消しを求めて本件審査請求をし,又は本件訴えを提起することは,本件マンションの区分所有者個々人が行うべきことであり,区分所有者が全員で共同して行うことの必要性及び相当性はない。
また,区分所有法3条の建物並びにその敷地及び附属施設の管理は,同法において区分所有者の団体的意思決定に服すべきものとされる事項をいうところ,本件マンションの区分所有者全員が,本件認定の取消しを求めて本件審査請求をし,又は本件訴えを提起するという団体的意思決定に服すべき理由はない。
区分所有法26条4項は,管理者に対して規約又は集会の決議による特別の授権がある場合に,同条1項及び2項後段に規定する管理者の権限事項に限り,管理者に訴訟追行権を認めているのであるから,管理者に本件認定の取消しを求めて本件審査請求をし,又は本件訴えを提起する権限はない。また,管理者に訴訟追行権があるから管理組合にもそれが当然認められるという根拠もない。

ウ 行政事件訴訟法9条1項所定の「法律上の利益を有する者」に該当しない第三者について任意的訴訟担当として訴訟追行権を認めることは,同項が取消訴訟を「法律上の利益を有する者に限り」提起することができるとした趣旨を没却することになり,また,取消訴訟において任意的訴訟担当を許容しなければならない合理的必要性はないから,取消訴訟において任意的訴訟担当は許容されない。
仮に,取消訴訟において任意的訴訟担当が許容される余地があるとしても,原告について任意的訴訟担当を認めなければならない合理的必要性はない。すなわち,区分所有者個々人が法律上保護された利益を有するのであれば,区分所有者個々人が原告となり得るのであって,団体である原告に訴訟追行権を付与しなければ訴訟の提起及び追行が困難となるなどの事情が存することはないから,原告に訴訟追行権を認める合理的必要性はない。

(3) 争点(3)について

(原告の主張)
ア 幹線道路(β通り)から本件認定に係る建築物の敷地への進入経路は,幅員約5メートルのγ坂を約250メートル北へ進み,幅員約4.8メートルの一方通行道路を約100メートル西へ進み,さらに,幅員4メートル以下の狭小道路を約120メートル南へ進むというものである。当該敷地の前面道路は,幅員2.79メートル以上4メートル以下の狭小道路で,南側方面で幅員2メートルに満たない急峻な小道となり,車両の通り抜けも不可能である。当該敷地の周囲は,すべて幅員4メートル以下の狭小道路が迷路のように入り組んでおり,坂や階段で行き止まりの箇所などもあり,当該敷地はいわば迷路の中心点のような位置にある。対向車両を待つ場所やUターンのための場所もなく,車両が安全に通行できるとは考えられない状況である。したがって,安全上支障がないとは到底認められない。

イ 本件認定に係る建築物は,消防法により同規模の共同住宅に義務付けられている自動火災報知システム,屋内消火栓設備及び避難器具等が設置されておらず,また,消化管理が全く行われていない上,建築基準法により共同住宅に要求される二方向避難も確保されていない。
本件条例4条3項は,「建築物の周囲の空地の状況その他土地及び周囲の状況」を考慮すべき旨規定しているところ,当該建築物の周囲には,空地は全く存在しない。また,当該建物の敷地東側には約3メートルの段差があり,乗り越えられない擁壁があること,南側は急傾斜地でがけ地に近いこと,さらに,西側及び北側は高いフェンスで遮られていることからすると,火災時の避難は著しく困難であり,特に北側の住戸が火災になった場合には全戸が逃げ場を失うことになる。

ウ 本件条例4条3項の認定は,確定した建築計画に対するものでなければならないところ,本件認定は,「不確定な建築計画」に対してされたものであるから,無効である。

(被告の主張)
新宿区長は,@本件認定に係る建築物と各隣接地境界線との間には有効幅員2メートルから約4メートルの空地が設けられていること,A各住戸の出入口と反対方向にベランダを設け,ベランダの先には上記@の避難空地が配置されていること,B上記@及びAにより,各住戸から二方向避難が可能となり,安全に敷地内通路に避難することができるようになっていること,C当該建築物に係る敷地が西側で接する道路から当該敷地の奥に通ずる有効幅員4メートルの通路が設けられ,当該建築物が通路に直接面しているのと同様の形で配置されていること,D上記Cの有効幅員4メートルの通路の終端部に当たる各住戸の出入口付近には,消化避難活動が容易にできるように縦(南北)6メートル,横(東西)12メートルの消防活動空地が設けられていること,E円滑に消防活動が行えるように当該敷地内に消防水利(防火水槽)が設定されていること,F当該敷地は,上記西側で接する道路に8.9メートル接していることなどの事実や事情等を総合的に考慮し,建築物の周囲の空地の状況により安全上支障がないと判断したものであるから,当該新宿区長の判断に裁量を逸脱し,又は濫用した違法はない。

(4) 争点(4)について

(原告の主張)
ア 新宿区建築審査会は,本件審査請求手続において,新宿区長が本件認定には処分性がない旨の主張を行っていないにもかかわらず,本件認定には処分性がないとの理由で本件裁決をした。新宿区建築審査会は,本件認定の取消しを求める審査請求を新宿区長が全く主張していない理由で却下するという本件裁決をするのであれば,少なくとも本件認定の処分性の有無につき双方の意見を求めた上でこれをすべきであり,新宿区長が全く主張していない理由で突如として却下することは,行政不服審査法に基づく裁決制度の趣旨からして通常でない。

イ 建築基準法94条2項は,建築審査会は審査請求を受理した日から1箇月以内に裁決をしなければならない旨規定しているところ,新宿区建築審査会は,却下裁決をするのであれば,短期間で裁決をすることができ,また,すべきであるにもかかわらず,約6箇月後に本件裁決をしているのであるから,異常であるといわざるを得ない。

ウ 本件認定が行政不服審査の対象となる処分に該当することは,争点(1)において主張したとおりである。

エ また,原告が本件認定の取消しを求める法律上の利益を有すること,すなわち,原告が審査請求適格を有することについては,争点(2)において主張したとおりである。

(被告の主張)
ア審査請求の審理に関しては,弁論主義ではなく職権探知主義が採られているのであるから,新宿区建築審査会が新宿区長の主張していない理由で本件審査請求を却下したことは,何ら違法ではない。

イ 建築基準法94条2項は,効力規定ではなく,訓示規定である。また,本件審査請求がされてから本件裁決に至るまで適正な審理が行われているのであるから,本件審査請求がされてから6箇月後に本件裁決がされたことに何ら違法な点はない。

ウ 行政不服審査の対象となる処分は,行政庁の行う行為のうち,法律上の根拠に基づき,公権力の行使として直接国民の権利を形成し,又はその範囲を確定する行為をいう。したがって,本件認定が行政不服審査の対象となる処分に当たるといえるためには,本件認定が「直接国民の権利義務を形成し,又はその範囲を確定する」ものでなければならない。
そして,本件認定が行政不服審査の対象となる処分に該当しないことは,争点(1)において主張したとおりである。

エ 行政不服審査法4条1項の「行政庁の処分に不服がある者」は,審査請求又は異議申立てをする法律上の利益を有する者に限られる。したがって,本件認定が行政不服審査の対象となる処分に該当するとしても,本件審査請求が適法であるためには,原告が本件認定の取消しを求める法律上の利益を有すること,すなわち,原告が審査請求適格を有することが必要である。
そして,原告が本件認定の取消しを求める法律上の利益を有していないことは,争点(2)において主張したとおりである。

第3 当裁判所の判断

1 認定事実
前記前提事実に加え,証拠及び弁論の全趣旨(各事実の後に付記する。)によると,以下の事実を認めることができる。

(1) a及びbは,新宿区長に対し,平成16年12月17日,本件条例4条3項に基づく認定の申請をした。(前記前提事実)

(2) 新宿区長は,a及びbに対し,平成16年12月22日付けで,本件認定をした。(前記前提事実)

(3) 原告は,新宿区建築審査会に対し,平成17年1月12日,本件認定の取消しを求める本件審査請求をした。(前記前提事実)

(4) ア 新宿区長は,新宿区建築審査会に対し,平成17年1月27日,同日付け弁明書を提出した。(乙6)

イ 原告は,新宿区建築審査会に対し,平成17年2月15日,上記弁明書に対する反論を記載した同月14日付け「準備書面(1回)」と題する書面を提出した。(乙7)

ウ 新宿区長は,新宿区建築審査会に対し,平成17年3月2日,上記書面に対する反論を記載した同日付け弁明書2を提出した(乙8)

エ 原告は,新宿区建築審査会に対し,平成17年3月22日に上記書面に対する反論を記載した同月18日付け「準備書面(2回)」と題する書面を提出し,同年4月6日に同日付け「口頭審査陳述要領書」と題する書面を提出した。(乙9,11)

オ 新宿区建築審査会は,平成17年4月6日,建築基準法94条3項に基づき,本件審査請求につき口頭審査を行った。(乙12)

カ 原告は,新宿区建築審査会に対し,平成17年5月30日,同月27日付け反論書(3回)を提出した。(乙13)

(5) 新宿区建築審査会は,平成17年7月6日,本件認定が審査請求の対象となし得る処分に該当しないことを理由に,本件審査請求は不適法であるとして,これを却下する旨の本件裁決をした。(前記前提事実)

(6) 規約39条によると,原告代表者は,区分所有法25条に定める管理者とされている。(弁論の全趣旨)

2 争点(1)について
(1) 抗告訴訟である処分の取消しの訴えの対象となる「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」(行政事件訴訟法3条2項)とは,公権力の主体たる国又は公共団体の行為のうち,その行為によって,直接に国民の権利義務を形成し,又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいうものと解される(最高裁判所昭和37年(オ)第296号同39年10月29日第一小法廷判決・民集18巻8号1809頁参照)。

(2) 建築基準法6条及び6条の2は,建築主が建築物を建築しようとする場合には,その計画が建築基準関係規定に適合するものであることについて,建築主事あるいは指定確認検査機関の確認を受け,確認済証の交付を受けなければならない旨規定しているところ,同法43条1項は,建築物の敷地は,原則として道路に2メートル以上接しなければならない旨規定し,同条2項は,「地方公共団体は、…(略)…延べ面積(…(略)…)が千平方メートルを超える建築物の敷地が接しなければならない道路の幅員、その敷地が道路に接する部分の長さその他その敷地又は建築物と道路との関係についてこれらの建築物の用途又は規模の特殊性により、前項の規定によつては避難又は通行の安全の目的を充分に達し難いと認める場合においては、条例で、必要な制限を付加することができる。」と規定している。
そして,同項の規定を受けて,本件条例4条1項は,「延べ面積(…(略)…)が千平方メートルを超える建築物の敷地は、その延べ面積に応じて、次の表に掲げる長さ以上道路に接しなければならない。」と規定し,同条2項は,「延べ面積が三千平方メートルを超え、かつ、建築物の高さが十五メートルを超える建築物の敷地に対する前項の規定の適用については、同項中「道路」とあるのは、「幅員六メートル以上の道路」とする。」と規定しているが,同条3項は,「建築物の周囲の空地の状況その他土地及び周囲の状況により知事が安全上支障がないと認める場合」に限り,同条1項及び2項の規定を適用しないことを認める旨規定している。
以上の規定からすると,同条3項に基づく認定の申請をした者は,知事が同条1項及び2項の規定を適用しない旨の認定をした場合には,建築基準法43条1項の規定する幅員4メートル(特定の区域内では6メートル)の道路に2メートル接すればよいという制限を受けるにとどまるのに対し,知事が認定をしなかった場合には,本件条例4条1項及び2項の規定に基づくより厳しい接道の規制を受けることとなり,その結果,建築基準法43条1項所定の接道の要件を満たすものの,本件条例4条1項及び2項所定の接道の要件を満たすことができない場合には,建築基準法6条又は6条の2所定の建築確認を受けることができないこととなる。
そうすると,知事の本件条例4条3項に基づく認定には上記のような法的効果が付与されており,同認定は,申請者の法的地位に重大な影響を与えるものであり,申請者個々人に対する権利義務を形成し,又はその範囲を確定するものというべきであるから,抗告訴訟の対象となる処分に該当するものと解するのが相当である。

(3) これに対し,被告は,知事が本件条例4条3項に基づく認定をしたことにより直ちに建築行為を開始し得るという法律上の効果が発生するものではなく,建築確認処分がされた際に,当該建築確認処分により法律上保護された権利利益を侵害された者は,当該建築確認処分に対し抗告訴訟を提起すれば足りることを理由に,同項に基づく認定又は不認定の処分性を否定している。
しかし,直ちに建築行為を開始し得るという法律上の効果が発生しなければ処分性を肯定し得ないというものではなく,また,同項に基づく認定又は不認定に処分性が認められないとすると,申請者は,その適法性の判断がされない不安定な状態のまま,建築計画を立てざるを得ないこととなり,申請者に酷な結果をもたらすことにもなりかねない。
したがって,建築確認処分に対し抗告訴訟を提起すれば足りるとする被告の主張を採用することはできない。

(4) 以上によれば,本件条例4条3項に基づく認定は,抗告訴訟の対象となる処分に該当するものというべきである。

3 争点(2)について
(1) 原告が本件認定の取消しを求める法律上の利益の有無について

ア 行政事件訴訟法9条は取消訴訟の原告適格について規定するが,同条1項にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは,当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり,当該処分を定めた行政法規が,不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には,このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり,当該処分によりこれを侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者は,当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。
そして,処分の相手方以外の者について上記の法律上保護された利益の有無を判断するに当たっては,当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく,当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮すべきであり,この場合において,当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては,当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌し,当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては,当該処分がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案すべきものである(同条2項参照)(以上につき,最高裁平成16年(行ヒ)第114号同17年12月7日大法廷判決・民集59巻10号2645頁参照)。

イ 建築基準法43条1項は,「建築物の敷地は、道路(…(略)…)に二メートル以上接しなければならない。ただし、その敷地の周囲に広い空地を有する建築物その他の国土交通省令で定める基準に適合する建築物で、特定行政庁が交通上、安全上、防火上及び衛生上支障がないと認めて建築審査会の同意を得て許可したものについては、この限りでない。」と規定しているところ,これは,道路が,平常時における通行の場として必要であるのみならず,当該建築物及びこれに隣接する建築物等における日照,通風,採光等を良好に保つとともに,当該建築物に火災等の災害が発生した場合における避難,消火及び救助活動を迅速かつ適切に行うために必要であり,道路のないところに建築物が相当の密度で立ち並ぶことは,当該建築物の居住者等のみならずこれに隣接する建築物等の居住者等の平時の利用に不便なばかりでなく,その災害時の避難や消火活動にも大きな支障を来すことから,建築物の敷地は一定の広さを有する道路に接していなければならないものとしたのであり,そうであるとすると,同項の規定は,当該建築物及びこれに隣接する建築物等における日照,通風,採光等を良好に保つことのほかに,当該建築物に災害が発生した場合に,当該建築物及びその隣接する建築物等についてその居住者等の生命,身体の安全等及び財産としてのその建築物を保護することをもその目的に含むものと解するのが相当である。
また,同条2項は,「地方公共団体は、…(略)…延べ面積(…(略)…)が千平方メートルを超える建築物の敷地が接しなければならない道路の幅員、その敷地が道路に接する部分の長さその他その敷地又は建築物と道路との関係についてこれらの建築物の用途又は規模の特殊性により、前項の規定によつては避難又は通行の安全の目的を充分に達し難いと認める場合においては、条例で、必要な制限を付加することができる。」と規定しているところ,これは,一定の用途や規模を有する建築物の場合,それらの建築物の敷地が同条1項の規定する幅員4メートル(特定の区域内では6メートル)の道路に2メートル接すればよいという制限だけでは,平常時における通行の確保並びに火災等の災害の発生時における迅速かつ適切な避難,消火及び救助活動ができないおそれがあることから,地方公共団体の条例で,建築物の用途又は規模の特殊性に応じて,各地方の実情に合わせて必要な制限を付加することができる旨規定したものと解するのが相当である。
上記規定を受けて,本件条例4条1項は,「延べ面積(…(略)…)が千平方メートルを超える建築物の敷地は、その延べ面積に応じて、次の表に掲げる長さ以上道路に接しなければならない。」と規定し,同条2項は,「延べ面積が三千平方メートルを超え、かつ、建築物の高さが十五メートルを超える建築物の敷地に対する前項の規定の適用については、同項中「道路」とあるのは、「幅員六メートル以上の道路」とする。」と規定しているところ,これらの規定が設けられたのは,建築基準法43条2項の趣旨も考慮すると,そのような一定の規模を超える建築物について,平常時における通行を確保するためだけではなく,火災等の災害が発生した場合における避難,消火及び救助活動を迅速かつ適切に行うためであると解するのが相当である。
そして,本件条例4条3項は,「建築物の周囲の空地の状況その他土地及び周囲の状況により知事が安全上支障がないと認める場合」に限り,同条1項及び2項の規定を適用しないことを認めているところ,同条1項及び2項の上記趣旨,目的等をも考慮すれば,同条3項が知事の認定に当たり「建築物の周囲の空地の状況その他土地及び周囲の状況」を勘案すべきものとしているのは,当該建築物が火災等により炎上するなどの事態が生じた場合に,これに隣接する建築物等やその居住者等に重大な被害が及ぶことのないようにするためであると解するのが相当である。
以上のような本件条例4条3項の趣旨や目的,同項が知事の認定を通して保護しようとしている利益の内容や性質等を考慮すると,同項は,同項の認定に係る建築物の火災等による被害が直接的に及ぶことが想定される周辺の一定範囲の地域に存する他の建築物についてその居住者の生命,身体の安全等及び財産としてのその建築物を,個々人の個別的利益として保護すべきものとする趣旨を含むものと解すべきである。
そうすると,同項の認定に係る建築物の火災等により直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域に存する建築物に居住し,又はこれを所有する者は,当該認定の取消しを求めるにつき法律上の利益を有するものと解するのが相当である。

ウ 原告は,区分所有法3条所定の区分所有者の団体であるところ,原告が本件認定の取消しを求める原告適格を有すると認められるためには,原告自身につき本件認定の取消しを求める法律上の利益を有することが必要である。
前述のとおり,本件条例4条3項は,同項の認定に係る建築物の火災等による被害が直接的に及ぶことが想定される周辺の一定範囲の地域に存する他の建築物についてその居住者の生命,身体の安全等及び財産としてのその建築物を,個々人の個別的利益として保護すべきものとする趣旨を含むものと解すべきところ,建物並びにその敷地及び付属施設の管理を行うための区分所有者の団体である原告が,生命及び身体の安全等という法律上の利益を有していると認めることはできず,また,区分所有建物を所有しているものでもない原告が,財産としての建築物という法律上の利益を有しているということもできない。

エ この点につき,原告は,区分所有者に原告適格が認められる以上,区分所有者の団体である原告にも原告適格が認められるべきである旨主張するが,区分所有者に原告適格が認められるとしても,それにより直ちに区分所有者の団体である原告に原告適格が認められるものではないから,原告の上記主張を採用することはできない。
また,原告は,区分所有者のために建物並びにその敷地及び付属施設の管理を行っていることや,規約に規定された業務を行っていることを理由に,原告適格が認められるべきである旨主張する。
しかし,前述のとおり,本件条例4条3項は,同項の認定に係る建築物の火災等による被害が直接的に及ぶことが想定される周辺の一定範囲の地域に存する他の建築物についてその居住者の生命,身体の安全等及び財産としてのその建築物を,個々人の個別的利益として保護していると解すべきであるから,当該範囲の地域に存する建築物に居住し,又はこれを所有する者については,上記利益を有しているということができるものの,建物等の管理や一定の業務を行っているにすぎない原告について,上記利益を有しているということはできないから,原告の上記主張を採用することはできない。

オ したがって,原告は,本件条例4条3項の取消しを求めるにつき法律上の利益を有するものであると認めることはできない。

(2) 原告の区分所有法26条4項に係る主張について

ア 区分所有法26条4項は,管理者は規約又は集会の決議により,その職務に関し,区分所有者のために,原告又は被告となることができる旨規定しているところ,原告は,原告の規約において原告の代表者である理事長を管理人とする旨の規定があるから,原告にも原告適格が認められる旨主張する。

イ しかし,区分所有法は,区分所有者の団体と管理者とを明確に区別しており(同法3条,25条等参照),規約において区分所有者の団体の代表者を管理者とする旨の規定があるとしても,それにより直ちに区分所有者の団体自体が管理者となるわけではないことは明らかである。

ウ したがって,原告代表者につき原告適格が認められるからといって,そのことにより直ちに原告に原告適格が認められるものではないから,原告の上記アの主張を採用することはできない。

(3) いわゆる任意的訴訟担当について

ア 原告は,いわゆる任意的訴訟担当として,本件認定の取消しを求める訴えの原告適格を有する旨主張する。

イ ところで,任意的訴訟担当は,民訴法が訴訟代理人を原則として弁護士に限り,また,信託法11条が訴訟行為をさせることを主たる目的とする信託を禁止している趣旨に照らし,一般に無制限にこれを許容することはできないが,このような制限を回避し,又は潜脱するおそれがなく,かつ,これを認める合理的必要がある場合には,許容されるときがあると解すべきである(組合員の任意的訴訟信託につき,最高裁昭和42年(オ)第1032号同45年11月11日大法廷判決・民集24巻12号1854頁参照)。

ウ そこで,原告に任意的訴訟担当を認める合理的必要の有無について検討すると,個々の区分所有者につき本件認定の取消しを求める法律上の利益が認められる場合においては,個々の区分所有者が本件認定の取消しを求める訴えを提起すれば足りること,区分所有法26条4項は,区分所有者全員を代表する立場にある者が全員のために訴訟追行をすることができる制度を設けることが適当であるとの趣旨から,管理者に対し,一種の任意的訴訟担当を認めた規定であるところ,管理者以外に区分所有者の団体自体に任意的訴訟担当を認める必要性は乏しいこと,前記認定事実のとおり,規約39条によると,原告代表者は,区分所有法25条に定める管理者とされていることなどを総合して考慮すると,原告に任意的訴訟担当を認める合理的必要があるということはできない。

エ したがって,任意的訴訟担当を理由に,原告が本件認定の取消しを求める訴えの原告適格を有するということはできず,原告の上記アの主張を採用することはできない。

(4) 小括
以上のとおり,原告が本件認定の取消しを求める訴えの原告適格を有するということはできない。

4 争点(3)について

上記3のとおり,原告が本件認定の取消しを求める訴えの原告適格を有するということができないから,争点(3)について判断するまでもなく,本件訴えのうち本件認定の取消しを求める部分は不適法であるといわざるを得ない。

5 争点(4)について

(1) 処分性について
行政不服審査の対象となる処分(行政不服審査法2条1項)は,公権力の主体たる国又は公共団体の行為のうち,その行為によって,直接に国民の権利義務を形成し,又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいうものと解されるところ,本件認定に処分性が認められることは,前記2で述べたとおりである。

(2) 原告の審査請求適格について
行政不服審査法4条にいう「行政庁の処分に不服がある者」とは,当該処分について不服申立てをする法律上の利益がある者,すなわち,当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうと解すべきであるところ,前記3のとおり,原告が本件認定の取消しを求める法律上の利益を有するということはできないから,原告は本件認定の取消しを求める審査請求適格を有しているということはできない。

(3) 原告のその余の主張について

ア 原告は,新宿区長が本件認定につき処分性がない旨の主張を行っていないにもかかわらず,新宿区建築審査会が本件認定につき処分性がないとの理由で本件裁決をしたことが違法であるなどと主張しているものと解される。
しかし,行政不服審査法は,審査庁が当事者の主張しない事実を職権で探知してその存否を調べることを許容していると解すべきであるから(同法27条ないし30条参照),当事者である新宿区長が主張していないにもかかわらず,本件認定が審査請求の対象となし得る処分に該当しないことを理由に,審査庁である新宿区建築審査会が審査請求を却下したことが,直ちに違法であるということはできず,また,当事者に意見を求めなかったからといって,違法であるということもできない。
さらに,前示のとおり,本件認定には処分性があるから,本件認定に処分性がない旨の新宿区建築審査会の判断は失当ということになるが,前示のとおり,原告は本件認定の取消しを求める審査請求適格を有しているということができないから,本件審査請求を不適法であるとして却下した本件裁決は,結論において正当であり,違法であるということはできない。

イ 原告は,建築基準法94条2項が建築審査会は審査請求を受理した日から1箇月以内に裁決をしなければならない旨規定しているところ,新宿区建築審査会が本件審査請求を受理した日から約6箇月後に本件裁決をしたことが違法であると主張しているものと解される。
確かに,建築基準法94条2項は,審査請求手続の簡易迅速の観点から,建築審査会は審査請求を受理した日から1箇月以内に裁決をしなければならない旨規定しているが,この規定は訓示規定であると解するのが相当であるから,審査請求を受理した日から1箇月以内に裁決がされなかったことをもって,直ちに当該裁決が違法であるということはできない。
したがって,新宿区建築審査会が,本件審査請求を受理した日から1箇月以内に本件裁決をしなかったことをもって,直ちに本件裁決が違法であるということはできず,また,前記認定事実のとおり,新宿区建築審査会は,平成17年1月12日に本件審査請求を受理した後,同月27日から同年4月6日にかけて原告と新宿区長から弁明書等の書面の提出を受け,同日口頭審査を行い,さらに同年5月30日に原告から反論書の提出を受けた上で,同年7月6日に本件裁決をしているのであるから,上記審理経過を考慮すると,審査請求を受理した日から約6箇月後に本件裁決をしたことが違法であるということはできない。

(4) 小括
本件裁決は本件認定が処分に該当しないことを理由に本件審査請求を却下したものであるところ,以上のとおり,本件認定は処分に該当するものの,原告は本件認定の取消しを求める審査請求適格を有しているということはできないから,本件審査請求を不適法であるとして却下したことは結論において相当であり,また,その他に本件裁決が違法であるという事情を見いだすこともできないから,本件裁決は適法であるというべきである。

第4 結論

よって,本件訴えのうち,本件認定の取消しを求める請求に係る部分は不適法であるから却下し,原告のその余の請求は理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第38部

裁判長裁判官 杉原則彦
裁判官 鈴木正紀
裁判官 松下貴彦

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